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[完結]1-E 第4話 3日目は、モモをお供にそもそも論 その3


「ええ、このミカンセイ空間内で、光る梨を持っているのは彼くらいなモノですから。彼――ハジメ君とは一緒に案内人の手伝いをしています。話題に挙がっていた、頭の上にミカンを乗せた彼女のね」


 そう言いながら桃原さんはウインクを飛ばしてきた。

 あちゃー……ウインクって細目の人がやると、片目だけくわっと開かれてる感じで怖く見えるんだなー……なんて思ってる場合じゃない!

 また出てきたぞ、頭の上にミカンを乗せた女の子!


「また出た! ってあっゴメンなさい。この列車の中で待ってる人がみーんな、その頭の上にミカン乗せた子の話をするからつい」

「ハハハ。いやそりゃ気になりますよね。僕も最初はそうでした」


 話しながら桃原とうばるさんは、目線を列車の外へ向けた。どこか遠くを見るような目で、昔のことを思い出しながら話し続ける。


「話せば長くなるので言いませんが、まあ色々ありまして。実は僕、最初は挑みビトとしてミカンセイ空間に来たんですよ」

「イドミビト?」

「ああ、案内人から聞かされてないのなら忘れてください。知らなくていいことだったみたいですね」

「そう言われると、余計に気になります!」

「気になられても、僕はこれ以上何も喋りませんよ? えーとですね、その時色々ありまして。迷いビトになってしまった時に彼女と、ハジメ君に救われたんです」


 聞きたいのはそこじゃないのに! でもここは黙って聞かないと。


「その時の縁で、こうして2人の手伝いをすることになっている。そして、手伝いの最中に、この列車内で丙家へいけさんと話をすることになった、というワケです」

「そうだったんですか……それで、挑みビトって言うのは? なんなんですか!?」

「だから言いませんって」

「気になります!」

「ハハハハハ。だからと言うか、彼女とはよく会うんですよ。だから僕から彼女に伝えて欲しいことは何もないですね。会って自分で話しますから」

「あー流した! 教えてください挑みビトって――」

 

 その時。私が問いかける言葉に割り込むように、列車内にアナウンスが響き渡った。まるで話はここまでと言いたげなタイミングだ。

 こうして、この列車内にアナウンスが流れてきたってことは。


「あ、ここですね。僕は次で降りないといけないので。どうやらこれまでのようです」

「うー……分かりました。それじゃあ伝言は無しでいいんですね」


 やっぱり別れの合図だった。さすがに3日も続けば私だって分かる。この列車の中は――ミカンセイ空間は、外とは少し違う仕組みなんだってことくらい。

 とは言っても挑みビトってなに!? 気になる! 桃原とうばるさんは教えてくれ無さそうだし、こうなったら仕方ない。明日この列車内にいるであろう人に聞いてみよっと。

 そう私が心に決めている内に、桃原とうばるさんは降車の準備を進めていった。


「……あー、すみません。伝え忘れていた事がありました」

「? なんですか?」


 列車を降りる準備をし終えた後で。ドアの前に立ち外を眺めていた桃原とうばるさんが、不意に話しかけてきた。何か大事なことを思い出したのかな。

 別に降りるわけでもないけれど、その場の流れで。私は席を立って桃原とうばるさんと並んで、開くであろうドアの前に立ってみた。

 そうして横に並んで立った状態で。桃原とうばるさんは私の方を向きがら、ぽつぽつと話し始めた。


「――あの時僕は2人に救われました。でもたぶん……いや間違いなく。あの時救われた僕がここにこうして居る以上、あの時救われなかった僕もまた、どこかの世界に居ると思います」

「どこかの、世界?」

「そうです。ミカンセイ空間に繋がっている、僕たちが普段住んでいるあの世界と似ているようで、違う別の世界があるんです。こうして丙家へいけさんにこの事を話す僕がいる以上、どこかの世界にはこの事を話さない僕がいるハズなんです」

「うーん。やっぱり私には難しいです、桃原とうばるさんの話」


 私はまっすぐ外を見た。外と繋がるドアにある、窓ガラスを見た。 

 すると流れ行く風景とは別に、窓ガラスに苦い顔をする私が見えた。

 そこからちょっと、視点を隣へ。そこには苦い顔をする私を見て、苦笑いをしている桃原さんがいる。

 すぐ隣にいるからと言って、隣をまっすぐ見るのではなく。窓ガラスに映る姿を、お互いが見る。

 違う世界の人って、こういうことなのかも? 

 なんとなくだけど、この時私はそう思った。


「ハハハハ……そう言われても、時間が無いので。すみませんがこのまま続けます」

「うぃ。頑張って理解してみます!」

「それでは……彼女たちに出会えてない僕は……あの世界で失敗して、終わってしまっているでしょうね。自分の事だからよく分かります」

「終わってしまっている……?」

「ああ。終わったと言っても、生きてはいると思いますよ? そんな、今の僕とは違う僕が。今の僕みたいにこの列車の中で――」


 そう言いながら桃原さんは、ポケットの中からあのガラス製っぽいモモのオブジェを取り出した。取り出したオブジェを目線の高さまで持ち上げて、オブジェ越しに私を見てくる。

 私もその動きにつられて、モモのオブジェ越しに桃原とうばるさんを見た。


「――こうして丙家へいけさんに会ったとしたら。一体どんな反応をするのかな。それはちょっと気になりますね」


 オブジェ越しに見る桃原とうばるさんはゆがんでいて、曲がっていて。さっきまで見ていた人のハズなのに、私には別人みたいに見えた。

 透明なハズの、透きとおったガラスで出来ているモモのオブジェ越しでも。

 何かを通して向こう側を見ようとすると、案外曲がって見えるんだなぁって。

 そんな事を考えている私を置いてけぼりに、桃原とうばるさんの話は続く。


「この世界はミカンセイ空間です。ですから、丙家へいけさんがこうして代理人を続けていれば、そのうち本当に違う世界の人と出会うこともあるでしょう」


 列車が減速し、そして停車した。止まると間もなく目の前のドアが開く。

 外から新しい風と、新しい流れがやって来た。列車内に変化の時がやって来る。


「だから丙家へいけさんも、もしかしてこの列車の中で」


 モモのオブジェを片手に持ちながら。桃原とうばるさんは笑いながら、列車から降りていく。

 今日は昨日と違い、開いたドアから見えた外の景色は、列車の中と変わらない。

 雲がまちまちで、ほどほどに青色で、あちこちが灰色な。

 列車の中から窓ガラス越しに見えるのと同じ、夕焼け色に染まってた。


「見知った誰かによく似た、違う世界の誰かと。話をすることになるかもしれませんよ? それじゃ――」

「それはそれで……面白そう?」

「――面白そうですか。なるほど、面白い方だ」

「なんですかそれ? 気になることばっかり増やさないでくださいよ、もう」

「……やはりあなたは彼女に似ている。とても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます。それじゃあ僕はこれで」

「いえいえこちらこそ……それじゃ」


 桃原とうばるさんに手を振っている内に、音をたててドアが閉まる。

 再び走り出した列車内に、1人残りながら。誰に聞かせるでもない独り言を言いながら。私はさっき起こった事を思い返す。


「はー……なんだか色々あった気がするなぁ」


 今日は昨日よりさらに変な話だったなー。未来から来た、私的わたしてきにはさっきぶつかったばっかりの人と話すって。昨日の自分に言っても絶対信じないよ。

 それに挑みビトとか、違う世界の誰かとか。彼女に似てるって彼女って誰!?

 なーんか、いろんな人の話を聞いているうちに、どんどん分からない事が増えていってる気がするなぁ。


「でも、それが面白い……かな!」


 変わった事が知りたくて、見たくておじさんから引き受けたんだし。

 明日からは気合を入れ直して、話し相手になりましょーかね!


「……あっ」


 そう決心し直している内に。私はずっと聞こうとしていて、でも途中ですっかり忘れてしまっていた。

 そんな、あることを思い出した。それは――


桃原とうばるさんに『なんで髪の色ピンクなんですか』って聞くの、忘れてた……」


 これにて3日目おしまい。

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