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第2章 旅路の中で~エルミール

エルミールside


 それから旅は快適だった。


 今まで仕えてくれた人たちはこの旅立ちにとても喜んでくれ(『お嬢様はこの国に囚われているって思わないでくださいませ』とかの純粋な喜びから『あんな(・・・)国王の娘であることなんて言ってはいけませんからね』とかの自分の父親と言われている(・・・・・・・・・)国王に対する愚痴や嫌味などを結構好き勝手言ってくれた)たのだ。

 別れ際、オイドリヒやリンデン王国がある大陸とはまた別の大陸にある『煌』と呼ばれる国の物語(もちろんオイドリヒで使われる言語に訳されたものだ)の一節を応用して、

「皆さん、今までありがとう。また戻ってくるつもりではいます。それまで、皆さんのお好きになさっていてください。王宮に戻ってくださってもよろしいし、もし、可能であれば離宮に仕えていてください」

 と言った。



 それから、身支度を済ませ、迎えに来たアドリアンに連れられ、外見は質素だが中は豪奢な馬車に乗せられ、オイドリヒ王国を旅立った。

 馬車に乗って揺られ始めてから最初の数時間、アドリアンは手紙の類を見ながら考え込んでいた。彼は、次の行き先は直前まで決めず、出るときに方角を示し、その方角にあり、招待されている国へ向かうという。

「うーん。まずはウルキズ帝国かな」

 端正な彼の顔が歪められた。かなり渋々といった表情だ。

「何か問題があるのですか?」

 エルミールは窓の外を眺め、生まれてこの方見たことのなかった景色を堪能していたが、アドリアンのその言葉に気を馬車の中へ戻した。ちなみに、彼女が今着ているのは、マナーの講師・スペリアル夫人が少し前にくれた可愛いフリルがついたピンクのドレスだ。

「問題というか「問題ですね」」

 アドリアンの言葉にかぶせたのは、彼の秘書兼護衛であるラウルだった。

「先代の女帝の息子がこちらに婿入りしているのですが、たいそうなお頭の出来でして」

 彼は長い黒髪に暗赤色の瞳を持ち文官よりの風貌であった。

「ああ、俺の弟――レオンっていうんだが、他の貴族どもをすべて押さえつけられるあいつが匙を投げるくらい馬鹿なんだよね」

「全くです。アドリアン様とレオン様ご兄弟の母君たちがそろそろやばい(キレそう)って、レオン様ご自身が言ってらっしゃるくらいですから」

 どんな人物なんだろうかと、エルミールは想像してみたが、駄目だった。それを察したのか、

そいつ(馬鹿)を想像しなくていい」

「ええ。エルミール様が考える価値なんぞ、アレにはありません」

 アドリアン、ラウルからそれぞれ止められた。入り婿したその女帝の息子というのは相当お頭の悪い人間(馬鹿)らしかった。

「そうでしたか」

 エルミールはそれ以上深く追及することはなく、その話題を打ち切った。


「ならば、これから沿岸部へ移動するのですから、リンデン王国に渡りましょう」

 ラウルが数多くの手紙のうち、青基調のと灰色基調の2つの紋章が描かれた封筒を取り出し、アドリアンに手渡した。

「リンデン王国か」

「ええ、あそこはあなたの2つ下の王太子が結婚するとかでその招待が来ています」

 今度は満更でもなさそうな声だった。

「なるほど。ザザも留学したい国だって言っていたから、彼に話をしてみるついでに(グスタフ)の結婚式を見に行こうか」

 エルミールは彼の行動力と、結婚式への参列を単なる(・・・)外交としないところが彼らしいと思った。

「分かりました。では、船の手配を今日止まる宿場町で手配してまいります」

「うん、ありがとう。俺はいつもどおりでいいけれど、エルミールは女性なんだし、最高級の船室を用意してやってよ」

 アドリアンはそれが当たり前のようにラウルに命令した。

「姫君の件は当然です。ですが、今回からはアドリアン様もその隣の部屋でないと、何かあったときに対応できませんので、お二方とも特等室を確保してきます」

 ラウルも、アドリアンの気取らない性格に似ていた。エルミールは、父と兄達を見てきた(正確に言えば父については自分に対する嫌悪感の話を聞いた、が正しいが)限りでは、男は『大げさに飾る』人種だと思っていたが、そう人種でない人もいるらしく、アドリアンやラウルといった人間と触れて、とても新鮮な感覚を感じ取った。

「あ、そうだね。もちろん、金に糸目はつけなくてもいいから」



 それから数時間走り、夕方に港町であり、宿場町であるオイドリヒ王国の端にあるエディーラにつき、3人は馬車を降りた。その後、ラウルはリンデン王国行きの船を手配しに行き、エルミールとアドリアンの2人は先に宿へ向かっていた。しばらく無言が続いていたが、

「あ、エルミール姫」

 アドリアンからふと思い出したようにエルミールは呼び止められた。

「何でしょう」

 歩みを止めることなく彼女は答えた。

「君ってさ、『自分が本当に俺らについてってもいいのか』なんて思っているの?」

 この道中ずっと考えていたことを当てられ、エルミールは驚いた。

「様子を見て居ればわかるよ」

 彼は頭一つ分小さいエルミールの頭を撫でた。

「君ってはっきりとした素性はわからない。でも、君の仕草を見ていると絶対に王族かその親戚って言われた方がすんなりと納得するんだよね――ああ、勘違いしないでほしい、本来の身分を言えってことではないし、言いたくなければ言わなくていいからさ。俺は弟のレオンと違って細かい政治のごたごたしたことは苦手だからさ、君みたいな細かいこともできるけれど、外の世界に興味を持っているたくましいお嬢さんを手放したくなくなるんだよね」

 彼はそこで言葉を区切った。そして、歩みを止め一歩前に行き、エルミールの方を振り返った。




「だから、胸を張ってついてきてほしい。リューバルト大公に望まれているってな」


(そうね、そう捉えていいんだ)

 離宮からここに来るまでずっと考えてきたことが、すっと溶けてなくなった。

(ずっとこの人といたい。この人が奥さんを迎えるまで)

 それは、麻薬にも似た想いであると気づくのに時間はかからなかった。

次の話と次の章にはばりばり『両片想い』の登場人物が出てきますが、ほとんどネタバレはないと思います(王太子が『誰』と結婚するかは分かってしまいますが…って、あんまりネタバレじゃないか。たぶん)

少しでもネタバレが嫌な方は、『両片想い』を今月中には完結させる予定なので、それまで待っていてください、よろしくお願いします。

また、前の章でアドリアンの瞳の色に言及している部分がありますが、次の話でその部分に関する種明かしをするエピソードを入れようとしていたことに気づき、そのエピソード用としてもともと設定していた色と他人を勘違いして描写してしまっていたので、色を修正してあります。なので、気が早いですが。次のアドリアンサイドのお話を読む前に一度、前の章を読み直しの上、進んでいただくことをお勧めしております。

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