第二話 日常……そして反転 中編
そう、何年か前まではモブだった……
あのときは輝彦は織の友達、要するに友達の友達の仲程度だった……
はっきり言えばほとんど輝彦とは接点が無くて、たまに織に付いてきた程度だったし。
なにより主人公みたいな奴は好きじゃないから良かったんだ。
あのときまでは……
そう、俺の両親が死んだときだ……
あのときから「君が悲しみから立ち直るまで一緒に要るよ!」とかいって付きまとい始めた。
俺がもう大丈夫だって言っても、「強がってるんだね……」みたいなことを言われ効果なし。
しかもあいつと居て良いことなんかあるわけなく、学校に向かう途中で道を聞かれて、遅刻間際だったから手短に行き方を教えて立ち去ろうとしたら、「そんな適当な道順でたどり着ける訳がないじゃないか!最初から丁寧に教えてあげるんだ!」みたいなことを言われ結局道案内をして遅刻したり……
あ、因みにその時遅刻をしたのは俺だけ。
いつのまにか居なくなったと、思ったら教室に居た。
他にもケンカに巻き込まれて、結局俺のせいになったり……
あとは粉チーズ……は止めとくか、あれは今話せる話じゃない。とにかく、あいつと居て面倒ごとに巻き込まれない方が難しい。
だから……
「ねぇ、今日は一緒に帰ろうよ」
あいつがこんなこと言っても、きっちり断るようにしてる。
「今日は用事があるから無理だ、他をあたれ」
何より今日はこいつに関わるなと頭の奥で警報がなっている。その日は大抵良くない日になった。
「そんなに誰かと帰りたいなら、いつもお前の周りにいる女子どもに聞けば良いんじゃね?」
おぉ、たまには良いこと言うな、すこし尊敬してやるよ。
「彼女たちは皆、今日は用事があるから無理って」
どうせこいつを惚れさせる為の作戦会議だろう。やれやれ、今度はどんな手を使ってこいつを落とそうとするんだろうな。
「ん~、なら良いぞ。」
識が一緒に帰るらしい。まあ、お前なら結局奴等が居ても着いてくだろ、ほぼ絶対に。
「ホント!?やったぁ!」
輝彦はチアガールがやるようなジャンプをして喜びを表現した。男が跳び跳ねるな、気持ち悪い。年を考えろ。
「どうでもいいが、輝彦に甘いのな」
こいつが押しに弱いのは元々だがな。頼まれたら断れないと、学校で有名なのを知らないのか?
「ま、一応幼なじみだからな」
識が言うには俺たちは幼馴染みらしい、本当にそうだったか? まぁいい。
キーンコーンカーンコーン
話しすぎたな、急ぐか……
「先に行くからな、遅刻すんなよ? 」
自慢じゃないがこの3人の中では一番運動神経がいい方て、一番遅いのは織だ。
まあ、走ればたいして遅れないだろ。
一足先に学校につく俺、次に教室に入ってくる担任と輝彦そしめ遅刻して起こられる織、そんな感じでいつもの学校が始まった。
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いつも道理、いつもの様に時間は過ぎて行く。
授業の間、俺はただ外を眺めてボーッとしていた。
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キーンコンカンコン
最後のHRもおわり下校時間になった……さて、かえるか。
「よっ、おつかれさん!」
識が鞄をもってこっちによってきたが俺は忘れていない、こいつが黒猫を逃がしたことを。
しかし、騒がしいのが来たな……
「どうした? 今日は輝彦と帰るんじゃなかったのか? 」
てかさっさと行けよ、邪魔だ。
「いや、やっぱり着いてきて貰おうかなぁ?なーんて? 」
は?何を言ってるんだこいつは。朝に言ったことをもう忘れたのか?ならばもう一度言ってやろう。
「いやだよ、面倒臭い、それに今日はあいつと居たら寒気がするんだ、これは恐らく付いていくなという暗示……」
俺の悪い予感は当たりやすいんだよ。こないだだってその寒気を無視して付いていったらマンホールから落ちかけた。
「そんな!?俺だって悪い予感しかしないんだよ!頼むよ!」
よほど一人で行くのは嫌なのか食い下がる識。
識が仲間になってほしそうにこちらを見ている。
仲間になりますか?
→はい いいえ
答えは決まっている。
「死ね」
「ひどっ!?」
酷くない、ふざけるな、俺を巻き込むんじゃない。
織は絶望してるのか涙ぐみながら「終わった、なにもかも終わったんだ」とブツブツ言っている。
はぁ……面倒臭い。
俺は一人で騒いでる織を無視して教室から出る。そしていまだ絶望に浸っている識に話し掛ける。
「何やってんだ?置いていくぞ」
涙目でこっちを見るな。需要ないぞ。
「え?それって……?」
「……俺の用事は近くの本屋だからな、途中までなら着いていってやるよ」
そう言うと織は絶望から希望が見えたような顔をして……
「霧夜ー!愛してるぜぇー!」
感極まったのか、織が気味が悪い事を言いながら抱き付いて来る前に識の腕を掴み抱きつきを阻止、そのまま一本背負いを決める。
「気味悪い!落ちろ!」
「ぎゃふん!」
奴は受け身を出来ず地面に叩き付けられた、やっと静かになったか。
「ったく、黙っていれば良いものを……」
「黙ってたらそれは俺じゃないだろ?」
ふむ、確かにな、喋ってこそのこいつだしな。つまりまた懲りもせずに抱きつこうとしてるのは。また痛い目に遭いたいからなんだな?
渾身の右ストレートが識の頬にヒット。
「ぐへっ」
地面に崩れ落ちる識。どうせすぐに立ち直るだろう。
「どうでもいいが、お前懲りないのな」
やたら復活早いし、なによりしつこい。
「俺だからな!」
お前の異業は全てそれで片付くな、と話しているうちに玄関に着くと輝彦が待っていた。
「遅かったね?あれ?霧夜と掃除当番だったの?」
「いや、霧夜を説得してただけだよ」
そう織が言うと輝彦が驚いたような顔をした。
「え?それって……」
こっち見るな。
「……途中までだかんな、早く行くぞ」
そう言うと輝彦が目を輝かせ……
「霧夜……霧夜ー!」
輝彦が抱き付いて……こようとするがそんなことはさせない。
「死ね!」
背負い投げをかましてやる。
「フギャ!?」
「お前ら本当に懲りないのな」
楽しいか?同じ反応して。俺は不愉快だ。
「僕だからね!」
そういって輝彦は無傷で立ち上がり……抱きついて来る前に脇腹を蹴り飛ばす。
「ぶへっ」
お前ら本当にただの幼なじみか?双子かなんかじゃないのか?
「ほら、さっさと行くぞ!」
やはり一人で帰るべきだったな。
「ははっ、お前、そればっかだな。」
お前がそれを言うのか。
「え?ま、待ってよ!あ、そう言えば霧夜、こないだ勝手に職員室に忍び込んで……グチグチグチグチ……」
「ま、まあ落ち着けよ」
騒がしいな、まったく。
いつもこんな感じだ、いつもと変わらない日々、そしていつもの下校、勝手に怒る輝彦とそれを宥める織の話を聞き流し、ゆっくりと歩いて家に向かう……
こんな生活も悪くないなぁなんて思っていたりもした。そう……
この時までは。
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別れ道、右は本屋、左は帰り道、勿論本屋に寄る俺は右へ行く。
「それじゃあ俺はここまでだ、じゃあな」
もう会いたくないがな、特に輝彦、お前はダメだ。
「おう、じゃあな!」
「また明日ね!」
「おいおい輝 、明日は土曜日だ、学校は休みだぞ」
「え?知ってるよ」
「まさか、来るのか……俺と霧夜の愛の巣に……」
「おい、うるせぇぞ、さっさと帰れ」
何が愛の巣だ、あいつからしたらただの食堂だろ。
そして俺は織の「明日も和食で頼むぜー!」という幻聴を耳にしながら本屋に向かった。
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アリガトウゴザイマシター
「ふむ、新刊が揃ってたな」
買ったもの?そんなのに興味があるのか?月刊{お料理上手}と{猫の感情}だぞ?
悪いか?旨い物は自分で作って食いたいからな、猫は別に良いだろ。
「さて、帰ったらバルサミコ酢と柚子こしょうの相性でも…ん? 」
俺が道を進むと猫が居た。
しかも朝に出会った黒猫だ。
「これは運命かもしれない、撫でなければ」
そしてまた今朝の様に猫を撫で始めた……
ミャア~
「ん?どうした?腹でも減ったのか?仕方無い奴だな」
俺は黒猫を抱き上げ家に向かう。
確か家に猫缶のストックがあったはずだ。
「待ってろよ?もうすぐ猫缶が……ん?あれは……織と輝彦だな」
こっちに走ってきてる……そしてあいつらの足元には……
「魔方陣?また奇っ怪なもんを……さて逃げるか」
ガシ!と擬音が聞こえるほどの勢いで、織が俺の腕を掴んできた、邪魔くさいやつだな。
「霧夜ー!助けてー!ヘルプ!!」
「さっさと離せ、家に猫缶が待っているんだ、なっ?」
俺は猫に語りかける。
ニャア~
「ほらな、離せよ、あと10mも無いじゃないか、俺を巻き込むな。」
俺は織の腕を振り払いまた走り始め……
「逃がさないよ?」
今度は輝彦が俺の足をつかみ始めた、こいつらウザいな。
「おまえら、覚えてろよ?……仕方無い、猫缶の話は無かった事にしてもらうぞ、さっさと逃げろ」
俺は抱いていた黒猫を降ろし、逃がしてやる。
ミュ~
逃げない、むしろすりよってきた、残念ながらあと1mもない、逃げられないようだ。
「仕方無い、馬鹿二人はどうでもいいがお前は守ってやるよ」ナデナデ
安心させる為に黒猫を撫でてやる。
ミャウ~
そして魔方陣が輝きだし、視界が真っ白になった……
馬鹿二人の悲鳴と黒猫の鳴き声が聞こえた気がした。