[完結]1―C エピローグ 彼は眼前の暗闇へ
ミカンセイ空間に来たのは、これで何度目だろうか。
あれからナルミは何度もミカンセイ空間に足を運び、彼女やハジメの手伝いをしている。
自分ではいくらかミカンセイ空間に順応できてきたつもりだ。いつもの世界とミカンセイ空間とで、ちゃんと思考の切り替えも出来ている。
(でも……どこか道家さんの真似をしているままだ)
自分がミカンセイ空間で、案内人を思い浮かべた時。
チームである彼女やハジメではなく、やはり道家が思い浮かぶ。不確かでありながら、だが確かに芯があるあの不思議さに――未だ自分は憧れたままなのだろう。だから模倣し、彼の心境を体験したがっている。
「……まだまだだなぁ……」
無意識のうちに声が出る。ナルミの愚痴に、隣に立っていたナルミが反応した。
「ん? なにがだ?」
「ああ、いえ……この、僕のモモモドキを見てまだまだだなって思っただけですよ」
道家と自分を比べていただなんて。口が裂けても言いたくない。ナルミはハジメの追求を逃れるため、手に持っていたモノを利用した。
ナルミが手にしているモノは、ナルミがミカンセイ空間で案内人の手伝いをしている内に、手に入れたモノ。
ナルミは彼女のミカンやハジメの梨のような『自己』の獲得も、半人前ながら達成している。だが自分の『自己』は、2人のモノとは違い――
(……まだまだ透明なまま、か)
ナルミの手の中には透明な桃の形をした、ガラス製らしきオブジェがあった。
手中にあるモモのような形をしたオブジェを、ナルミは目の前まで持ち上げる。
(彼女の助手見習いじゃあ、まだまだってことかな)
ナルミはモモのオブジェ越しに、目の前に広がる道を見つめた。
「……どっちの道も外れではなさそうです。取りこぼしを防ぐ意味合いからも、ここは二手に分かれるのが最上かと思いますが……」
今、ナルミの前にはトンネルがある。左右に2つ、同じ形をしたトンネルの入口前に、ナルミとハジメは立っていた。
「先輩、どうしますか?」
「先輩はやめろって。そうだな……二手に分かれる案でいいんじゃないか?」
「了解です。それでは僕は左のトンネルから迷いビトを探していきます」
「なら俺は右のトンネルだな。そうと決まれば即行動」
2人は行動を開始した。目の前に広がるトンネルの中に。迷いビトがいるのは間違いない。
ならばやるべきことは1つだけ。案内人として迷いビトを案内するだけだ。
半人前の我が道を、確固たるものにするために。
彼女やハジメの手助けをするために。自分が目指す案内人になるために。
「頼りにしてますよ、ハジメ先輩?」
「……お前マジで先輩はやめろ先輩は」
桃原成実は今日もミカンセイ空間に挑む。




