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作者: 橘佑樹

どうも、なーめんと申します。

初投稿の作品です。こんな小説を見てくださって本当にありがとうございます。感謝しかありません。

この作品では願い、と言うものを取り上げてます。

きっとこんな世界があって、こんなお話があったら面白いなー、と思って書きました。

短い時間でも、楽しんでもらえたら幸いです。


無限に広がる草原。やった事は無いが、きっと、いくら歩いたって同じ風景が続くのだろう。

この青空もまた、無限に続いているのだろう。

時々、風が吹く。風が吹けば、草がゆれ、私の髪がゆれる。

ここにも、時は存在する。草が枯れ、死んでいけば、また新たな草が生まれる。

そんな世界で一人、私は体育座りをしていた。

ここに生まれ落ちた時から、私がこの世界ですることは分かっていた。

ここには、あっちの世界の願いが集まってくる。私はその観測者。

叶う願いがあると同時に、叶わない願いがある。

その願いを叶えるために、違う願いが食いつぶされる。

私は、その願い達を長い年月にわたって、ただひたすら傍観していた。

時々干渉もした。そうでなければ、その一つの願いが、ものすごい数の願いを食いつぶすからだ。

――これが私の、毎日欠かさずやってきた仕事だった。


●●●


この世界は、願いで作られている。あの青空も、雲も、あの大地も、草も、太陽でさえ、何もかもが願いで出来ていた。ここで新たななにかが生まれると言うことは、また新たな願いが生まれたと言うことになる。今日は新たに大地から芽がでていた。運次第では花が咲くことだろう


●●●


今日はあっちの方にあった木が、枯れてしまっていた。せっかく美味しい実がなる木だったのに。でもいいや、あっちにも美味しい実がなる木があるから。

あの木はずいぶん前からある。確かあれは…なんの願いだったかな。その願いが叶ったっていうのは分かるんだけど。

まぁいいや、いちいち覚えていたって仕方ないしね。

私は枯れた木を背に、あの大きくて、鮮やかな赤色の実をつけている木に歩いて行った。


●●●


また新たなものが生まれた。

新しく生まれ落ちたものは、不格好な形をした、草だった。

一体どんな願いなのだろうか。

その草の葉を、じぃっと見つめる。

『女の子のおパンティが見た』

すぐさま踏みつぶした。最初はぺしゃんこになったが、やがてその草は元気に太陽の方へ葉を伸ばした。

願いなんて、こんなものなのである。


●●●


そういえば、この木や草は抜いたらどうなるのだろうか。物凄く長い年月を過ごしているが、やった事は無かった。

この前生えてきた、不格好な草の方へ歩く。

あった、そうそうこれこれ……って。ちょっと成長してるんですけど……。

まぁいいや、とりあえず抜いてみるか。よいしょ……ってなかなか抜けない。

両手で持って、思いっきり力を入れる。そうすると、勢いよく草は抜けた。

………何も起こらない。別に抜いたって変わらないのか。

草を顔の方へ持ち上げ、見てみると。

根が無い。願いだけに。なんちって。


●●●


今日は、この前生えてきた芽が花を咲かせていた。別に花が咲いたから、と言うわけではないが、この願いは叶ったのだ。私にはわかる。もちろん理由なんてない。

咲いた花の周りにあった小さな草たちは、枯れてしまっていた。

願いなんて、こんなものなのである。


●●●


今日は、今にも枯れそうな状態で、大きな木が一本、生えてきた。

その木に近づき、枯れ落ちた葉を、じぃっと見つめる。

『お母さん、お願いだから死なないで』

胸がどきりとした。その木の葉は、絶え間なく地面に落ち続け、枝は力なく垂れ下がって行く。やがてその木は、朽ち果てた。

…………願いなんて、こんなものなのである。


●●●


今日は雨が降った。雨と太陽は、草や木たちを成長させる。

太陽や雨が、どんな願いだったかは忘れてしまった。でも、他の願い達を成長させると言うことは、きっと、そういう願いだったのだろう。ただ、地面の窪みに咲いていた花は、水が多く流れ込みすぎて、次の日には枯れてしまっていた。


●●●


この世界には、一本、とてつもなく大きな木が生えていた。私がこの世界に生まれ落ちた時から、その木は生えていた。その木は、空の見えない所まで続いている。

その木がどんな願いなのかは、いまだに分からなかった。ただ、この世界に存在しているということは、何かしらの願いなのだろう。

私はたまに、その木に登る。さすがに一番高い所まで登った事は無いけど。

その木の上から見る景色は、この世界の中で一番美しい物だった。


●●●


今日は不思議なものが落ちていた。

パンダのぬいぐるみだ。普通なら黒い所が、何故かこのパンダは赤い。

…意外に可愛かったので、拾って持ち歩くことにした。


●●●


また、新しい芽が生えてきていた。

その、とても小さな芽の葉っぱをじぃっと見つめる。

これまた小さな男の子が、一生懸命バットを振っていた。

この男の子の願いはごく普通の、ありきたりなものだった。

『野球選手になりたい』

この願いと全く同じ内容の願いは、この世界にたくさんある。もちろん叶ったものもあるし、叶わなかったものもある。

そしてこの子のように、今も成長し続けているものもある。

こうしている間も、男の子はバットを振ることを止めない。

……しかしだ、この子の素振り。

夢みる野球少年の素振りを私はたくさん見てきたが、この男の子が描くバットの軌道は最悪なものだった。違うんだよ少年、素振りと言うものはこう、もっとコンパクトに振るんだ。私もエア素振り?をしてみる。

私はしばらくの間、男の子の素振りを見続けていた。


●●●


私は、あのとても小さな芽の観察をしていた。

今日は一人で素振りではなく、仲間と一緒に野球をしていた。

一人は女の子で、もう一人は男の子だった。

女の子がピッチャーで、二人の男の子がバッターだ。二人は交互に、ボールを投げて貰っていた。

一人の男の子は、最初こそバットにボールが当たらなかったものの、慣れてきたのか、最後の方は芯に当たるくらいまでに成長していた。

一人の男の子は、日が暮れるまで一回もバットにボールは当たらなかった。

この日を境に、私は落ちていた枝をバットに見立てて素振りをすることが多くなっていた。


●●●


今日は妙なことが起きた。

ある女の子の『ほかの人を傷つけたくない』という願いは、その子が人の考えていることを読めるようになる、という形で叶えられた。

ある少年の『あの子の事をもっと良く知りたい』と言う願いは、その少年が人の過去をみることができるようになる、と言う形で叶えられた。

こういった、本当に特殊な願いの叶えられ方をする時が、ごく稀にある。本当にごく稀に。

それが今日で二回も起きた。たまたまだった、と言えば解決してしまうのだが、これはちょっとおかしい。もう少しちゃんと監視をしなくては。バットなんか振ってる場合じゃない。


ちなみに今日も、あの小さな芽から快音が響く事は無かった。


●●●


今日はいつも通り、私は太陽の下で体育座りをしていた。今日もたくさん物が生まれ落ちている。非常にいいことだ。暇つぶしにどんな形をしているのか見て回ろう。

その時だった。『何か』が、今、この世界に生まれ落ちた。

この世界に願い以外の物が生まれ落ちる事は無い。しかし、今生まれ落ちた『何か』はそれが願いなのか、違うものなのかも分からなかった。

こんな事は、永遠とも呼べるこの歳月の中で、一度も無かった。

その姿かたちを見てもいないのに、物凄く怖い。でも、もしこの願い達を食いつぶすものなら、私は闘わなければならない。もしかしたら、昨日の事もこの『何か』が原因なのかもしれない。その『何か』がある方向に、私は歩いていく。

近づいていき、その『何が』がどんな姿をしているかが分かり始める。

その『何か』とは――――



私とおんなじ形をしている、小さな女の子だった。

その女の子は、不思議そうな顔で、空を見上げていた。

遠くから女の子を眺めていると、こちらの視線に気づいたのか、女の子と目が合った。

びゅおー、という音と共に、風が吹いた。

その瞬間、女の子がこちらに向かって走ってきた。

とりあえず逃げた。

女の子「まってえーー」

その声が段々近づいてくる。後ろを振り向くと、すぐ近くに女の子がいた。

走るのはやっ!。

私は諦めて走るのをやめた。

女の子「おいついたー」

女の子が、私の目の前で立ち止まる。

近くで見ると、すごくきれいな髪をしている。

少女「……食べないで」

女の子「たべたりなんかしないよー」

少女「じゃあ、どうしてここに来たの?」

女の子は上の方を見て言った。

女の子「あなたのこえがしたからきた」

少女「……声?」

女の子「うん、こえ」

確かに私はこの通り、喋ることは出来た。しかし、喋ったことなんて、逆に少なすぎて覚えていない。

仮に私が喋ったとしても、だれかが私の声を聞くことなんてできないはずなのに。

女の子「いまゆめみてる?」

少女「…わからない」

もしかしたら、この子の夢の世界とこっちの世界がつながっているのかもしれない。

確か、この世界とつながりを持っている場所があった気がする。彼女はその土地の女の子なのかもしれない。

とにかく、この子の帰る方法を探さなくては。

女の子「あそぼ!」

この子の帰り方を模索している時だった。

少女「え?」

女の子「なにしてあそぶ?」

こんなになんにもなくて不思議な所に来たのに、この子は何にも心配してなかった。

少女「…怖くないの?」

思わず、問いかける。

女の子「んー?こわくなんかないよ?」

少女「もう帰れないかもしれないんだよ?」

女の子「きっとだいじょうぶだよ!」

少女「………」

なんて能天気な…。

女の子「そんなことよりあそぼうよー」

少女「遊ぶって言っても…」

ここには、遊べるものは何もなかった。

女の子「なにかしたいことある?」

少女「…野球」

無意識に出た言葉だった。

女の子「やきゅう!しってる!」

少女「ホントに!」

女の子「うん!やきゅう!ぶえいすぼーる!」

少女「う…うん」

女の子「おとうさんがだいすき!よくいっしょにやる!」

少女「じゃあ私とも……」

とはいっても、やはり道具がなかった。

女の子「どうしたの?」

少女「あのね…グローブもボールも私持ってなくて」

その言葉を聞くと、女の子は二コっと笑って、

女の子「ちょっとまっててね!」

走っていった。


しばらくすると、女の子が二つのグローブと、ボールを持って戻ってきた。

女の子「ん!」

グローブを一つ、私に差し出す。

少女「これどうしたの?」

女の子「きたときにおちてた」

なぜかグローブとボールという形でこの世界に生まれ落ちた願いよ、ありがとう。

少女「じゃあさっそく」

女の子「うん!」

女の子が私から少し離れる。

少女「いくよ!」

女の子「ばっちこーい!」

記念すべき私の第一投目。

ピッチャーを夢見ていた少年達の投げ方を思い出す。

えーっと、腕を上げて。最初に肘を前に出して。とりあえずやってみると、私の指からボールが離れていった。が、思っていたような軌道をボールは描かない。

そのボールは大きな山を描きながら、女の子に届くことなく地面に落ちた。

少女「届かなかった」

女の子「とどかなかった」

少女「…」

女の子「…」

少女「……あはは!届かなかった!」

女の子「とどかなかったぁ!」

届かなかった、という、ただそれだけの事実がたまらなくおもしろかった。

女の子「とどかなかったとどかなかったぁwww」

ちょっとムカついた。

少女「はやくこっちに投げて!」

女の子が落ちているボールを拾う。

女の子「いくよー!」

少女「ばっちこーい!」

女の子が、ボールを投げる。

投げられたボールは、また大きな山を描きながら、

……………地面に落ちることなく私に届いた。

女の子「とどいたよー!」

…なぜだ。

少女「いくよー」

もう一度。今度は届かせてみせる。

今度は、少し肩に力を入れて投げた。

さっきより大きな山を作ったボールは。

とど…かなかった。

…なんで。



少女「ば…バッティングやりましょバッティング!」

……けっこうな時間キャッチボールをしていたけど、いちども地面にふれず、女の子の元へ届くことは無かった。でも多分、私はバッティングが得意なタイプなんだ。人間には相性ってもんがあるからね。

女の子「いいよー」

少女「私バッターね!」

女の子「わかった」

私は愛用の木の棒を拾い上げる。ついに素振りの成果をみせる時が来たようだ。

女の子「いくよー!」

私はバットを構える。

女の子「あ!それしってる!おがさわら!」

適当というか、普通に構えたらそう言われた。

少女「これおがさわらっていうの?」

女の子「そう!ひげがすごい!」

よく分からないけど、おがさわら、私に力を貸して…!

女の子が私に向かってボールを投げる。やや逸れているが、当てられないことも無い。

足を上げて、タイミングをとる。

―もうすこしだ、もうすこしで。

……きた!

ぶんっ!どぐしっ!

女の子「だいじょうぶ?」

…ずっこけてしまった。

私…あの男の子より下手っぴなんじゃ…。

女の子「もっかい!」

転んでいる私に、女の子が手を差し出す。その手を掴み、私は立ち上がる。

少女「もう一回…ね!」

女の子「うん!」


女の子「いくよ!」

何回このいくよ!、を聞いたかももう覚えていない。

あの男の子と同じで、私は一度もバットをボールに当てることが出来ていなかった。

私が空振りばっかしている間に、あの女の子はストライクを入れるのがかなりうまくなっていた。

今度もまた、いい具合に打ちやすそうなボールが来る。

…ぶんっ!

なんとなくだが、結果は分かっていた。

少女「…」

下を向いてしまう。あの女の子も私のために必死にやってくれているのに。

女の子「もういっかい!」

少女「…もう…打てないよ」

もう疲れて腕も上がらない。もう、あの男の子のことを笑うのはやめよう。

もうやめよう、そう思っている時だった。

女の子「あきらめちゃダメ!」

下を向いている私に向かって、女の子は言った。

…そうだ、あの男の子はこれを何日繰り返しても素振りを止めなかった。

あきらめちゃだめだ。

少女「もういっかい…ね!」

女の子「うん」

やや離れた位置。女の子が立っている。何回も視たこの光景。私は何回もやったのと同じ様に、バットを構える。

女の子が投げる動作に入る。その姿は、だいぶ様になっていた。

女の子の指から、ボールが離れる。放たれたボールは少しずつ、ゆっくりと、こちらに近づいてくる。そのコースは恐らく今日一番の物だった。

ぱちっ、と言う音と共に、ボールが高く、高く、空へ飛んでいく。

そのボールは女の子の頭を超えていき、地面に落ちていった。

女の子「やったぁ!」

女の子が私に駆け寄ってくる。

少女「やったよ!」

女の子「やったね!」

駆け寄ってくる女の子を、私は抱きしめた。

たったこれだけの事なのに、すごく嬉しかった。

少女「次はあなたの番」

女の子「うっていいの?」

少女「うん!」

知らぬ間に、私は笑顔になっていた。

少女「ボールとってくるね」

ボールが向かっていった所へ、私は走り出す。早くあの子にも打たせてあげたかった。

確かこの辺に落ちたはず…あ、あった。

土まみれになったボールを拾い上げる。別にいい当たりだったわけではないけど、私は誇らしかった。

さて、次はあの子に打たせてあげよう。ちゃんといい球を投げてあげないとね。

少女「あったよー!」

後ろに振り返り、叫ぶと。

―そこには、グローブが一つ、落ちているだけだった。


この後、あの女の子の姿をみることは一度も無かった。


●●●


今日は素振りもせず、色々な願いを見ていた。この前のようなことがあるといけないからだ。

因みに、あの男の子は、まだバットにボールを当てられていなかった。


●●●


あの小さかった芽が、少しだけ枯れていた。

未だにあの男の子は、バットにボールを当てられていなかった。


●●●


ついに男の子は、バットを振らなくなった。同じように、あの芽はしおしおになっていた。

私は、手を器にして水たまりの水をくみ、その芽へかけた。水たまりから芽の所へ行くまでに、指の隙間からほとんどの水が落ちてしまったけど、私は何往復もして水をかけ続けた。

この行為に意味があるのかは、私は分からなかった。けど、私はやり続けた。


●●●


この前の二人のお友達が、男の子を野球に誘った。男の子は嫌がっていたが、二人のお友達はそれを無視していつもの場所に男の子を連れて行った。

いつも通り、男の子は空振りをした。何回も何回も、空振りをした。

ついに男の子は泣いてしまった。

それでも、お友達は野球をやめなかった。女の子は男の子の涙を拭い、もう一人の男の子は

投げ出されたバットを何度も拾って男の子に渡した。

日が暮れて、ボールももうほとんど見えなくなった時だった。

ついに、ついに男の子が、バットにボールをかすらせた。

女の子は物凄く喜んだが、二人の男の子は喜ばなかった。前に飛ばすまでだめだ、と言って。

そして、私はやっと、持つ場所が血だらけになったそのバットから、かきーん、と言う音を聞いた。三人とも、笑いながら泣いていた。

私は、改めてその芽をみた。その青く、透き通った芽を。

私はまた、水をくみに行った。この時私は、あの女の子の事を思い出していた。


●●●


ずいぶんに前に拾ったパンダを見つけた。そういえば、どんな願いで出来ているのかを見ていなかったなぁ。

パンダを両手でしっかりと持ち、じぃっとみつめる。

………。

なんにもみえない。あの大きな木は、何かしらの願いでできているのがわかる。しかしこの人形は、願いでもなく、空っぽだった。

私はこの人形を、持ち歩くことにした。


●●●


男の子はバットにボールを当てて以来、すっかり上達してしまっていた。すこし悔しかった。

私も自分で上に上げたボールを打つ練習をしたが、せいぜい十回に一回くらいしか当たらなかった。あの男の子は、三人の中で一番バットにボールを当てるのがうまくなっていた。


○○○


ある二つの木が、この世界に生まれ落ちた。

そしてまた、あの小さな芽は枯れていった。


○○○


私はその並んでいる二つの木を見た時、心臓の温度だけが急激に上がり、それ以外の場所の体温が下がっていくような感覚に陥った。息が荒くなって、その場にしゃがみこんでしまった。

『お願いです、どうか息子を助けてください』

その並んでいる二つの木は、枯れ始めていた。


○○○


男の子は、病院で寝たきりだった。その姿は、どこも怪我をしているようには見えなかった。男の子の部屋には、必ず二人の大人が居た。

女の人は、男の子にずっと声をかけていた。

男の人は、そのボロボロになった手を、ずっと握っていた。

三つの願いはまだ、どれも朽ち果てていなかった。


○○○


もし、この二つの木が朽ち果ててしまったら―


○○○


小さな芽は、まだ枯れることなく生きていた。

残り少ない力で、草を太陽へ向けていっぱいに伸ばしていた。

その姿は、弱弱しくて、痛々しかった。

だけどそれは、男の子がまだあきらめていないことを意味していた。


○○○


二つの木も、小さな芽も、日に日に弱っていく。

こんな光景、何回もみたはずなのに。

三つの願いは、世界に対して抗い続ける。たとえそれが無駄な抵抗だとしても。


○○○


―私はこの時、禁忌を犯すことを決断した。


●●●


私は、まず二つの木の近くのものから()ら(ろ)していった。

最初に枯らしたのは、『ある人と恋人になりたい』というものだった。

次に枯らしたのは、『無事、この子が生まれてきて欲しい』というものだった。

そうやって私は、たくさんの木や芽を、枯らしていった。

――願いを枯らすということは、人を殺すということにも繋がる。

そんなこと、最初から分かっていた。


●●●


また一つ、小さな草を枯らそうとした時だった。

『野球選手になりたい』

この願いは、あの時男の子を救ってくれた、もう一人の男の子のものだった。

その草は、枯れる様子など少しも見せず、元気に生えていた。

私は震える手でその草を掴み、

――枯ら(ころ)した。


●●●


私は、かなり多くの数の願いを枯らした。

が、その二つの願いは朽ち果ててはいないけど、枯れたままだった。

私はさらに多くの願い達を枯らしていった。


●●●


どうして、どうして、どうして。

いくら枯らしても、その二つの木は元気になる事は無かった。

それでも私は、あきらめずに枯らしていった。



●●●


あの不格好な草も、美味しい実がなる木も、全部枯らした。

――枯らして、枯らして、枯らしつくした。


●●●


気づけば、私のみえる範囲の場所から、願いがなくなっていた。

美しかった草木は失われ、大地がむき出しになり、ひび割れていた。

これだけ枯らしても、あの二つの願いは元気にならなかった。

少女「…なんで」

少女「なんでよ…」

少女「どうしてよっ!どうして元気にならないの!」

誰もいない世界で私は一人、泣き叫ぶ。

少女「なんで…なんでよっ…!」

土まみれになった拳を、地面にたたきつける。

その時、地面に人形が横たわっているのが見えた。その人形もまた、泥にまみれていた。

私は、空っぽの人形を抱き上げる。

…もしかしたら。

私はその人形を抱いて、走り出す。最後の望みを胸に。

あの、小さな、小さな願いの元へ。


●●●


もうその芽は、今にも朽ち果てようとしていた。

元々小さかった芽はさらに小さくなっていて、その葉に青い部分はなかった。

手に持っている人形を地面に置く。

そして私は、その小さな芽を、静かに地面から引き抜いた。

力なんて、いらなかった。

そしてその芽を、パンダにかざす。

その芽は、目に見えない、暖かい物となり、静かにパンダに入っていった。

そして私は、ある女の子を待ち続けた。


●●●


いくら待っても、あのときの女の子は現れなかった。

世界を歩き回って、あの女の子を捜したが、やはり見つからなかった。

あの木も十分耐えた。こんなに強い願いは、本当に少ない。

間もなくあの二つの木は枯れ果て、朽ち果てる。

私はまた、泣き叫んだ。

泣いて、泣いて、声が出なくなるくらい泣いた。

そして、女の子を探す旅から、はじめいた場所に帰ってきた時。

大きな、大きな木が目に入った。

―この木を、この木を枯らすことが出来たら。

私は最後の力を振り絞り、その木の下まで歩いた。

その木に触れ、枯らそうとした時。

―――あの時の感覚が、体中に走って行った。


●●●


女の子「こえ、きこえたよ」

長い髪が、風に揺れる。

少女「やっと、きてくれた」

私は、声にならない声で、また泣いた。

女の子「どうしてないてるの?」

その小さな女の子は、震える私を抱きしめる。

少女「…来てくれて…嬉しいからだよ?」

女の子「また、やきゅうしたくなった?」

少女「うん…でも今日はだめかな」

女の子「どうして?」

女の子が、心配そうに私の顔をのぞきこむ。

少女「あのね、今日はお願いがあるの」

私は女の子の問いに、答えなかった。

女の子「かなえにできること?」

そうか、この子の名前は―

少女「うん、あなた、叶ちゃんにしかできないこと」

女の子「わかった、かなえやる」

少女「…ありがとう」

女の子の頭を撫でてやる。女の子は、嬉しそうに眼を細めた。

少女「この人形を」

持っていた人形を、女の子に差し出す。

女の子「うわぁ、まっかなパンダだ!」

少女「そういう名前なの?」

女の子「うん!かなえだいすき!」

そうか、よくはわからないけど、あっちの物だったのか。

女の子「このコ、くれるの?」

少女「うん、叶ちゃんが持っていて」

女の子「…このコのこと、きらいになっちゃったから?」

そうか、私が嫌いになったからこれを譲る、と思っているのか。なんて優しい子なのだろう。

――この子が来てくれて、本当によかった。

少女「ううん、違うよ」

女の子「じゃあ、なんで?」

少女「叶ちゃんに貰ってほしかったの」

私は続ける。

少女「私の、本当に、本当に大切なものを、叶ちゃんに渡したかったの」

少女「叶ちゃんにじゃなきゃ、こんなことしないよ」

その真っ直ぐな目で、叶ちゃんは私の事を見据える。

少女「だから叶ちゃん、貰ってくれる?」

女の子「…ずっと」

女の子「ずっと、なくさない」

女の子「おみそしるもかけない」

女の子「おすなあそびも、いっしょにしない」

女の子「ずっと、ずぅっとたいせつにする」

そう、笑顔で叶ちゃんは言った。

少女「…そう」

少女「……ありがとね」

女の子「うん!」

少女「…あのね、叶ちゃん」

女の子「なあに?」

少女「このさきね、叶ちゃんが大人になるまで、大人にあった後も、すごく大変なことがいっぱい待ってるんだよ」

少女「他の人よりいっぱい、つらい思いをすると思う」

少女「いっぱい泣いて、いっぱい傷ついて」

少女「挫けそうになる時が、来ると思う」

少女「でもね」

少女「そんな時は、そのお人形をギュッと抱きしめて」

少女「その子には、絶対諦めない、強い願いが込められているから」

少女「だからね、叶ちゃん」

少女「絶対に、諦めたり、挫けたりしちゃだめだよ?」

女の子「……わかった」

イマイチ分かってなさそうな様子だ。それはそうだろう、この子はこんなにも小さいのだか

ら。

女の子「もう、かなえたちあえない?」

話の雰囲気から察したのか、不安そうな顔で、私に尋ねた。

少女「それは――」

その時、叶ちゃんと人形が透けはじめた。タイムリミットが来たようだ。

叶「もう、あそべないの?」

少女「…そうだね」

嘘はつきたくなかった。

少女「多分もう…会えないかな」

叶ちゃんの体が、どんどん透けていく。

女の子「かなえ、ぜったいまたくる!」

もう、その姿はほとんど見えない。

女の子「ぜったいくるよ!だから、そのときまであなたも絶対に―――」

そして叶ちゃんは、消えていった。

私は、急いであの二つの木の元へ走っていった。


○○○


枯れ果てた大地に、青々と茂った葉をつけた木が二本、そこに立っていた。

その木にそっと、触れてみる。

男の子の意識が戻り、二人の大人が泣いて喜んでいた。白い服を着た男の人は、その姿をニ

コニコと遠くから見つめていた。

――この願いは、叶えられたのだ。


○○○


あの男の子の願いは、この世界から違う世界に旅立っていった。

それはつまり、この世界の法則から外れたことになる。この世界の決められた運命から、外

れたのだ。よって、彼の願いがこの世界に来る事は無いだろう。

ここは、願いを育て、叶えさせることのできる世界。願いがこちらに来なければ、願いが叶

えられる事は無いのだ。

つまり、彼の願いは、もう―――


○○○


私の体が叶ちゃんを見送ってからもうすでに、消え始めていた。

禁忌を犯す覚悟を決めた時から、どうにかなることは分かっていた。世界がこんな事を許す

はずがない。二つの世界の運命を捻じ曲げたのだから。

もっとも、消えるだけで済むとも思ってはいなかったけど。

消えゆく体で、私はこの世界を歩いて回った。


○○○


大きな木は、私が消えるのと同じくらいのスピードで枯れていった。

私はその姿を見ないようにした。


○○○


どのくらい歩いただろう、後ろを振り返り、確認する。

歩いた距離を測るための目印にしようとしていたあの大きな木はなくなっていた。

しかし、代わりにできている物があった。

……なんだろう、あれ。

白い柱が、天まで続いていた。

私が消えるのと同じくらいに、あの柱の下へ着くだろう。私はもと来た道を、引き返していった。


○○○


近づくにつれて柱が大きくなっていく。が、まだあの柱の正体は分からなかった。


○○○


もう、ほとんど私は自分の姿が視えなかった。

そしてその柱の下に着いた時、初めてそれが何か分かった。

それは光の柱でもなんでもなく。

―――花。

あの大きな木にすきまなく、びっしりと花が咲いていた。

天まで続くその姿は、この世界で視た何よりも美しかった。そして、ずっと私が分からなかったこの木の事がやっとわかった。

ああ、そうか。そういうことだったのか。

天まで続く、その木に触れる。

これは、私の―――


□□□


僕はいつものトコロにむかっていた。ある病気にかかって、長いあいだにゅういんしていたからぜんぜんすぶりができていない。

お父とお母には外にでるのははんたいされたけど、このままだとまたあの二人にさをつけられてしまう。それに、毎日やらないと、僕のゆめはかなわない。

そう、あの大きな木がめじるしだ。あそこがひみつとっくんのトコロなのだ。

さて、はじめよっと。まずはバッターボックスをかいて。

「ねぇ」

こえのするほうへ、僕はむいた。

少女「ねぇ、私も入れて?」

おんなの子だった。でも、おんなの子だからってへたっぴなんていっちゃだめだ。ぼくは一人、やきゅうのじょうずな子をしっている。

男の子「いいよ!」

少女「私、バッターやっていいかな?」

男の子「…いいよ!」

少女「ありがとう」

ほんとうは僕がうちたかったけど、がまんした。

おんなの子が、僕のかいたバッターボックスにたつ。

男の子「なげるよー」

なげようとしたら、おんなの子がへんなかまえをした。

男の子「なにそれー?」

なげるのをやめて、ぼくはきいた。

少女「おがさわらだよ!はやくなげて」

なんかかっこいい、もしかしたらホームランをうつかもしれない。

僕は、ボールなげた。よかった、うちやすいコースになげれたみたいだ。

ぶん!どぐしっ!

おがさわらがずっこけた。

いそいでおんなの子のところへはしる。

男の子「だいじょうぶ?」

少女「いてて…やっぱりだめだった」

こんなときのために、ともだちがいるのだ。

僕はむねをはっていった。

男の子「ぼ…おれがおしえてやるよ!」



おひさまはもうほとんどみえなくなっていた。お母にはひがくれるまえにはかえってこいっていわれてたけど、ここであきらめちゃだめだ。

男の子「いくよー!」

少女「うん!」

そのおがさわらは、やっぱりぼくにはかっこよくみえた。

ボールをなげる。

かきーん‼

やっとこの音がきけた。僕は、この音がほんとうにだいすきだった。

男の子「やった!おめでとう!」

少女「……うん」

そのおんなの子は、せっかくうったのにかなしい顔をしていた。

少女「今日は、ありがとね」

男の子「…うん」

少女「すごく、たのしかったよ」

男の子「もうふたりおともだちがいるんだ!こんどきたときいっしょにやろ!」

なかまがふえたのが、僕はうれしかった。

少女「ねぇ、君」

男の子「なに?」

少女「君の近くにいる人たちを、大切にね」

男の子「…うん」

少女「君は、君の願いを誰かと一緒に叶えてかなきゃだめだよ?」

どういういみなのか、ぼくにはわからなかった。

少女「だから、お友達は、ずっと大事にしなきゃね」

少女「そして、君の願いが叶うことを心から願ってくれる人を、見つけるんだよ」

おんなの子が、ぼくのあたまをなでる。コドモあつかいされるのはいやだったけど、なんだかきぶんがよかった。

少女「さて、もういっかいだけうっていい?」

男の子「もちろん!」

やっぱりおともだちはおおいほうがたのしいや。

男の子「ラストいくよ!」

少女「うん!」

もう、このおんなの子のうちやすいところはわかっている。ぼくはそこにむかってなげた。

かっきーん‼

さっきよりずっととおくへボールがとんでいった。やっぱりおがさわらはすごいや!

男の子「ナイスバッティング!」

おんなのこにはなしかけよう…

男の子「…あれ?」

さっきまでいたおんなのこが、いなくなっていた。


●●●


この世界はすべてが願いで出来ている。青空も、雲も、あの大地も、草も、太陽でさえ、すべてが願いで出来ていた。

この世界は、願いを育み、叶える場所。

この世界には、人間が存在していない。

この世界にたった今、風が吹いた。その風は、一つの胞子をこの世界に運んできた。

あの風も願いで出来ているのだろう。当然胞子も、願いで出来ている。

願いが願いを、運んできたのだ。

その胞子は風に運ばれ、枯れ果てた大地に降り立った。

――この世界にまた一つ、新たな願いが生まれ落ちた。


さて、いかがでしたでしょうか。

これからも小説を書いていこうと思うのですが、この「叶」は、これから書いていくであろう作品の根底に当たる作品になると思われます。


ぜひぜひ、二作目、三作目も見てやってください。


感想メールなどをpiyopiyo903@gmail.com←こちらにいただけると嬉しいです。

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