ひまは人類の敵
今回は6話完結予定です。
今までと比べると、一話当たりが若干長いです。
読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
とある国、とある街に、有名な2人の門番がいました。
「ふあ~!ひまひまひまひま!!
あ~、ひま過ぎて、そのうち足に根っこがはえちゃうよぉ!」
そう白い髪の青年が欠伸交じりに呟くと、正面に立つ黒い髪の青年はため息をつきます。
「暇なのは、悪いことじゃない」
「そうだけど、そうなんだけど!!
それでもひまは人類の敵だね!!魔王だね」
と、よりにもよって、人類の大敵と自身の退屈を同等に上げるこの言葉には黒い髪の青年は呆れるしかありません。
「あと、半時で交代だ。終わったら飲みに行くか?」
「おっ!!いいね!!かわいいコがいる店にしてくれよ」
「はいはい」
とは言っても、黒い髪の青年が実際に連れて行くのはいつも、むさ苦しい熊店主のいる居酒屋なのですが、白い髪の青年はいつもそんな軽口をたたきます。
この2人がいるのは、この国では王都の隣に位置し、第三の都市と言われるハルファンドの城塞都市。その都市に四つある門のうち、森に一番近く、通行人もほとんどが森に行く冒険者しかいないようなさびれた門でした。
彼らの眼前には広い草原、そしてはるか向こうに見える森があるのみです。森は…言ってみれば人跡未踏の地です。魔物や魔族が跋扈し、ドラゴンが上空を飛び、魔王が支配する場所でもあります。
いわば、ここは人類最前線。
そんな森に一番近い場所になぜ門なんか、と言われるのはもっともなことです。しかし、この城塞都市ができた後に魔王が生まれ、森ができたため、仕方ないと言えば仕方のないことでしょう。
門を無くすための改修工事をしようものなら、その隙に街に攻撃を受けるのですから、どうしようもありません。
そんな事情があり、ここの門番は強い者が選ばれることが常でした。
そして、この2人、門番をし始めて、まだ半年しか経っていないにも関わらず、すでにその実力はこの国だけでなく、他国にも知れ渡るほどでした。
黒い髪の青年、名をテンコ。白い髪の青年、名をリアーク。
「相変わらずだな、リアーク」
名前を呼ばれてリアークは、ちょうど門から出てくる集団に眼を向けます。
そこには、何人かの冒険者がいました。夕方になると、元々少なすぎる通行人しかいない、この門は更に寂しい人通りになります。戻ってくる冒険者が何人か来るぐらいで、出ていくものは珍しいくらいでした。
そんな門を彼らは、これから旅に出る装備で中から出てきたのです。
「…だれ?」
「…って、覚えてねぇのかよ!?俺、この街に来た時は、毎回お前に声かけていたと思ったけど…!?」
覚えられていないことに、ショックを受けたのか、先頭を歩いていた男はがっくりと肩を落とします。
「うそうそ!覚えてるって!たしか…ノッポ!!」
「ノーリスだ!!」
ありゃ?悪い悪い!と言って笑うリアークからは、全く謝罪の気持ちを感じられませんでした。
さらにがっくりとノーリスは肩を落とします。
「まぁ、いいや。これから、森に向かうの?もう夕方だよ?」
「森に入る前に夜営するから、いい。明日は朝から森に入るんだ」
「そんな理由はいいから、さっさと許可証を出してよね!」
「お前が聞いたんだろーが!!」
おちょくるリアークと本気でつっこむノーリス。
またか、とノーリスの仲間は溜め息をつき、テンコは二人をまるっと無視して、許可証を確認していました。
「…一人増えたのか?」
テンコの言葉に、ノーリスの仲間は驚きます。確かに前回来た時より、一人、仲間が増えていました。リアークの様子から、テンコも自分たちのことを覚えていないと考えていたのですが。
「あ、あ。そうなんだ。今回は、こいつが…。
食堂で俺らの話を聞いて、いっしょに行きたいっていうからな」
後ろに立つ、まだ少年と言えるくらいの男を示します。
「…ナラハです」
頭を下げながら、名前だけを告げた少年は、テンコをじろじろと見ていました。
「…注意はしているか?」
そんな視線を無視して、テンコは許可証を返しながら、ノーリスの仲間に尋ねます。
「もちろんだ。『生き物を持ち帰らないこと』だろ」
テンコは頷いて肯定します。
『生き物を持ち帰らないこと』。これは、かつての教訓から来ていました。
昔、森ができた直後のお話です。ある冒険者が、森で子犬を拾ってきたのです。
小さくて、ふわふわの毛を持つかわいい子犬でした。しかし、かわいい子犬はたった三日で見上げるほどの大きさになり、街の人間に襲い掛かりました。
街にいた冒険者たちが、なんとか倒したのですが、被害は大きく、20人もの人間が命を落としました。
その後も、何度も森から持ち帰った『生き物』が原因で街は悲劇に見舞われました。
その教訓で、森から『生きた物』を持ち帰ることが禁止されたのです。
これは、植物の種であろうと、虫であろうと同じです。
「虫殺しの薬も持っている。大丈夫だ。今日は鉱石が目的だからな」
それならいい、とテンコは彼らに通るよう示します。
「ほらほら、終わったよ!さっさと行ってよね。僕忙しいんだから!」
「え?さっき、ひまって言ってたよね?俺の気のせい?ひまなんだよね?
現に他に人いねえよね?」
「うるさいなぁ。ノッポがしっぽを巻いて逃げ帰ってくる姿を想像するのに忙しいんだってば!」
「ノーリスだっっっ!!!!誰が逃げ帰るか!!」
やれやれと言う様子でノーリスの仲間は門を通っていきます。
門は南門に比べると小さなものでした。北に位置するその門は、もともと堅固な城塞都市にふさわしいくらいの造りで、前に立つと圧倒されるほどの構えです。
なにより、幾度となく森から来た魔物に攻撃されてきたその門は、何度も改修され、より強固により頑強に造り替えられていきました。
だからこそ、始めてその門をくぐる時、まるで、トンネルを抜けるような門の厚さに驚く人が多かったのです。
そんな厚い門の外に向かい合うように立っているのが、2人の門番です。
仲間に引きずられながら、まだ何かを叫んでいるノーリスを見送りながら、2人は交代が来るのを待っていました。
夜の交代が来れば、門は閉ざされ、門番は、門の上から、辺りを見回ります。夜番の仕事は、森からくる外敵を見つけること、そして、森から逃げ帰ってきた冒険者を保護することです。
「はぁ~、夜番いいなぁ~。
交代で眠ることもできるじゃん?」
「昼も寝ればいいだろう?どうせ、昼はほとんど誰も来ない」
「お!言ったね?よし!!僕は明日から、立って眠る練習をするよ!!」
「ばれるから眼は瞑るなよ?」
「よし!それも練習だね!」
…ツッコミ担当がいない2人の会話は、どこまでも明後日の方向に飛んでいき、夜番が来るまで続くのでした。
仕事も終わり、2人は宿舎に戻り、着替えてからとある居酒屋に来ていました。
リアークは苦笑します。
「やっぱり、ここかぁ~」
テンコは飲みに行くとなると、ここしか選びません。
夜は看板娘のエレザさえいない、むさ苦しいおっさんが店主の小さな店です。
「ここしか知らない」
「悪いって言ってるんじゃないよ。飯は美味しいし…。かわいい子はいないけど…」
興味もないくせに、とテンコが言うと、リアークはにやりと笑います。
「人を変な趣味みたいに言うのは止めてよね。かわいい女の子は正義だよ!!むしろ、仕事中なら、ばんばん助けちゃうよ!!」
「…そうか」
なにが正義なのか、よく分からないテンコはとりあえず、同意をするのでした。
「そう言えば、明後日は休みだよね?なにするの?」
話を変えたリアークに、テンコは予定を話すのでした。