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[完結]1ーC 第7話 選んだ『下』は、どこかに消えた 前編

「おい桃原とうばる。なんでお前、『上』にいるんだ?」

「なん、でって……あの、ええとゾメ、さんと別れて、階段を下に下りていたら――」

「ん? ああ名前言ってなかったけか。墨染すみぞめって言うんだわ俺。んで、コイツが勝手にゾメって呼んでるだけ。こいつの呼び方真似してると性格悪くなるから止めとけ」


 墨染すみぞめと名乗った案内人は、アゴで道家どうけを指し示し悪態あくたいをつく。ナルミが焦点を道家に流せば、道家がナルミに向かって手を振っているのが見て取れた。


「そうなんですか。なら、墨染すみぞめさんと別れてから…………」


 ナルミは墨染すみぞめに、そして道家にこれまであったことを話した。

 墨染すみぞめと別れてから、落下していく人と目が合い、下に行くことが嫌になったこと。下に行く前に、上にも道がないか確認したくなったこと。

 そして上を目指していくと開いているドアがあったこと。ドアの中に入った後、誰かがいるところに行きたいと願った結果、このビルの屋上に移動していたこと。

 ナルミが分かる限りのことを、2人にすべて伝えてみた。

 すると2人がしばしの間、黙した後。墨染すみぞめと道家はどちらともなく顔を向き合わせた。ナルミには分からないが、なにか合図を出しあっているように見える。


「あーー……マズイなこりゃ」

「だね。珍しい子が来たなと思ったらそういうことか」


 墨染すみぞめは宙をあおぎながらつぶやき、自分の手で髪をガシガシとかいた。それに道家が相槌あいづちを打ち、眉を寄せてすこし困った風な顔をする。

 ナルミには何がマズイのか分からない。一体何がいけないのだろう。

 2人の顔色を伺う度、ナルミはどんどん不安になっていく。


「何が、まずかったのでしょうか?」

「そうだな。口で言うより実際に試してみりゃあ分かりやすいか? ちょっとこっち来な」


 ナルミの問いに墨染が返したのは、どこか別の場所へ付いてこいという指示だった。

 指示され向かった先は、ナルミがこのビルの屋上に始めた来た際、道家が上に乗っていた建物の中。平坦なビルの屋上に、一箇所だけ飛び出ている、大きな立方体みたいな箱の中だった。

 ドアをくぐり、建物の中に入ってみると。


「階段、ですか」

「そうだ。とりあえずこの階段を下りていって、一番下の階まで行ってみな。一番下の階にはドアが1つだけあっから、そのドアをくぐるだけ。それだけでいい」


 中には屋上から屋内へ続く階段があるだけだった。四角い壁に沿うように作られた階段が、規則正しく階下へと伸びている。壁に沿った形で階段が設置されているせいか、建物の中央には四角いデッドスペースが生まれていた。転落防止のためだろう、中央のデッドスペースを囲うように鉄格子が並んで溶接されているのが分かる。

 縦に長く伸びた鉄格子の間から、ナルミは目指す『下』を覗いた。こうして下を見たところで、普通の階段にしか見えない。ついつい疑問が口を出る。


「ここを……降りていくだけでいんですか?」

「降りていく『だけ』になればいいんだけどねー」


 ナルミの言葉に道家がどこか含みのある発言を返してきた。まるで降りていくだけにならないような物言いだ。

 内心ムッとしながらではあるが、ナルミは言われた通りに行動した。始めは恐る恐る、階段に異常がないと分かるや軽快に。ナルミは一段ずつしっかり踏みしめ、階段を下りていく。


(ただの階段だよな……?)


 階段を下りる最中になっても、ナルミにはこの行動の意味が分からない。階下を目指して下りていくだけ。特に何も起こらない。ただ階段を下りているだけである。

 数分ほどだろうか。ナルミの視界が階段の終点を捉えた。階段が途切れている事からして、ココが1階なのだろう。

 床に書かれた矢印を頼りに、目線を先に向ければ。階段フロアと屋内フロアを繋ぐドアが見える。あのドアが墨染すみぞめの言っていたドアか。

 さっさとドアをくぐろうと、ナルミは階段を一番下まで下りきって、1階のフロアに足を付けた――ハズが。


「……やっぱりな」

「や、おかえり~」


 目の前には墨染すみぞめと道家がいた。


「――なっ」


 最初は何が起きたのか理解出来なかった。自分は階段を降りていたハズなのに。 目の前には降り始める前に居た2人と、階段の一番上の部分がいる。屋上から建物の中に入っていたばかりの時に見た景色が、今またナルミの目前に広がっていた。

「そんなバカな!?」

「納得いかないなら、もう一回行ってみる?」


 道家はうろたえるナルミに、どこかを指差しながら笑いかける。指差す先には階段があった。また降りていってみなと、そう言うのか。

 ナルミは答えない。階段の前でたむろする2人を追い抜き、急いでまた1階へ向かう。

 先ほど通り抜けた階段だ。構造は把握出来ている。ナルミは一段飛ばしで足早に、走るようにして降りていった。

 前回よりもさらに早く、ナルミは1階までたどり着く。そして1階の床を踏もうとする。すると――


「おかえり」

「……嘘だ」


 またもやナルミは屋上と屋内を繋ぐドアの前に居た。

 その後に数回、ナルミは階段を下りきろうと試みたが……

 何度やっても、階段の視点に、帰ってきてしまうのだった。

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