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[完結]1―A 第11話 ハジメはミカンに導かれ 前編

 ハジメは彼女に手を引かれ、夜の街を走っていく。

 2人を追いかける、巨大な物体。その名はデコポン。


「なっなん――なんでまたデコポンが来てんの!?」

「あーー! また言ったーー!!」

「えっ……あっまさか『デコポン』って言うのが駄目?」

「もう黙って!? あーもう前からも来たし!」


 彼女の言うとおり、2人が走る道の前方、その左側の分かれ道からデコポンが現れた。

 急いで彼女は進路を右に変える。彼女に右手を引っ張られながら、ハジメも遅れて右に曲がった。先ほどまでの道より道幅が狭い一本道だ。

 数メートルほど走った頃、後方から何かがぶつかる音が響いてくる。

 何ごとかとハジメが振り向くとデコポンとデコポンが正面衝突しているではないか。

 2人を後方から追いかけて来ていたデコポンと、2人の前方左の道から迫ってきたデコポン。このデコポンどちらもが2人を追おうとするも、2人が曲がった右の道は小さかった。道幅が狭まり、デコポン2つが並んで通れるだけのスペースがない。 

 結果、お互いが先に進もうとすればするほど、デコポン達は立ち往生する事になったようだ。


「ラッキー! アイツら何かに引っかかって止まってる」

「高梨君気を抜かない! なら今のうちに先急ぐよ」


 減速しようとしていたハジメを、彼女が強く引っ張る。デコポン同士が詰まっている間に、距離を取ろうということか。

 しかし、そんな2人の前にさらなるデコポンが現れた。

 なんということか、当たらなデコポンは2人が進もうとしていた前方から転がって来ている。後ろはデコポン2つで渋滞だ。

 前方にデコポン、後方にもデコポン。彼女はあわてて足を止め、ハジメも彼女にならう。

 ここで道幅が狭い道を選んだ事が裏目に出てしまった。前も後ろもデコポンでぎゅうぎゅう詰め、これではデコポンの横をすり抜けるスペースすらない。


「コレ、まずくない?」

「…………」


 彼女はしきりに首を回し、前後を確認する。焦りを隠さない表情を見て、ハジメの額にじんわりと冷や汗が浮かぶ。どうやら本当にまずい状況らしい。

 デコポンは考えるヒマを与えてくれない。立ち止まった2人を目指し、前方からデコポンが転がってくる。

 ジリジリ後ろに下がりはすれど、さすれば後方のデコポンに近付くが道理。このままでは下がるスペースが無くなり、デコポンに潰されることは目に見えている。

 しかしハジメには、この状況をどうすることも出来ない。彼女は依然口を閉ざしたまま。

 ゆっくりと、しかし着実にデコポンは迫ってくる。

 ごろり、ごろり。2人はさらに数メートル後退してしまう。もう後がない。


「……はーー……コレやりたくないんだけどなぁ」


 その時、彼女がついに口を開く。大きく息を吐きながら、何やら決心したようだ。


(なに? なに? コレってなんなんだ?)


 ハジメの心の中に疑問が列をなしていく。

 見守ることしか出来ないハジメの目の前で、彼女の髪色が変化し始めた。

 髪色が深い黒色から、光り輝くオレンジ色へ。たなびく髪から細かな粒子が辺りにただよい出した。

 彼女は頭の上にとどめていたミカンを右手に掴み、輝く光を集約させていく。

 彼女の発する光に反応したのだろうか。ゆっくりと近付いて来ていたデコポンが急に動きを速めた。彼女が何かをする前に、2人を引き潰さんと襲い来る。


「――せっ!!」


 だが彼女の方が速かった。デコポンが迫るその前に、彼女はミカンを放つ。

 彼女がミカンを放った先は、壁。

 左右に高くそびえる壁、その一面を狙って思いきりミカンを投げつけた。ミカンが放つ閃光が、辺りをオレンジ色一色に染め上げる。

 ミカンが壁に接触した途端、壁の表面に亀裂が走った。直撃した壁は数秒も耐えられず、粉々になって崩れていく。

 ミカンの勢いは止まらない。最初に当たった壁だけでなく、その先にあった建築物さえも撃ち抜いていく。通る先にあるものすべてを貫き、砕きながら直進していく。


「ボケっとしてる余裕ないよ!」


 ミカンに目を奪われているハジメの手を、彼女が強く引っ張る。そして自らが作りだした新たな道へと駆け出していった。数秒差で、2人が居た場所をデコポンが通り過ぎていく。


「……すごいな。ちゃんとアイツらが通れない大きさに調整したのか?」


 ハジメは彼女が作った道を走りながら。そんな疑問を口にした。

 彼女が街に開けた風穴は、ちょうど2人が並んで通れる程度の大きさだ。これならデコポンは通って来られまい。彼女はそこまで計算してミカンを投げたのだろうか。


「あんまりすごくないよ。すぐに塞がるから急いで通らないと」

「塞がる? 塞がるって……!?」


 彼女から返ってきた言葉の意味を、ハジメは自らの目で知ることになる。

 ミカンが通り過ぎ、穿うがたれた壁面に。ナニかが集まってきていた。

 ナニかは彼女が持つミカンと同じくらいの大きさか。だが数が多く、色が黄色。

 彼女が穿うがった道は、砕かれた建築物の破片が散乱していて走り辛い。足元を見ながら進んでいるつもりだったが、ハジメは謎の黄色い物体を踏んづけてしまった。

 するとどうだ。踏みつけた黄色い物体が数秒ほどで建築物の破片になったではないか。

 いや、これはもしかすると。建築物の破片こそが、黄色い物体の元の姿だったのかも知れない。


 (もしかして、コレバラバラに砕かれたから黄色いミカンみたいになってるだけで、元は建物の一部だったのか??)

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