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[完結]1-D 第八話 乙坂くんはあの部屋へ 前編 

 部屋に入る権利を得ようとも、部屋に入ろうとはしなかった少女。

 そんな彼女と入れ違いになるように、1人の少年が骨董品屋にやってきた。昨日と同じ失敗はせぬと、しきりに辺りを見渡している。


(よし、今日はあの梨野郎はいないな!?)


 彼はもともとしかめっ面が標準になっている上に、今日は辺りを警戒している。そんな彼を辺りの人々は露骨ろこつに避けていく。彼を見るや逆方向に歩き出す人まで出てくる始末だ。

 だが今の彼にとってそんなことはどうでもよかった。なぜ自分を避けるのか分かる奴らより、なぜ自分に梨をぶつけようとしてくるのか分からないあの男の方がよほど怖い。分からない奴を警戒すれば、分かることなんて小さな事に思えてくる。


「よっポンコツ犬。今日も元気にくたばってるかー? よし、いいクソ顔だ。もっとかまってやりてえけどよ、いつアイツが来るか分からねえし、悪いな」


 彼はショーウィンドウの前に立ち、中にいる黒犬へと話しかける。だが昨日のように、いつあの学生が現れるか分からない。あまりここに長居も出来ないだろう。

 そんなことを考えている内に、彼は昨日とは違う『変化』に気付いた。黒犬にばかり目がいっていたが、少し視野を広げてみると


「お?」


 どうやら部屋の中の様子が昨日と変わっているようだ。

 黄ばみ、カビが生えていた部屋の壁面は一新され、白黒二色の市松模様に様変わりしている。ショーウィンドウの対面には、白一色に塗られたドアまで新調されているではないか。


(すげえな、あの後工事でもしたのかね)


 そのほかにも、黒犬が鎖で繋がれていた、部屋を貫くあのポールがなくなっている。代わりに部屋の中央には背もたれつきの椅子が1つ置かれ、その椅子に黒犬が繋がれていた。


「ドアまでついてるじゃねーか。よかったなポンコツ! 模様替もようがえでもしたのかよ。白黒い部屋に真っ黒の犬って、派手なんだか地味なんだか分かんなくなっちまったなぁオイ」


 口では悪ぶっているが、彼の顔は笑顔にあふれていた。

 あのどんよりとしていた暗い部屋よりも、今の部屋の方がハッキリしている。

 良くなったのか悪くなったのかは分からないが、あのままでいるよりはこの犬もよっぽど嬉しいだろう。そう彼は思ったのだ。

 とうの黒犬はというと、近くに置かれた椅子に興味がないのか。寝そべったままではあるが、前ほど気だるい感じはしない。何かを探しているように、視線をきょろきょろと動かしている。


(部屋が変わって気分でも良くなったか? 現金なクソ犬だよホント……ん? 待てよ。部屋の中にドアが出来たってことは、もしかすると部屋の中に入れるようになったのかコレ)


 ちょうどいい。店内に入ってしまえば昨日の梨男も下手なことは出来ないだろう。ついでに部屋の中に入ってこの黒犬とたわむれてみるのも楽しそうだ。


(昨日のあの子、いねえかなー)


 それに、今日の彼には他の理由があった。昨日店の中で出会ったある人に、また会えるのではないかという期待もあったのだ。

 昨日とは違い、今日の彼は自らの意思で店の中へと進んでいった。


――――――――――◇◇◇◇◇――――――――――


 彼が店の中に入ると、そこに目当ての人はいなかった。

 昨日と同じく銀髪の少年と店長らしき人物はいたのだが、肝心の少女が見当たらない。昨日の事を一言謝りたかったのだが、その願いは叶わなかった。ならばと彼は次の行動に移る。


「あのー、なんか表の部屋に、ドアできてるじゃないですか…………」 


 店長らしき人物へ、部屋の中に入るためにはどうすればいいのかたずねてみる。

 するとこう返ってきた。『店内にある商品を1つ買えばあの部屋に案内する』と。


(あの梨野郎のせいっつっても、入り口に突っ込んじまったのは俺だしなぁ)


 面倒ではあったが、せっかくに来たのに手ぶらで帰るのも気に入らない。昨日ドアにぶつかってしまったのも事実だ。何かしらの謝礼も込めて、彼は何か買っていくことにした。 


「なーんか面妖なもんばっかだな」


 店の棚に並んでいるものは、どうにも奇妙なものばかりだった。どういう意図で作られたのか分からないもの、完全に錆びているように見えるもの、はては欠けたりヒビが入っているものまである。

 分類分けなどしていないのか、ネジやぜんまい仕掛けの物の隣に木製の箱や陶器が平然と並んでいた。その中から1つ、手ごろな木箱のフタを開けてみれば


「うげっ」


 大量のびた釘が詰め込まれていた。形も不揃ふぞろい、曲がっている釘もある。一体何に使うものなのか。考えたくもない。

 骨董品、というものをよく知らない自分が場違いなだけかもしれないが、だが骨董品とただ古いだけの物は違うのではないだろうか。知識がある人物には価値がある物なのかもしれないが、彼からするとどうにもガラクタが混じっているように思えて仕方がない。


(こういうのも、好きな人は好きなのかねぇ……お?)


 物色する彼の目に、1つの商品が映り込む。関心を持ち、手に取ったそれはモノクルらしきものだった。

 どうやら金属製の輪の中に、色のついたレンズがはめこまれている。何に使うか分からないが、どうせ何かを買うことが目的だ。見た目だけでも気に入れば十分だろう。


「面白いものを選んだね」

「うぉっ」

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