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[完結]1-A 最終話 『彼女は頭の上にミカンを乗せていた。』 前編

 市街地を抜けた先には小高い丘があった。ハジメが進む内にも、あの丘の向こうから太陽が昇って来ているのが分かる。

 ハジメが眩しさに目を細めていると、ふいに忠芳ただよしが話しかけてきた。


「さて、高梨君。私の役目はここまでだ。後はあそこにいる、彼女に任せるとするよ」


 あそこと言われてもハジメには忠芳ただよしの指示する先が見えないのだが、言いたいことは伝わった。

 なぜなら丘の頂上から。オレンジ色のマフラーをたなびかせ、大きく手を振る彼女が見えたから。


「元気そうだね。あの様子だと、上手く核になる人を案内できたんだろう」

「……忠芳ただよしさん。ここまでありがとうございました。あと、ピエロの人にもよろしく」

「いやいや。私は役目を果たしただけだよ。選んだのは、君さ。君は君が望む選択肢を自ら選び取ったんだよ。自分を誇っていい。ついでにあのピエロの事はけなしていい」

「アハハ……それじゃあ」

「ああ。縁があれば、またこの世界で」

「……話終わった?」

「わぁビックリしたー!」


 耳元から突然彼女の声がして、ハジメはその場で飛び跳ねてしまった。どうやら忠芳ただよしとの会話に気を取られている間に、彼女が近くまで走り寄って来ていたようだ。


「ごめん気がつかなくて……忠芳ただよしさんと挨拶とか、しなくていいの?」

「いいの。私あの人苦手だし、今更だし。それより時間も残ってないし、ちゃっちゃと行くよ」


 彼女はハジメの手を掴み、丘の上へと走りだした。いきなりの事でバランスを崩しそうになりながらも、ハジメは彼女に付いて行く。この既視感には覚えがある。


(またこれか)


 内心苦笑いしつつ、ハジメと彼女は丘を昇った。頃合いよく東の空から朝日も顔をのぞかせる。


「さーてさて。高梨君、いろいろあったけど……まずはお疲れ様」

(……この世界だと、ちょうどタイミングよく夜明けになったりもするんだな)


 いや、もしかすると何かを達成した時に日が昇るのかもしれない。そう思いはすれど、ハジメにはそれを確かめる術がない。


(まあこの世界だと、朝陽はこう昇ってくるもんだって納得するしかないか)


 彼女は折よく昇った朝日を背に、ハジメの方へ向き直る。その体勢で笑顔を浮かべてしゃべるものだから、ハジメには余計にかわいく見えてしまう。

 ついつい口も、軽くなる。


「ホント、キレイだ」

「……何? 頭打った?」


 彼女にじと目を向けられて我に返った。とっさに自らの口を手で覆うも後の祭り。


「ご、ごめん口が滑った」

「何それ……もう。調子狂うからやめてよ」


 朝日を背負っているせいか、当たる光の加減だろうか。ハジメには、厳しい言葉を投げかけてくる彼女の頬に、ほんのり朱が差しているように見えた。


「さて。高梨君も来たし、準備万端整いましたっと」


 何かを紛らわせるかのように。彼女は大げさな素振りを見せながら、ミカンを空へほうり投げる。

 空に投げられたミカンは、一体何に当たったのか。突然空に亀裂が入り、どんどんヒビが広がっていく。

 彼女はヒビを見ようともしない。まるでそうなるのが当たり前であるかのように、淡々と他の作業を進めていく。

 ヒビが広がり切る間に、彼女は小さく折りたたんでいたミカン箱を展開した。出来上がった形が、ハジメには小型のボートのように見える。


「ホントなんでもアリなんだな」

「ミカン箱だもの。舟にもなるわ。さ、乗って」


 彼女は即席のボートに乗り込むと、座席を叩いてハジメに『ここに乗れ』と催促さいそくしてくる。

 もういい加減慣れたものか、ハジメは素直に隣に座った。

 空に走ったヒビは限界を超え、ついに決壊するように砕け散った。すると砕けた空間の向こう側から、なにやら大量の液体が吹き出てくる。

 しかも液体の色は、オレンジ色。


「!?!?!? なんだなんだなんだ」

「しっかり捕まってね。たぶんだいぶ揺れるよっ!」


 オレンジ色の濁流だくりゅうは丘を覆い、2人が乗る舟も飲み込まれた。あやうく舟が沈むというところで、彼女の指が光を灯す。

 すると舟は宙に浮き、危なげなく濁流の上を進み始めた。


「おっおおう!? もう浮くのは今さらだからいいけどさぐぶっ! ……これで、どこまで?」

「外までよ。ほら横見て高梨君。キレイな朝日じゃない?」


 2人を乗せた舟はオレンジ色の濁流に乗り、朝焼けに濡れる街を駆け抜ける。

 あふれるオレンジ色の液体はとどまるところを知らず、見る間に一筋の川を形成した。空の上に透明な見えないコースでもあるかのようだ。流れるオレンジ色の液体は、地上にこぼれることなく、空の上を流れていく。

 一定の範囲からはみ出さずこぼれ落ちず、空を勢いよく流れていくオレンジ色の液体。2人が乗る舟はその流れに身を任せ、この世界から流れ出ていく。元の世界へ、帰っていく。

 空を流れる川を渡り、街を俯瞰に見下ろしながら。ハジメは心の底から笑った。


「アハハハハハハハハハハ! ホンっと、意味わかんねええええぇぇぇ……」

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