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第3章 邂逅~エルミール

お待たせしました。3話連続投稿です。最初は短め

エルミールside


 それから、生まれてこの方味わったことのない幸福な旅が3か月続き、もうすぐ年が暮れるという季節になった。この3か月の間、北の帝国だったり、リューバルト大公国のような小さな国家、政教一致している国家を基本的には数日、時には1週間程度滞在した。

 彼女はいつしか、この幸福が一生続けばいいのに、と思ってはいたし、アドリアンの気持ちも知っていた。しかし、やはり、いつか誰かが自分の存在に気づいてしまうのではないかという不安もあった。

現在エルミールたちがいるのは、オイドリヒ王国から馬車で6日かかるベルヒリク・ツァーブルという名前の都市国家だった。


「うん、やっぱりエルは何を着ても綺麗だ」

 銀髪の男――エルミールをオイドリヒ王国から連れ出したアドリアンは、お世辞でもなんでもなくそうエルミールを綺麗だ、と言った。アドリアンは、リューバルト大公としての正装――金色のモールがついた赤い軍服だった。今日は、新たな総督の就任記念パーティーが開かれ、2人は参加するのである。

ちなみに、あのリンデンでの一件以降、エルミールへ積極的にスキンシップをとってくる。アドリアンから見た場合はわからないが、エルミールから見た場合、互いに『好き』という感情は持っているものの、結婚が前提でのお付き合いではなく、今のところはあくまでも仕事上のパートナーとして同行している。なので、夫婦(もしくは恋人)らしいことはほとんど何もしていない。

「このドレスは、リンデン王国産の絹を使っていらっしゃるのですね」

 若草色のシンプルな形のドレスは、ふわりとした髪とは対照的になっているので、大人びて見える彼女の見た目年齢を少し下げていた。

「そうだよ。こないだ、王国を出る前にエルのドレスを仕立てようとしたら、グスタフが、あいつ持ちで送ってくれるって言ってくれてさ。3日前に届いたんだ」

 彼はエルミールの首にこちらもまたシンプルな首飾りをつけた。つけた後、久しぶりに丁寧に巻かれた髪を一房取り、口づけた。

 瞬間、エルミールの肩がビクンとはねた。

「ごめん、驚かせて」

 名残惜しそうに髪を離した後、いつものようにエルミールをエスコートするために手を差し伸べた。

「じゃあ、行こう」


 会場は、沿岸部の都市国家らしく海に面したパーティー会場だった。2人は比較的早く会場についたらしく、客は少なかった。

「素敵ね」

 エルミールは、都市国家らしく内部は質素だがモダンな造りをしている建物に感銘を受けた。

「そうだね。海洋国家らしく、白色を基調にしているね」

 そんなエルミールをアドリアンはまぶしそうに見ていたのに、エルミールは気づいた。

(アドリアン様の方がまぶしいくらいなのに。とてもくすぐったい)

銀色の髪が光の反射を受け、余計に煌めいていた。


 アドリアンとの行動をもとにしている間、リンデン王国での結婚式などを除いて、基本的に1対1の会談形式の外交が多くエルミールも気兼ねなく参加したが、たくさんの人が集まる場合は、よく離宮に来ていた兄達に出会わないとも限らないため、できるだけ出席を見合わせていた。しかし、新総督はクーデターによりその地位を簒奪したため、今回の就任パーティーは新総督の『箔付け』のためのお披露目という側面もあり、招待状には『お願い』ではなく、『強制(ないしは脅迫』に近い文言が書かれていた。

 もちろんパートナーなしでも参加は可能であったが、あのプライドだけは高い父親はわざわざ時間をかけてこんな都市国家の『簒奪者』のパーティーに参加しないだろうという、思いもあり、参加することを決めたのだ。ちなみに、アドリアンは素性については尋ねなかったものの、『誰かに遭いたくないだろう』と察してくれ、無理矢理パーティーに出席させるまねはしなかった。

 もちろん、髪の色を染め粉で変化させるという方法もあったが、アドリアン(・・・・・)がエルミールの髪が痛む可能性を懸念していやがったのだ。なので、大きな扇を与えてもらい、顔を隠せるようにした。


「エル、緊張している?」

 アドリアンはエルミールの手の震えに気づいていた。会場の建物に入ってきた人たちを見た途端、手が震えだしたのだった。

「ええ。やはりパーティーは苦手なのです」

「そっか。新しい総督に挨拶したら、帰ろう」

 エルミールの手の震えを落ち着かせるように、アドリアンは彼女の手を撫でた。撫でられるだけでも、少し落ち着ける気がしたので、なされるがままになっていた。

「ほかの方々とはお話にならなくて良いのですか?」

 彼女は、裏方として参加(・・)していたため、パーティーがどのような場であるかは知っていた。

「ああ、構わないさ。エルの方が大事だから」

 すっと、彼女を抱き寄せた。すると、周りから招待客、もしくは招待客のパートナーの女性の黄色い歓声が上がった。先ほどから、アドリアンに向けてちらほらと女性からの視線を感じていたが、その黄色い歓声は彼に向けられたのか、他の招待客に向けられたものなのかは、エルミールはアドリアンに抱き寄せられており、視線の先が彼でいっぱい過ぎて分からなかった。

「どうやら、リンデン王国から王子様達(・・・・)が現れたみたいだ」

 その言葉を聞いた瞬間、エルミールは意識を飛ばし、ガクッと膝から崩れ落ちた。

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