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第1章 出会い~エルミール

主人公2人の年齢に関する記述が出てきていませんが、一応フラグというか、訳がありまして出しておりません。(誤植ではありません)

また、少し男尊女卑的な描写がありますが、物語上必要でしたので、入れさせていただきました。苦手な方はブラウザバックお願いします。

エルミールside

 エルミール・デュ・アール、オイドリヒ王国第一王女(・・・・)


 この2つの名前は本来ならば(・・・・・)蜂蜜色の髪の毛を持つ少女の名前だ。だけれども、もともと軍人であった父親――いや、『彼』に認められてない以上、この場合は国王陛下と呼ぶべきだろう――は、自身の子供を男児のみ欲しがった。当然、生まれてくる子供の性別を選択する技術など存在しない――この世の中に存在してはいけなかったのだが――ため、先に4人男児が生まれていたのは不幸中の幸いだったのだが、最後にと思って生まれたのが、彼女――エルミールだった。彼女を身ごもった王妃は、国民からも喜ばれたものの、出産後、女児であることが判明するや、男児のみが欲しがった国王に殺されそうになった。しかし、機転を利かした兄達の乳母や産婆たちによって『生まれてくるときの事故で、死んだことにされた』。その後、彼女は王都から離れたところにある離宮で、国王にばれないようにひっそりと暮らしていた。


 あの夜。離宮で夜会が開かれるのを聞いて、いつも通り(・・・・・)、目立たぬようにと下級侍女の仕着せを着て、厨房に閉じこもることにした。

幼いころ、乳母たちが働いているのを見て置かれている境遇についてはわかっていたものの、自分も働かねばならないという思いが常にあり、実行しようとしたら、全速力で止められたものの、何とか説き伏せて、夜会の時だけ手伝わせてもらえるようになった。


「ありがとうね、お嬢」

 夜会が終了し、すべての客や主催者(王家)が帰宅した後、厨房長はエルミールに賃金代わりにエルミール用に除けてあった高級食材を使って、品数は多くないがかなり手の込んだ料理を作り、彼女に振舞った。ここ(離宮)で働く人間は、エルミールの兄達の乳母の一族(と言ってもかなり高位の一族なのだが)の息のかかったものばかりで、いずれも彼女を邪険に扱うものはいなかったのだ。

 そのため、王女らしいマナーや知識なども教えてもらうことができていた。

「ヨゼフこそありがとう」

 エルミールも礼を述べた。その後、厨房に併設されている食堂で夕食をいただき、片付けまで行って、自室に戻るために外に出た。


「アザミに、ヒナゲシに、アカシアに。これは何でしょう」

 部屋に戻る道すがら、咲き始めている花の名前を言っていた。

「そろそろ薬草を積み始めてもいいころかしら」


「よく君は知っているね」

 突然背後から、男性に声をかけられた。エルミールはゆっくりと振り返った。

「あ…」

声をかけた男性は、アドリアン・シャルマン――隣国の大公国の君主である事に気づいた。

「うわぁ、君って天使かな?」

 彼女は、アドリアンの目を疑った。この場にいるのは、下級侍女の仕着せを着た女が一人。そんな女に声をかけるはずがないと思ったが、

「うーん、やっぱり知識もあるし、『そこらへんに咲いている薔薇以外の花なんて、どれも一緒』なんて言っている(ほざいている)女たちを見ていると、君と一緒の方が何倍も旅を楽しめるな」

 途中、とんでもない言葉が出てきた気がしたが、銀髪で、灰色の瞳を持つ男性、アドリアンはそう笑いながら言った。


「僕と一緒に、庭の外を見に行かないか?」

 彼にそう誘われた。エルミールの方も、その提案に、いや、アドリアン自身に一目ぼれした。

(彼の隣に立って、あの男(・・・)を見返したい。彼とならば、世界征服だって出来そうよ)

 エルミールがそんなことを思っていると、

「名前は言わなくていい――あー、でも、言ってもらわないと、今後呼ぶときに『お嬢さん』って、連呼することになっちゃうな」

とアドリアンに言われた。アドリアンはその言葉の最中に、自分で言っていて、赤くなったことにエルミールは気づいた。エルミールはからかうように、

「ふふ、面白い方ですのね、リューバルトの大公様はかなり遊び人っていう噂なのに、そんな風に照れられることもあるんですね」

 と、緑色の瞳を細め、笑った。

「……俺のことを知っているのか…」

 アドリアンはエルミールの言葉に呆けた。そんなアドリアンに、自分の特徴を知って言っているのかと無性につかみたくなった。

「ええ、だって、銀色の狼さんみたいな風貌をしていると聞いていたものですからね。こんな暗いところでも、星の光に反射している銀髪を持った男性はこの国にはいませんのよ?」

 アドリアンの目をまっすぐ見つめながら、答えた。

「私のことは、エルミールと呼んでください、アドリアン様」

 エルミールはアドリアンに淑女のマナーなんぞ忘れ抱きつき、アドリアンはそんな彼女を抱き返した。


「私、行ってもいいのよ」

 エルミールは、最初に言われた問いに答えた。

「へ?」

 その答えに、アドリアンはどういう意味だと、聞き返した。

「…察しの鈍い方ね、あなたの問いに答えたんじゃない。『僕と一緒に、庭の外を見に行かないか?』って言う問いに」

 エルミールは自分で忘れてどうするんだよ、という風に少し拗ねた声をした。

「え、いいの?」

 逆に最初に問いかけをしたアドリアンは戸惑っていた。


「ええ、いいわよ、だって私がいなくてもだれも気付いてくれやしないからね。まあ、ばあやとクレルニー夫妻にだけは挨拶させてね」

 そう言い、思いっきりエルミールは背伸びをしてアドリアンに口づけた。


 そして、翌日、アドリアンを乳母や厨房長などに引き合わせ、これからは彼と共に旅に出ると伝えた。皆、アドリアンの正体に気づき、喜んで送り出した――もちろん、アドリアンにはきっちりとくぎを刺して。


 そうして、エルミールとアドリアンの旅は始まった。

国王のやり方には皆さんムカついていたんですかね…

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