泡沫の続き
自サイトでも公開しています。
『エメ、お前はもっと気楽に考えればいい』
エメはそう、生前の伯父が言っていたのを思い出した。
彼は先だって逝去したアドリアン大公の弟、レオン公子とザザの第1子として生を受けた。本来ならば、伯父アドリアンの息子か女婿が大公位を継ぐはずだった。
しかし、彼とその妻エルミールは子供を作らなかった。真実はどうであるかわからないが、巷では、どちらかが不能であった、という大公家を侮辱するような噂もあった。噂はどうであれ、彼らに子供がいなかったので、弟、そしてその子供であるエメにお鉢が回ってくるのは必然だった。
伯父の急逝により大公位を継いだエメには、決定的に実務能力が足りなかった。しばらくは、母であるザザや伯父や父の代から仕えてくれていた信頼できる家臣に補佐をしてもらった。
しかし、世の中はそう甘くなかった。南方のオイドリヒ王国や『北帝国』はともかく、西方のベルガランデ王国がもうすぐこのリューバルト公国にたどり着くだろう。
この国は自分の代で終わるだろう。
すでに、自分の寿命も残りわずかで、息子に大公位は渡しているので、エメ自身の代で終わる、という訳ではない。
しかし、この国は亡びるだろう。そのきっかけを作ったのは紛れもなく自分だ。
おそらくこの国が攻め滅ぼされるときには、息子はこの国と運命を共にするだろう。だから、せめて。
どうか生き延びてほしい。孫娘よ。