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[完結]1ーE 第8話 おじさんとゆかいな仲間たち 前編

 道家どうけさんからの提案を受け、私と道家どうけさんは4両目に移動することになった。

 でも正直言って黒いもやが気になって仕方がない。2両目内でもやもやしてる、あの黒いもやみたいなモノは一体なんなんだろう。道家どうけさんは私をアレから遠ざけたいみたいだけど、それってアレがなにか知ってるってコトだよね。

 そう思って4両目に移動する途中、道家どうけさんに質問したんだけど……結果は『教えられない』しか返ってこなかった。

 納得出来ないまま、私と道家どうけさんは4両目へ。

 そして道家どうけさんが座ったのは、毎日誰かが座っていた、いつものあの位置。私はその対面座席へ浅く腰を下ろす。背もたれには寄りかからず、上半身をすこし前にかたむけて。ここまではいつも通りなんだけど……


「……あの」

「ん?」

「コレ、なんなんです!?」

「リンゴだよ?」

「それは分かってます!」


 現状、なぜか道家どうけさんはリンゴを飛ばして、私の周囲をぐるぐるグルグル旋回させている。

 自分の周りを飛び回るリンゴ。私には何がなんだか分からず、オロオロすることしか出来ない。道家どうけさんはそれが当然とでも言いたげな顔をしながら、私と話を交わしている。なにコレ!?

 4両目についたら、道家どうけさんが手に持っていたリンゴが、急に光りだした。まずこの時点でビックリその1。

『でもそう言えば。前にこの列車の中で会ったあの人も、光る梨を持ってたっけ。うーん、意外とミカンセイ空間だと果物が光るのは当たり前なのかな?』

なんて考えていたら、急にリンゴが浮いてビックリその2。いくらこの列車の中がおかしな場所だからって、さすがにリンゴが宙に浮くなんて思ってなかったよ。

 その上宙に浮いたリンゴが勝手に動き出して、私の周りを回り出したからビックリその3!

 テンパりながら道家どうけさんに聞いても


「大丈夫だよ、これ僕が動かしてるから」

としか答えてくれない。違うよ、聞きたいのはそこじゃないよ。

 それから今まで、光るリンゴはずっと私の周りを回ってる。グルグルと、グルグルと。

 光るリンゴが通った後には、淡く光る赤い跡が残る。時間が経てばうすれていくんだけど、完全に消える前にまた同じ場所にリンゴが回ってきちゃう。そのせいで跡がずっと残ったまま。

 いつの間にか私の周りには、宙に浮くリンゴの軌跡が作った輪っかが出来てしまっている。


「リンゴが飛んでるだけでも気になるのに……」

「なるのに?」

「こんなに周りをグルグルされると、すっごく気になるんです!」

「大丈夫だよ害は無いから」

「だから気になるんですって!」

「アハハハハ。いやーそろそろリンゴが浮く事には慣れてきたハズなんだけどなー」

「いやだからぁ! 気になってるのはリンゴが浮いてる事じゃなくて私の周りをグルグルしてる事なんですって」

「ああなるほど。ゴメンそれは刷り込みミスだね」

「刷り込み? なんだか気になる言葉が聞こえた気が」

「まあ真面目に答えると、そのリンゴで認識のズレを補正してるんだ。コレは知ってるよね?」


 そうだったのか。それなら最初から言ってくれれば良かったのに。


「あっはい。たしか違う世界の人同士がこの列車の中で会うと、認識にズレが生じるとかなんとかでしたっけ」

「ちょっと気になるけど、まあいいか。君も――えーと丙家へいけさん、だったよね。丙家へいけさんもこのミカンセイ空間で生じる認識のズレは理解している。それで、僕と丙家へいけさん間における認識のズレを補正しているのが、その周りに浮かんでるリンゴなんだ。だから我慢してね」


 これは……何か隠し事をされてる。そんな感じがする。

 私だって最近は、連日このおかしなミカンセイ空間に出入りしている。いつもの世界とは違う、おかしな事が起こる事にも、なんだか慣れてきた気がしている。

 けど、私の周りを回ってるこのリンゴは。道家どうけさんが言ったこと以外のも何か意味ある気がする。なんとなくだけど、これでも直感には自信がある方だし。


「……ホントにそれだけですか?」

「ホントだよホ・ン・ト。この善人そうな笑顔を見てよ。嘘なんて言えそうもないでしょ?」


 そう言いながら道家どうけさんはわざとらしい笑みを作った。うーん、なんだか遊ばれてる気がする。おじさんの知り合いみたいだけど、思った異常にクセのある人みたいだ。


「……はぁ。じゃあもうそれでいいですよ」

「あれ? 信じてない? おかしいなー」

「ハイハイ。それじゃあ、何から話していったらいいんですか?」

「そうだね……まあまずは昨日会った事からで」

「分かりました。それじゃ……」


 やっぱりリンゴが気になるけど、一旦諦めるしかなさそうかな。どうせ私が何度聞いても、目の前にいるこの人はまとも答えてくれなさそうだし。

 こうして半ば諦めながら。道化みたいに本心が見えない人に、私は昨日の出来事を話していった。

 まずは昨日の出来事から話していこう。ちょうど道家どうけさんが関係してるみたいだし。

 そう考えた私は昨日この列車の中で会った、甲賀こうがさんとの話をした。

 挑みビトになり、失敗して、また挑みビトになった人。暗い夜に進んでいった甲賀こうがさんについて、誘った張本人っぽい道家どうけさんに話をする。裏側の話になりそうで、なんだか内心すこし緊張してきた。

 とはいえ、私はあまり期待してなかったんだ。話をする前はさっきの黒いもやの時みたいに、この話題も流されるかもって思ってた。

 けどそうじゃなかった。甲賀こうがさんの名前を出したとたん、道家どうけさんの態度が変わったから。真剣な目つきをしながら、私の話に応対してくれる。


「……甲賀こうがさんが挑みビト? っていうのをやる時は、案内人は道家どうけさんがやるんですよね?」

「そうだね。誘った以上、案内人としての役割は果たすつもりだよ」

「それって、今から止めることは出来ませんか?」

「…………どうしてそう思ったか、聞いてもいいかな」

「それは、ですね。昨日甲賀こうがさんに会った感じだと……」

「感じだと?」

甲賀こうがさん、かなり追い詰められてる風でした。後がない後がないって言いながら、自分で自分をどんどん追い込んでるみたいな。」

「それはどうだろうね。退路を断つことで、自分をふるい立たせる人もいるからね。彼はそういったタイプなのかもしれない」

「でも、そういう感じじゃないと思うんです。なんだかこのままじゃダメそうって言うか……」

「……『彼は必ず、また失敗する』とでも? 君にはそう見えたのかな?」

「そこまでじゃないですけど、近い感じです。なんだか私には、甲賀こうがさんが上手くいきそうには思えませんでした」


 私と道家どうけさんとの間にあった、認識のズレがなくなってきたのかな。話をしている内に、道家どうけさんの雰囲気が変わってきた。4両目に来たばかりの頃とは、なんだか違う人みたいに見える。甲賀こうがさんの話題になってからは、茶化すこともなく誤魔化すこともない。案内人としては結構真面目な人なのかな。

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