表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/90

[完結]1ーE 第8話 おじさんとゆかいな仲間たち 後編

「私から見ても、正直言ってダメそうでしたもん。道家どうけさんが見たらもっとダメに見えると思うんです」

「うーんそうだね。確かに正常な判断が出来そうかって言われると、僕から見て彼はギリギリだった。あのままだと、ちょっと危ういかも、ね」

「なら、止めてあげた方がいいですよ!」

「どうして?」

「どうしてって……失敗しそうなんですよ? むしろなんで止めないんです?」

「ははぁ、なるほどね」


 道家どうけさんは何に納得したんだろう。口元に笑みを浮かべ、目の前で一度、両手を叩いた。なんだか楽しそうな口調で、何を言うつもりなのか分からない私に向かって、こう答えた。


「それは出来ない」

「……えっ?」

「君はやっぱり、彼女に似ているね。言うことまでそっくりだ」


 いつからこうなっていたんだろう。私が気がついた時には、もう道家どうけさんの瞳は真っ赤になっていた。

 真っ赤な目でまっすぐ見られると、なんだか気分が落ち着かない。

 そんな道家どうけさんから目線を外そうとして気がついた。私の周りを回り続けてるリンゴも、いつの間にかスピードを上げているような……?


「君も彼女も、勘違いしているよ」


 それに、あの駅前にある骨董品屋さんで会った時よりも。なんだか存在感が増したって言うのかな。目の前のいるハズなのに、いつの間にか消えていなくなっていそうな。あの不安定さが無くなっている。


「……勘違いなんて、してないと思うんですけど」

「してる」

「何をです!?」

「彼は『まだ失敗していない』じゃあないか。なぜコトが起こる前に止めさせたがるんだい?」

「それは……どう見たって失敗しそうだったからですよ」

「どう見たって? それは君が見た限りでは、だろう?」 

「違います。きっと他の誰が見たって、あのままじゃダメそうだって思います」

「いいや、違うね」

「どうしてですか!? 意味が分かりません」


 なんだか押し潰されそうな空気を感じて、ついつい口調が怒りっぽくなってしまう。何が違うのか分からなくて、ぶつけるような言い方をしてしまう。

 そんな私とは対照的に、道家どうけさんは面白そうに顔をゆがめながら、私の反応を楽しんでいるみたい。道家どうけさんがタメにタメて数秒ほど黙り、列車内が静かになった頃。突然口を開く。


「それはね…………僕はそう思わないからさ」

「……は?」

「アハハハハッ。どうだい? 僕は『甲賀こうが君が失敗しそうだって思わない』、だから誰が見たって、は成立しない。単純な話だろう?」


 そう言いながら、道家どうけさんは楽しそうに笑うけど。私にはうまく伝わってこなかった。道家どうけさんが言っていることは正しいんだろうけど、なんでそう思うのか私には分からない。

 だってさっき、自分で甲賀こうがさんは危ういって言ってたのに。


「分かんないです……どうして道家どうけさんが、あんな状態の甲賀こうがさんを止めないのか」

「僕が止めない理由はね。彼は自分で選んだからだよ」

「……? すみませんちょっとよく意味が――」

「分からないのはこっちの方さ。これは彼女にも当てはまるんだけどさ……進退を賭けて挑みビトになった人に向かって、『今のあなたじゃ失敗するだけです。今すぐ止めた方がいい』なんて言ってさ。それで一体、どうするつもりなんだい?」

「もちろん止めるつもりです。そのつもり以外に何があるんですか?」

「ソレだ。ソレなんだよ丙家へいけさん。君は彼の立場に立てていない。そんな事を言ってもね、逆にムキになって挑むだけなんだよ?」


 道家どうけさんはまた手を叩き、私に向かって指を差してきた。ついに見つけたと言いそうに、嬉しそうに目を開きながら。


「彼は挑むことを選んだんだ。一度失敗した上でね。慢心して自分を過信して、成功だけを確信して失敗した最初の時とは違う。何が違うか分かるかい?」

「……わ、かりません……」

「それはね。『覚悟が違う』んだ。自分がやっても必ず成功するか分からない事実を、分かった上で。失敗する可能性だって分かった上で彼は選んだんだ」


 道家どうけさんから感じる圧力がさらに強くなった。口調は決して強くないのに、じわじわと回りから迫ってくるみたいに。道家どうけさんは私を否定してるわけじゃないのに。なんでだろう、どんどん押し潰されているような気分になる。息が苦しくなってくる。


「そんな人間に『止めておけ』なんて言うのは、逆にやる気を与えているだけなんだよ。言ってる側は止めてるつもりでも、結果は背中を押しているのと変わらない。なんで気が付かないのかな? 僕にはそっちの方が分からないなぁ」


 この人の言葉を聞いていると、どうしても怖くなってしまう。

 追い詰められていた、昨日の甲賀こうがさんよりも。

 私は楽しそうに話す道家どうけさんの方が怖かった。


「僕は自分が担当する人に対しては、いつも公平であろうと思ってる」


 目線をそらしたくて、私が道家どうけさんの手に、目線を流したのが分かっているようなタイミングで。

 道家どうけさんは右手を動かして、何かをすくうようなジェスチャーをした。私はついビクリと肩を跳ね上げてしまう。

 でも道家どうけさんは何も言ってこない。私の動作には触れずに、右手で物をすくい取るような仕草をして、それから右手をギュッと握り込む。

 そして赤い目で、私をじっと見つめながら、こう続けた。


「チャンスが欲しいと願うなら。必ず上手くいきそうな人以外にだって、僕は手を差し伸べる。コレが救いになるだなんて思い上がったりはしないさ。掴み取るのは、彼ら彼女ら自身だからね」


 こうして話をしてみて、私には分かった事がある。

 道家どうけさんと私は、同じモノを見てなんかいない。さっき言ってた、立場が違うって言葉。たしかにその通りなのかもしれない。

「でも助言はしない。自分で掴まないと、自分のモノにはならないからね。ミカンセイ空間(ココ)は、そういう場所だから……納得してもらえたかな?」

「…………あっハイ! なんとなく、ですけど……」

「アハハハハ。まあそんな人もいるよね。まったく、君も彼女も、人が良すぎるなぁ……」


 道家どうけさんが見えている景色は、私とは違う気がする。何か違う立場で、物事を見ている気がする。

 私がそんな思いを抱いた時、列車が突然跳ねた。上下に揺れた列車の中で3つの影が好き勝手に揺らめく。

 慌てた影は私のだけ。何が起きたのか分からず、私はつい首を振って辺りを見回してしまう。

 すると列車がだんだんと減速している事に気がついた。突然の揺れからほんの数秒で列車は止まり、閉まっていたドアが開く。アナウンスは聞こえなかったのに。


「えっなんで? アナウンスなかったのに……」

「おや、もう着いたんだ」


 驚いているのは私だけ。道家どうけさんからすればこれは当たり前なコトなのかな。

 窓ガラス越しに外を見てみると、止まっているのは見たことのない駅だった。

 赤い夕陽に染まった、赤い駅のホームから。列車に向かって近寄ってくる人影がある。

 そうして列車の4両目に、見知った2人が乗り込んできた。それは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ