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焦りと余裕とぶれない発言

 ハルファンドの街中では、戦いが始まっていました。上空には大型のワイバーン。地上では、建物の屋上を移動をしながら、冒険者たちが上空に攻撃を仕掛けます。しかし、届く距離に降りてきたと思ったら、すぐに攻撃を避け、上昇するワイバーンに手も足も出ません。


 激戦…ではありません。もはや、一方的な蹂躙です。


「と…届かん…」


 あまりの巨体と頑丈さ。それに、素早い飛行に矢も槍も届かず、下降してきたと思ったら、長い尾で薙ぎ払われます。


「く!これほど一方的とは…」


 苦々しい表情のウェイは、どうやら肋骨を折ったらしく、青い顔をして胸を押さえています。


 竜種を狩る時は十分な準備をし過ぎても足りない、とさえ言われています。今の時期、冒険者の数も少なく、武器の準備も万全ではありません。


「竜種が襲撃に来ることなんざなかったからな…。日和ってたな」


 アデルは、建物の影に隠れながら、傷を負った右腕を布で縛っていました。


 ハルファンドを襲撃に来た飛行種は今まで、大きくても人の2倍程度の大きさの鳥種、小さければ手の大きさの虫種でした。


 力が足りない。そう思わざるを得ません。あまりにも圧倒的な力に絶望してしまいそうです。



「え~!君らやる気あるの~?」



 呆れたような明るい声にアデルは振り返ります。


「リアーク!?なぜここに?!」


 近くの建物に寄りかかるように立っているリアークがいました。そう叫ぶと、近くにいた兵たちもこちらに視線をむけます。


「もう!君らは、揃いも揃って、どうして同じ質問しかしないの??」


「いや、だって…王都に…」


「それはもういいよ。あれが、ドラゴン?」


「あ…ああ、ワイバーンだ」


「…あれ、僕が倒したら、素材は僕の物?」


 リアークのいつもと違う笑い方に、その場にいた者は背中に冷たいものを感じていました。口の端を上げただけの笑み。ニタリと笑うその表情は笑っているのに、感情を全く感じさせないものでした。


「う~ん!1人って言うのが、ちょっと不安だけど…」


 リアークは寄りかかっていた建物に同じように立てかけていた剣を右手に一本取り、左手で槍を持ちます。すたすたとこちらに向かって歩いて来て、そのまま通り過ぎます。


「なんとかなったらいいなぁ。あ!そうだ、テンコにさ」


 振り返ったリアークの笑顔はいつものへらへらとしたものです。


「さがせ!って言っておいてよ」


 なにを?と聞く前に、リアークは走り始めていました。


 大きな瓦礫も転がる大通りを物ともせず駆け抜けていきます。その速度のまま、大きく飛び上がり、槍を振りかぶったかと思うと、上空のワイバーン目がけて投げつけます。リアークのあまりの跳躍力にも驚いたような声が兵から上がりましたが、その行動にも驚きを隠せません。


 いやいや、届くわけないだろ?と思っていたのか、その槍がワイバーンの左足に当たると、「…は?」と言う気の抜けたような声が聞こえてきました。


 高さで言うなら、ハルファンドの中で一番高い5階建てのギルドよりも更に倍以上、上空にいたワイバーンに、まさか当たると思っていなかったのでしょう。

 

 バランスを崩したワイバーンは、しかし、すぐに体勢を建て直し、怒りの咆哮を近くの建物の屋上に着地したリアークに浴びせます。


 が。


「があああああぁぁ!!」


 それとほぼ同時にリアークはワイバーンに向けて、同様の咆哮を浴びせます。


 ぱあん!と何かがぶつかって弾けたような音が響きます。


「あっはは!僕を威圧しようなんて甘い!来ると分かれば、相殺なんて訳ないよ」


 リアークの楽しそうな声。まるで、竜種との戦闘に慣れているかのような…。


 見ていた者はごくりと喉を鳴らし、こいつなら勝てるかもしれない…そんな希望が沸き上がります。


 しかし、端から見れば余裕たっぷりのリアークでしたが、その実、焦っていました。

 渾身の攻撃ではなかったにしても、地面に落とすつもりで投げつけた槍は、当たる直前に避けられ、狙った翼ではなく足に当たるのみでした。


 しかも、刺さらずにかするだけというダメージにもならない攻撃です。


 怒りを向けることには成功しましたが、武器も足りない、相棒もいない、そんな戦いに勝機を見いだせるほど、リアークは自分の強さを過信してはいません。


 それでも、「強い武器がほしい!」という欲望のために戦いに身を投じる、無謀なことをしている自覚だけはありました。


「さすが、森のドラゴン!こんなに見込みがない戦いも久しぶりだよ!」


 剣を左右にぶんぶんと振り回しながら、楽しそうに歌うようにリアークは言います。余裕があるようにしか見えません。


「あぁ、でも、届かないなぁ」


 上空のワイバーンを見ていたリアークは、剣をだらりと降ろし、すうっと息を吸い込み、


「さあ!!降りて来い!!僕が相手をしてやる!!」


 ビリビリと辺りに響き渡るほどの大声で叫びます。

 それに呼応するかのように、ワイバーンは真っ直ぐリアークに向かって急降下してきました。


 凪ぎ払うために尾を振りかざしますが、リアークは逆にその尾に捕まり、ワイバーンの背中を取ろうとします。しかし、ワイバーンはそれに気が付き、尾をそのまま、近くの建物に叩きつけます。


「…っ!」


 まともに叩き付けられれば大怪我はさけられませんでしたが、リアークはなんとか身体をひねり、壁への直撃だけは回避します。しかし、勢いが良すぎたため、尾を持っていた手が離れ、無防備な状態で空中に投げ出されます。


 そこに上からの尾の攻撃を喰らい、屋上の床に叩きつけられます。


「ぐっ!」


 更なる追撃を察知したのかリアークはすぐにその場所から、跳び退ると、その直後にワイバーンの尾がリアークが叩き付けられた場所に降り下ろされました。


 あまりの衝撃でその建物は倒壊し始めてしまい、瓦礫があたりに散らばります。


「いたぁ~」


 近くの建物の影に隠れたリアークの真っ白い髪は、すでに所々、赤く染まっていました。


「あ~、痛い…」


 リアークは服の袖で乱暴に落ちてくる血を拭います。


「やっぱり、飛行種はたたき落とさないと勝負にならないよね~」


 近くに落ちていた手の平大の瓦礫を拾い上げ、再び近くの建物の屋上に上がります。


 ぐるぐると上空を旋回していたワイバーンはリアークを見つけると、一直線に飛来します。


 手に持っていた瓦礫をワイバーンの顔に向けて投げつけると、ワイバーンは避けようと少し速度を落とします。瓦礫に意識を向けすぎたのか気が付けば、瓦礫を追ってリアークがすぐ眼前に迫っていました。


 ドゴン!!


 瓦礫を左手で叩きつぶすと、破片と砂がワイバーンの顔に降りかかります。


「ぎゃう!」


 顔にかかった破片にワイバーンはつい空中で制止してしまいます。そんな隙を見逃す訳がありません。右の翼の付け根に剣を走らせます。


「ぐおおおおおおおん!!」


 リアークの翼への攻撃にワイバーンは悲鳴を上げます。


「浅いか!」


 再び、翼へ攻撃のため、飛び上がろうとしたところへ、ワイバーンの足の爪が迫ります。

 リアークは後ろに跳び退リますが、左腕に攻撃を受けてしまい、苦痛に顔をゆがませます。とっさに左腕との間に剣を挟まなければ、あまりに鋭い爪に腕が切り落とされていたでしょう。


「いった!いたいいたい!!」


 爪が左腕に刺さったまま、足を切り落としてやろうと、刀に力を入れると、その行動を察知されたのか、すぐさま上空に逃げられます。が、その高さは翼を切り付ける前よりもかなり下です。ギルド屋上よりも低いかもしれません。


 そんなワイバーンにリアークはにっこり笑います。


「さぁ、続けよう!最悪、その爪を一つもらうよ」


 リアークは、ぼたぼたと左腕から血を流しながら、どこまでもぶれない発言をするのでした。

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