第4章 それぞれの想い~エルミール
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エルミールside
アドリアンに会いたい、と思わなかった日は一日もなかった。兄達もアドリアンとの交際については反対していなかったから、大丈夫だと思っていた。
(お兄様は何をするのだろう)
今、彼女は旅に出る前にいた離宮に戻っていた。これ以上動けば今度はアドリアンやお兄様たちに迷惑をかける。エルミールはおとなしく再び内側から外側の勉強をしていた。
彼女たちや離宮に仕えてくれた使用人は、エルミールが戻ってきたときに一人たりとも欠けることなく揃っていた。
(そもそもこの環境は、お兄様たちをはじめ、心ある人たちが作ってくださったもの。私は、これから恩返ししていかなければならない)
エルミールにとってこの環境はすでにあったものだった。しかし、今まで読んできたおとぎ話や伝記に出てくる人たちの中で、自分と同じように親から見捨てられていたものの、このように整えられた環境で育った人は少ない。それは、誰にも大切だと思われていなかったのだ。それを自分で切り開いたから後世へ伝えられた、という事を彼女は忘れ、自分だけが悠然と暮らすところだった。
(私は、どうすればよいのかしら)
エルミールは迷っていた。もちろんアドリアンには会いたい。だが、このまま兄たちが何かをしているのをただ見守っているだけ、そして、ただアドリアンについて行けばいいのか、この国のために何かをしなければならないのではないのか、そんな思いもあった。
「姫様」
そんな思考を引きちぎるように、エルミールはマナーの講師の一人に声をかけられた。
「姫様は何かを迷っていらっしゃると見受けられます。おそらく、ただ姫様はじっとしていらっしゃることができない質ではないかと思います」
彼女はその茶色の目を伏せた。
「しかし、姫様が本来受けていらっしゃるはずの特権を、受けていらっしゃらないのは、我々――臣下が君主である国王の暴挙を諫められなかったためでございます。これらの責任は、我々――臣下と今、もうすでに力を持っていらっしゃる姫様の兄君たちに任せてみればよいと思います。そして、何より」
エルミールは彼女に抱きしめられた。まるで母親のような暖かさだった。
「姫様がお幸せでいるのが我々にとって喜びでございます」
その言葉を聞いた瞬間、エルミールは頬を伝う存在に気が付いた。
「アドリアン様は25歳で、姫様は14歳。10歳以上も差があるお二人が相思相愛ってまるでおとぎ話のようですよ」
彼女はエルミールの頬を拭い、そう続けた。
「姫様、ほとんどのおとぎ話の終わりは幸せな終わりですよね?」
その発言に再びエルミールは夫人の胸に飛び込み、泣き続けた。