第4章 それぞれの想い~デニス王子視点
連続更新2話目です。
デニス王子視点
あの夜会から1か月。
あの忌々しい都市国家からの使者のせいで、僕たちは外交に出かけることにしたが、それはそれでよかった。なぜなら離宮を出てから見つかっていなかった妹に会えたからだ。彼女は隣国の大公と恋に落ちたらしく、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだった。どうやら、一番反対しそうだった兄貴と末弟は意外にも反対していなかった。だが、僕に分からないのが、あの兄貴より年上の大公に惹かれたエルミールの気持ちだ(あとから知ったのだが、あの大公は妹の年齢を知らなかったらしいが)。会場で最初に見た時は、「『幼女趣味』に絡まれている妹」の図しか想像つかなかった。
で、オイドリヒ王国に戻ってきてから、兄貴と末弟は国王を追い落とす最終段階に入ったらしい。軍事専門の僕たち双子には用事はない。兄貴と末弟がいればことは足りる。
数週間経った、ある日。
オイドリヒ王国王都、王城内大広間――
「眺め最高だねぇ」
兄貴は、この空間を玉座の近くから下を眺めながら、そう軽く言った。
「でも、もうこの眺めが見れなくなっちゃうって、なんか孤独じゃない?」
そう、今日は国王の弾劾する日だ。偶々、大公が『遊びに』来る日なだけ、なのだ。
あの大公はあの日、妹と再会した時に見た正装で来た。国の長としてくるのだから当たり前ではあるのだが。国王や僕たち4兄弟、宰相をはじめとする臣下たちが勢ぞろいしているところに、大公はあの日の従者と2人でやってきた。
「よく来てくれましたな。国で待っていらっしゃるレオン殿下も、殿下に聞くことができない決済が溜まりすぎて、さぞ大変な状態になっていることでしょうな」
国王は大公に訪問に対する礼を言った。ただ、その眼は、『国を空けっ放しにして、よく外国でのんびりと暮らしていますな。さっさと国に帰れ』と嘲り笑っているのだが。その言葉に大公は、あは、と笑ってから、
「まず、突然の訪問で申し訳ありません。レオンなら元気にしていますよ。昨日も会って、今年度の税の還元について話し合ってきましたから」
と動じず、彼もまた、眼だけ笑わずに返した。さすがは『外交上手の大公』。4兄弟の中でも特に僕たち双子は、この国王に弱い。普段からろくに目を合わせていない。というか、出来ない。だが、この大公はそれをやってのけている。臣下たちも驚いている。
「こちらこそ失礼を承知で言わせていただきますと、この国には、女性はいないのでしょうか」
そう続けると、途端にあの国王の機嫌が悪くなったのを感じた。
「ふん。女なんぞ、子を産むだけの道具にすぎん」
その言葉を受けても、兄貴がまだ動かないのは不思議だった。しかし、すでに末弟は定位置にいなかったことに気づいた。臣下たちもかなり、不満がたまっているみたいだぞ?
「王族には優秀な男児のみでよい。だから今は、女児が生まれた場合は殺して居る」
あの国王の発言の度に、エリックはかなり不機嫌になった。まあ、僕でもかなりムカつくんだけれどね。特に最後の一文、エリックは剣の柄に手をかけている。僕はそんなエリックを押さえて、ある扉を見つめた。そろそろ何かが来るような気がする。
「なんだか嫌になりますねぇ」
そう言って、大広間へ入ってきたのは末弟だった――《妹》を連れて。
「何なんだ、ジェラール。ここは女人禁制だぞ」
突然の乱入に国王は喚いた。
「女人禁制?いつの時代ですかね?あんたは、『そんな法律、今の時代にはそぐわない』だの『今の時代には、革新技術が必要だ』だのほざいときながら、いつの時代から引っ張り出してきているんですか?」
普段は、おとなしい末弟がボロクソに言っていた。
「黙れ。剣技の一つもできないくせに、普段は法律や文化に詳しいから徴用しているだけということを忘れているのか、ジェラール」
あの国王につける薬はなさそうだった。
「あなたこそいい加減気づいたら、どうなのですか。俺らがあなたに従っていたのは、ただ自分たちの基盤を確固たるものにしたかったからですよ、父上、いえ、ルネ国王」
兄貴が臣下たちに手を振った。すると、宰相が中央に――状況がなんだか予想と違っている、と感じていた大公の隣に出てきて、兄貴に向かって頭を下げた。すると、他の臣下たちもそれに倣った。
「お前ら、何を――」
あれは玉座を立って吠えた。すると、代表して宰相が静かに述べた。
「我々はあなた様に対する不信により、すでにクレマン王太子殿下に忠誠を誓わせていただいております」
「そういうことだ。だから、今から俺がこの国の王として立つ。決してあなたのようにはしない」
兄貴がそう宣言した。すると、臣下たちの間から拍手が起こった。あれは、
「勝手にしろ」
と言い、その場を去ろうとした。
「ああ、待っていたますか」
兄貴は末弟にアイコンタクトをとった。
「何だ?」
自分が受け入れられないことを知るや否や、やけを起こそうとしているあれは訝しんでいた。
「今、この場で前国王ルネ・デュ・アールが亡き王妃マリーとの間に生まれた5人の子供のうち、最後の一人――14歳のエルミールについて、今、この場を持って『生まれながらのオイドリヒ王国王女』の権利を有していると宣言する」
その宣言とともに、エルミールはジェラールによって、兄貴――新国王のもとへ連れていかれた。あれは真っ青になっていた。何せ生後直後に事故死したと考えられていたら。
「何故、お前が生きている…」
「もうすでに示したことでしょう」
「――」
「あなたの考えには人はついていかなかった。それがこのような結果になった答えですよ」
兄貴は涼しげに答えた。
そして、あれは捕縛された。兄貴が『生まれながらの王女』とエルミールを宣言した以上、そのような立場に追い込んだものの責任は取らねばならない。
で、一嵐去った後の大広間――
「エル」
4兄弟やホスト国の貴族たちを気にせずに大公は妹に駆け寄った。
「アドリアン様」
彼女も当然だが、うれしかったようだ。ほんのりと頬が赤い。彼女もまた、大公に近づいた。2人は、ほんの、手を伸ばせば触れられる位置で止まった。
「待たせた。私、リューバルト大公アドリアン・シャルマンは、オイドリヒ王国第一王女エルミール・デュ・アール様に求婚したいのですが、受けてくださいますでしょうか」
と、子供が読むおとぎ話の騎士さながらに妹に跪き、懐から出した小さい箱のふたを開けて差し出した。
「はい」
彼女はそう答え、アドリアンに抱き着いた。
ほかの3人は、妹が大好きながらも、彼女の幸せも願っていたので嬉しく、互いに頷きあっていた。
――――こうして、姫は無事に幸せになりました。
次回更新でラストです。