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[完結]1-B 最終話 いつものホームで違う景色を 後編

 ふと気がつけば、彼は見覚えのある場所に立っていた。辺りを見渡さずとも分かる。ここは毎日と言っていいほど通い、慣れ親しんだなじみの場所。

 『いつもの駅』、そのホームに彼は立っていた。

 後ろを振り返るも、そこには自動販売機しかない。先ほど彼が渡ってきた空中回廊は影も形もなかった。自分は夢でも見ていたのだろうか。


(……いや、んなワケねえか)


 あの出来事は夢じゃなかった。その確信が今彼の手の中にある。この缶が確信をくれる。

 彼の手には少女からもらったミカンジュースが、確かに握られていた。


――――――――――◇◇◇◇◇――――――――――


 人もまばらな早朝の駅、そのホームにて。彼はベンチに座りながら始発列車を待つ。

 だんだんと日は高さを増し、ホームに差し込む光も移り変わっていく。

 無機物の百面相を眺めながら、彼は少女にもらったミカンジュースのフタを開けた。


(こんな事でもなけりゃ、朝イチから甘ったるい物飲んでられるか! とか言って飲む機会なかっただろうな)


 チビチビと口を濡らすように、少しずつ中身を飲み込んでいく。このミカンが身になる頃には、自分はここから動き出しているだろう。


「……つっても、これで何が変わるんかね……」


 いや、変えるのか。だとすればあの少女が言っていた通りだろう。

 劇的な夜を過ごしたからといって、劇的に毎日が変わるわけじゃない。

 変えたい『ナニか』が、あるのなら。

 少しずつ、少しずつ変えていくしかない。


「まあ、当たり前だって言っちまったしなぁ~~」


 彼は誰に聞かせるでもない愚痴をこぼしながら、身体を反らし大きく背伸びをした。自分では気付かないうちに、ずい分とり固まっていたようだ。


「いつの間にやら、丸まっちまってたか」


 東の空から昇った朝日が、冷たいホームの色を変える頃。

 朝の空気に光が混じり、辺りを包む匂いが変わる。

 駅のホームにアナウンスが鳴り響く。もうすぐ始発がやってくるのだろう。


(いつもは不愉快な朝日のヤロウだが……今日は浴びてやってもいいな)


 朝日に照らされ変わりゆく、駅のホームを眺めながら。

 自らの身体いっぱいに太陽を浴びながら。 

 彼は手に持つミカンジュースを、一息に飲み干した。


「甘くねぇなぁ……」


 いつもの彼なら、飲み終わった缶に恨み辛みを込めて、力いっぱいダストボックスに投げ込むのだが……


「今日は、気分じゃねえな」


 なぜだか今日は、そんな気分になれなかった。

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