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[完結]1-D 第四話 丙家ちゃんと不思議なお店 

 少女が1人、とある店のショーウィンドウ前に立ち、中にいる『ナニか』を眺めていた。

 彼女が毎日の通学に利用している、とある駅へと続く駅前通り。その通りのなかに1軒変わった骨董品屋》がある。


(今日も頑張ってるね)


 その骨董品屋は入り口のすぐ横に大きなショーウィンドウをかまえておきながら、そこから覗ける場所には1つも商品を置いていない。その部屋も特別目立つものではなく、立方体がそのまま大きくなっただけのような形状をしている。壁も一面クリーム色に塗られているだけ、装飾も特に見当たらない。いたってシンプルな部屋だ。

 部屋の中には、窓際に1つケージが置かれていた。仕切りに囲まれた中に人工的な段差が複数作られた、大型のケージだ。

 そのケージの中でせわしなく動き回っている動物たちがいる。おそらく同一種のハムスターではないだろうか。


(あ、いけるかも? いけるかも?)


 複数匹いるハムスターの中に、彼女のお気に入りハムスターが1匹いる。

 気に入っている理由は、そのハムスターだけがケージの中に作られている、急斜面の段差を登ろうとしているから。

 他のハムスターは平地にいるのに、なぜ一匹だけ違う場所を目指しているんだろう。変わった行動を取るこいつを、彼女はすぐに気に入った。


「ああっ」


 目当てのハムスターが目の前で斜面を滑り落ち、元の位置まで戻されてしまった。それでもハムスターはまた同じ段差を登ろうとする。

 短い手足をちょこちょこと動かしながら、何度ずり落ちようとも登ろうとする姿が、どうしようもなく彼女の心をくすぐった。


「頑張れ、あとちょっとだよ」


 彼女はほぼ毎日、この店がある駅前通りまで友達と下校してきている。通学路におりよく好みの店があった、時間にも余裕がある。こうなると寄って行かない理由がない。

 列車が来る時刻に余裕がある日は、彼女はこうやって骨董品屋のショーウィンドウに立ち寄ることにしていた。

 ショーウィンドウの前にただずんで、中にいるハムスターたちを眺める。これが彼女にはちょうどいい暇つぶしになっていた。


「そんなに中のモノが気になる?」


 そんな少女に、声をかける男が1人。つられて少女が横を向くと、そこには見知らぬ少年が立っていた。年頃は自分と同じくらいだろうか、全体的に細身で、中性的な整った顔立ちをしている。


(わっ)


 すぐ近くから見知らぬ美形に話しかけられたことに驚きを隠せない。少女はつい反射的に肩をビクつかせてしまい、相手から距離を取ってしまう。


(びっくりしたー全然気がつかなかった)


 ハムスターを見ることに集中し過ぎていたのだろうか、すぐ側まで人が迫ってきていたことに、少女はまったく気がつけなかった。


(うーんなんというか、はかなげ、ってやつなのかな)


 間違いなく美少年なのだろうが、どうにも不安定に見える。今にも消えていなくなりそうな、どこかしっかりしていないような。

 そんな少年は髪色も変わっていた。ツヤのある銀髪のように見間違うが、おそらく光沢がある白髪ではないだろうか。


(わ、若白髪さんなのかな……)


 彼女から見て同世代に思われるところから、おそらく少年は20にも達していないだろう。そんな世代でここまでキレイな真っ白な髪になっている人を、彼女は今まで見たことがなかった。


「ハハ。まあ警戒するなってのも無理な話だよね」

「あっごめんなさい」

「いいよいいよ。こっちが悪いし」


 少女が少年の白さに驚いている様が、少年には『突然話しかけられて警戒しているよう』に映ったようだ。両手を広げ、少しおどけた仕草を取る。それから少しずつ距離を詰め、少女からショーウィンドウ内へと視線を流し、こう切り出した。


「最近、けっこうここから店の中覗いてるよね?」

「えっ……ええ、はい」

「ああ、大丈夫大丈夫。営業妨害だーとか冷やかしなら帰れーとか、そんな話じゃ全然ないから。それとも『こいつストーカーっぽい』とか思った?」

「いえそんな全然(この人お店の従業員か何かなのかな)」


 確かに彼女は何日もこの店に立ち寄りはするものの、ショーウィンドウ前に立ち止まって中に入らず帰るだけ。もしかしたらお店の人から迷惑に思われていたのかもしれない。


「そう? いやさ、僕ツカさんと……ああ、ここの店長のことね。その、この店の店長と親交があってさ。最近よくこの部屋を覗いてる子がいるって聞いてたんだよ」

「はぁ(惜しかった)」

「君は僕が見てる限り、ずっとあの中を見ていたよね? それこそ、僕が横に行っても話しかけなきゃ気付かないくらい集中してさ」

「はい、まあ」

「ずっと見てるくらいだから、そりゃもう中のナニかが気になるんだろう。なのにずっと店に入らず、外から覗いているだけ。これが不思議に思えてさ。もしかして一度も店の中に入ったことない?」

「言われてみれば……」


 思い返してみれば、確かにそのとおりだ。彼女はいつも外からハムスターを見ているだけで、一度もこの骨董品屋の中に入ったことがない。少年は身を乗り出し、休みを挟まず一気に話を続ける。


「やっぱり。この店、外見だけだとなんか高いものばっかり置いてそうだもんね。まーこんなヘンテコな造りじゃね。偏屈へんくつな店長に違いない! そう思っちゃうのも仕方ない」


 少年は話しながら、うんうんと自ら首を縦に振る。勝手にそう思っていることにされてしまったが、なかなか口をはさめない。

 話の流れに流されるまま、彼女は少年の話に聞き入ってしまう。


「……だけどさ、実はそんなことないんだよ」

「はぁ」

「案外気のいい店長だし、ある変わったサービスもある」

「変わった?」

「そう、変わった。ねえ、この部屋の中に興味があるならさ、外から見てるだけじゃなく……」


 一体どこまでが計算だったのだろう。このどことなく芝居がかって見える少年は、彼女にある『選択』を持ちかけた。


「部屋の中に、入ってみない?」

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