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1-F 第1話 レッツゴーミカンセイ

 悪いことが起きる時は、きっと私がなにか悪いことをしてしまった時なんだと思う。

 きっと私は気がつかない内に、何かしてしまったに違いない。

 きっと私が悪いから。だから私に悪いことが起きるんだ。


 ――◇――◇――◇――◇――◇――


 ふと、1人の少女が目を覚ました時には――少女は不思議なトンネルの中に立っていた。


「……どこだろうここ?」


 少女は天井を見上げ、首を振って視界を動かす。トンネルの構造自体はいつも少女が見かけているトンネルと大差ない。

 だが、このトンネルはどこなのか。なぜ自分はここにいるのか。まるで見当がつかない。

 トンネル上部に並んで付設されたオレンジ色の照明が、トンネル内を怪しく照らしている。赤い髪で、赤い両縁メガネをかけて、赤い服を着ている。そんな色々と赤い少女も、今ではトンネルと同じくオレンジ色に染まっている。


「っつーなんかズキズキする」


 頭が重い。視界は晴れているのに、脳内にはもやがかかって晴れてくれない。自分はなぜトンネルの中に居るのだろう。まったく思い出せない。

 少女は片手を自らの頭に当てる。軽くだが頭痛までしてきた。

 痛む頭を抑えながら、少女が背後へ振り向くと――背後には壁があった。白黒2色の市松模様に統一された壁が、トンネルの1面を覆いつくしている。

 明らかにおかしい。目に見える異物に、少女はおっかなびっくり触れてみた。


(変な壁……トンネルの端ってこうなってるものなのかな……いや違う違う)

 

 壁は思っていたよりザラザラしている。そしていやに生温かい。なんとも不思議な壁に触れながら、少女は思考を巡らせた。

 そして寝ぼけた頭が回す思考に、思わず自らツッコミを入れてしまった。


(どっかとどっかを繋いでるからトンネルなんじゃ? 繋がってないってことは……工事中? それにしては綺麗だよね……)


 少女が見る限り、トンネル内に穴を掘れそうな機材は見当たらない。完成したトンネルに、場にそぐわない壁を後から取りつけただけのような。そんな不思議な壁が道を塞いでいる。


「……なんでこんなとこに居るんだろう?」


 考えている内に、少女の口から言葉がこぼれた。誰に聞かせるでもない独り言だ。

 もちろん誰も反応してくれない。そもそもこの場に自分以外誰もいないのだから、当たり前と言えば当たり前である。

 発した声は壁に染み、あっという間に消えていく。耳に入る音と言えば、遠くの方から聞こえるごうん、ごうんと言う機械の音のみ。トンネル内の空気を移動させる、送風機か何かの音だろうか。


(んー……まあいいや。頭痛いし。とりあえず音がする方に行ってみよ)


 トンネルの端だからなのか。どうにもこの場所は空気が悪いように思えてならない。

 目的がなくとも歩いていれば、きっとこの頭痛も弱まってくれるだろう。そう考えた少女は音がする先へ、トンネルが続いている方へ歩み始めた。

 赤い少女はオレンジ色に染まりながら。先の見えないトンネルを進んでいく。


 ――◇――◇―― トマト → モモ ――◇――◇――


 トンネルのような構造をしたミカンセイ空間の中で、桃原とうばる成実なるみは人を探していた。

 ナルミは現在ハジメとは別々に行動している。このミカンセイ空間の核となる、迷いビトを探すためだ。

 トンネルの形をしているものの、やはりミカンセイ空間らしくおかしな点が複数ある。

 トンネル内なのに複数道が枝分かれしている上に、一部の道には――


「……なぜトマト……?」


 道の真ん中にトマトが落ちているのだ。しかも1つでは済まない。

 ナルミは分岐するトンネルの、左側の道のみを選んできた。

 そんなナルミでさえ、道路に落ちていたトマトをゆうに100は確認している。


(……経験上、こういったモノにうかつに触れて、事が好転したことはない。が……)


 ナルミは道に転がるトマトに近付き、悩ましそうに顔を歪めた。


(このままトンネルを左に曲がり続けていても、迷いビトに出会える気がしないのはなぜだ?)


 ミカンセイ空間に来た回数はそう多くないものの、ナルミはこれまでの経験と現状を照らし合わせる。すると不本意ながら、1つの答えが浮かび上がってきた。


(事態を動かすためには、あえてこのトマトに関わってみるのも1つの手だろうか?)


 ナルミは一度、大きく息を吐いた。目をつむり、肩の力を抜いて心を落ち着かせる。


「……やってみるか」


 そして意を決し、アスファルトの上を転がるトマトに向かって、手を伸ばした。



 ――◇――◇―― モモ → ??? ――◇――◇――

 

 トンネル内に足音が響き渡る。かつん、かつんと。誰かが歩む音がする。

 しかしどうしたことか。トンネル内には誰もいない。足音を鳴らすような人の姿は、トンネル内のどこにも見当たらないのだ。

 だがたしかに。ミカンセイ空間であるこのトンネル内を、歩んでいる誰かがいる。

 足音は迷わない。トンネル内にある分岐点においても、足音は一定のリズムで鳴り続けた。

 ある対象に向かって、どこからか響く足音は移動していく。

 春先まで隔週更新を目処にスローペースで投稿していく予定です。

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