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[完結]1-A 第6話 デコポンの包囲網を打ち破れ!

「通称、『デコポン』よ」

「ええええええええええええ」


 ハジメの視界を埋めるのは、どこもかしこもオレンジ色。空洞内を埋め尽くさんばかりのデコポンが、群体となってミカンたちに向かって襲い来る。

 予想をはるかに違えた現状に、ハジメはあんぐりと開けた口が戻らない。


「デコポンって……いやデコポンって……」


 デコポンはその巨体を持て余すかのように、お互いにぶつかり合い押しのけ合い削り合い、我先われさきにと進んでくる。デコポンに弾かれたデコポンは進む軌道を変え、曲がった先でまたデコポンとぶつかる。空洞内はデコポンがデコポンを弾き合う摩訶不思議まかふしぎな状況に変化していた。


「まずい。まずいまずいどうしよう私1人ならともかく高梨君が……」


 彼女は自らの口を覆うように手を当て、必死に何かを考えている。ハジメの目には奇怪なモノが増えたようにしか見えないが、彼女にとっては笑えない状況になっているようだ。

 奇妙な事象を前に別々の反応を見せる2人。

 そんな2人が乗るミカンよりも前に先行していた、1つの空飛ぶミカンにデコポンの群れが接触した。その直後――両者が爆発した。

 ミカンとデコポンの接触点を中心に、オレンジ色の花火が舞い踊る。突如咲いた閃光の華がハジメの目を奪った。少し遅れて耳障りな高周波と鈍い爆発音を伴いながら、肌を震わせる波動が2人を突き抜けていく。あやうくミカンの上から吹き飛ばされそうなほどの衝撃だ。


「…………は?」


 ミカンの上を転がって、ミカンを支えに身体を起こして。そんなハジメがあまりの事態に目を丸くする間にも、先行するミカン達が次々とデコポンの魔の手にかかっていく。

 漂うミカン達は必死にデコポンを避けようと軌道を変えるが、空洞内を埋め尽くすほどデコポンからは逃れられない。デコポン同士密集し合い、まるで1つのデコポン壁と化したオレンジ色の暴力。これにはふよふよと浮かぶミカンごときでは到底太刀打ちできない。


(いやこれは……いや……ええ……??)


 為すすべもなく群れにまれ、爆散していくミカンたち。

 吹き付ける爆風に耐えながら、ハジメは事態を眺める。眺めるしか出来ることがない。

 咲き続けるオレンジ色の花を眺めうち、ハジメはある変化に気付いた。

 目に見えて数を減らすミカンたちとは違い、押し寄せるデコポンの群れは一向に減る様子がない。お互い対になる形で爆発しているのだから、当然デコポン陣営にも被害が出ているハズだ。

 だがしかし、爆煙が晴れた向こうからは何ごともなかったかのようにデコポンが進んでくるではないか。おそらく散ったデコポンの穴を後続のデコポンが埋めているのだろう。なんというデコポンの人海戦術……!!

 爆散するミカンとデコポン。両者が織りなす光の波動に包まれながら。

 ハジメの脳裏に1つの疑問が湧き上がる。それを憎々しげにデコポンをにらむ彼女に向け、答えを求めた。


「なあ。1つ疑問があるんだけど」

「……何?」

「デコポンに当たったミカンが吹っ飛んでるけどさ……アレって、デコポンに俺たちが当たったらどうなる?」

「当然、爆発するわね」

「やっぱりか! 少し期待したんだけどな……もしかして、し、死んだり……?」

「はしないと思う」


 どうやら最悪の事態にはならなさそうだ。心のなかで安堵あんどするハジメだったが、安心するのはまだ早かった。続く彼女の言葉はまたもハジメの予想を超えてくる。


「ただ、どこかに飛ばされる。この世界から吹き飛ばされちゃう」

「(飛ばされる?)爆発で吹っ飛ぶってこと?」

「違うよそうじゃない。アレはこの世界の異物を排除はいじょする為に存在しているわ。アレに接触した時点で、この世界から外に飛ばされるってこと」

「?? この世界から出してくれるなら丁度いいような……? むしろありがたいような」

「アレはこの世界から異物を排除するだけであって、排除した異物について一切考慮していないの。だからアレにはじき出された後は『どの世界』に飛ぶか分かったものじゃない」

「??? どの世界って世界は1つだろ?」

「そうじゃないって私さっき言ったよ!? あーもうまどろっこしい」


 ハジメが彼女に会ってからこれまでに、ここまで取り乱した彼女を見たのは始めてだ。どうにも取りつくろった外面をたもてていないように思える。それだけ焦っているということか。


「とりあえず! 下手に説明して異物判定食らったら終わりなの! 納得出来ないだろうけど納得して私について来て!」

「わ、分かったなんかゴメン……」


 こうして話している間にも、2人を乗せたミカンはどんどん前に進んでいる。先行していたミカンたちはほとんどが爆散していった。刻一刻とデコポンが2人に迫ってきている。残された時間はわずかだ。


(もしかしなくてもこれって危機的状況ってやつ!?)


 しかしハジメには驚くくらいしか出来ることがない。うろたえるハジメを横目で見ていた彼女は、覚悟を決めたようにこう言った。


「……高梨君。先に謝っておくわ」

「なんだなんだ!? もう分かることの方が少ないよ!?」

「今からこの群れを突っ切る。相当荒っぽくなるから覚悟して」


 彼女の指先が光ると同時、折り畳まれていたみかん箱が変形していく。長い板状になったかと思えばあっという間に伸び、ハジメの腰に巻き付いてくる。


「なになになになに!?」


 情けない声を上げるハジメの腹を容赦なく縛り上げていくみかん箱。何周か腹に巻き付いた後は肩口~背中を経由した後、足元のミカンに突き刺さる。細長く伸びたミカン箱に膝裏を叩かれ、ハジメは足元のミカンへ倒れこんでしまった。

 あれよあれよと言う間にハジメと足元のミカンがみかん箱によって連結されていく。急ごしらえのシートベルトといったところか。

 ハジメの安全確認を済ませた彼女は、ミカンの上に仁王立ち。足を肩幅に広げ、両手を組んで前を睨む。

 そして頭の上にあ置いていたミカンを右手で掴み、目の前へ。さらにミカンを空中に置くように操りながら手を離し、自らの眼前で回転させ始めた。


(! あのミカンて外せるのか! ずっと落ちなかったのに)

「今、ここに――」


 頭の上からミカンを下ろした彼女。すると彼女の長い黒髪が、毛先の方から変化し始めた。彼女の髪が浮き上がり、オレンジ色に染まっていく。

 それと並行して回転を速め、徐々に光を帯びていくミカン。黒髪を染めていくオレンジ色。


「全てを込めて」


 ミカンからあふれる光が渦となり、辺りの大気をも動かし始めた。オレンジ色の奔流ほんりゅうが、ミカンの上で渦を増す。

 長い黒髪もいまやその全てがオレンジ色に染まり、吹きすさぶ風を受けなびいていた。

 そして彼女は目の前に浮かべたミカンを右手で掴み、さらに強く握り込む。


 見据え狙うはデコポン群。ハジメには心なしか、大空洞全体が震えているように感じられる。


「……いっせーのー……」


 片足を高く上げ、投てきするための準備体勢へ。その体勢からタメを作り――彼女はミカンを放った。


「せっっっ!!!!」

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