浄化魔法は用法用量を守ってお使いください~次の敵は愛しき君~
久しぶりの筆になります。
浄化魔法。それは人類が穢れから逃れるための必須魔法。
そもそも穢れとは何だ。それは場に発生し、周囲を侵食する負の魂。それが穢れだ。浄化魔法はその穢れを浄化し、場と人を清める事ができる魔法である。
では浄化した穢れはどこへ行くのか。それは謎に包まれている。
「おお、勇者、聖女よ! 人々を穢れから救う旅に出る準備は出来ているか?」
「王様、俺達なら大丈夫です」
「王様、私達なら大丈夫です」
「流石幼馴染だな。諸君らを期待しているよ。では行くのだ!」
その日勇者と聖女が聖都アヴァロンを出発した。聖都アヴァロン、その国は勇者と聖女を排出する国であり、人類の希望の地である。約50~60年周期で到来する穢れの王に対抗するために勇者と聖女は存在している。
勇者には剣を。聖女には浄化魔法を。
それがこの世界の掟だ。
だが場に発生した穢れは剣では浄化出来ず、聖女の浄化魔法に頼る外がないと言うのが現状であり悪く言ってしまえば勇者は盾、荷物持ちと世間から言われる次第である。
「勇者! 大丈夫?」
「ああ、俺なら大丈夫だ。言われ慣れている。聖女も気にはしないようにな。穢れが寄ってくる」
「え、えぇ……もし……辛いようなら言ってね……?」
「分かった」
穢れの王が居るのは聖都アヴァロンから北に進む事歩いて2年ほどだ。そこまでの旅路は穢れの王の影響により徐々に穢れが強く、多くの場に発生するようになり、植民者の村が穢れに飲み込まれ全滅。と言うことも有るのである。故にある程度進むと人っ子一人居ない穢れた大地を常に浄化魔法を用いいて買いためた食料で進むことになる。穢れの王を倒すまで聖女は浄化魔法を使い続けなければならない。
「俺もいつか聖女の役に立つ勇者になることが夢なんだ。だから場に有る穢れも切れるようにならないと」
「大丈夫。私がいつまでも浄化続けるよ」
「いや、俺の気持ちの問題なんだ。一応見当はつけている。勇者自体が聖女の浄化魔法を使えるようになる。これが1つ。2つ目はこの剣だ……剣自体に浄化魔法を付与することで穢れを切る。一番現実味が帯びているのは後者だな。勇者には魔法が使えないのが歴史に刻まれてる」
「ウンウン。だとしたら……浄化魔法と相性が良い金属ってことだよね? だとしたらミスリルかな?」
「そうだ。ミスリル自体には魔法を良く宿す自体しか効果がない。硬さも鉄と同等だからな。そんな高価な剣を穢れに侵された獣や人間には使えない。場の穢れを浄化すると言う意味で切るしかない」
これが後の聖剣の役割となる、そして勇者の役割も変わる事になるとは誰も思わなかった。
そして勇者と聖女が最後の村を抜けるとそこには不毛の大地と一目見て分かる大地が広がっていた。穢れの濃度も強く、進軍速度は著しく下がる。そして少し進んで後ろを見ればそこには浄化した大地が再び穢れに飲まれている光景が広がっている。聖女が一瞬でも浄化魔法を絶やしてしまえば一瞬で穢れに飲み込まれ勇者も聖女も一貫の終わりだ。勇者は聖女の手を握り、移動し聖女は常に浄化魔法を唱え続ける。そうして歩みを続けること3日、一部穢れがない地帯を探しつつ移動し、休憩を取る。だが油断は出来ない。穢れに侵された獣が何時襲ってくるかわからないからだ。
勇者は聖女にこのときばかりと休ませ周囲を警戒し続ける。決して聖女には殺気を当てず、周囲に向ける。実は旅の本番はここからだ。これが約70回ほど続くのだから。大体の穢れが無い場所は王から地図をもらっている。だが稀にすでに穢れに飲まれ使えなくなっている場所もある。その場合は更に歩かなくてはならなくなる。それを踏まえると一年ほど掛かる計算となる。聖女の負荷はとんでも無いものとなる。
「聖女、大丈夫か? 辛くはないか?」
聖女は首をふる。だがしかし、聖女の額には汗、目元にはくまが出来ている。このまま送らせていたら聖女は過労で倒れてしまうだろう。勇者は聖女を抱えると少しでも負担を軽減させる。常に浄化魔法を唱えている為言葉を交わすことは出来ないが聖女の顔が微笑んだようには見えた。
そして穢れの王が居ると言われている場へと到着した。しかし勇者と聖女が見たのは一面死んだ土と空気と穢れ。穢れの王も穢れに侵された生物すら存在していなかったのである。勇者は困惑した。穢れの王を倒せば聖女はこの辛い現状から脱することができると期待していたのだから。それなのに何一つ居なかった。勇者が必死に探していると後ろからうめき声が聞こえてきたのだ。振り返ると、頭を抱え体から禍々しい穢れのオーラを纏う聖女が居た。勇者が必死に呼びかけるが聖女の様態は悪化していく。聖女はせめて慈悲の心が消える前に勇者の手で始末される事を望み勇者の剣を手に取る。ゆっくり勇者の剣が聖女の首元へと引っ張られる。
「聖女! 嘘だ! よせ……よせよせよせ! やめろ。俺にお前を殺せというのか!」
「お……が……。お……ね……が……い……。」
「……俺には出来ない……まだなにか……何か方法がある――」
「そ……ん……な……」
「聖女……?」
聖女を完全に穢れが包み、その美しかった洋装も腐り、美しかったシルバーの髪はほぼ抜け落ち、玉の肌は痩けたゾンビの様だ。まさにこれが――。
「穢れの王――」
「――――――――――――!!!!!!!!!!」
穢れの王が咆哮をする。その咆哮は穢れを大量に含んでおり場が一瞬にして穢れを帯びた。勇者としての体がある程度穢れに抵抗するが影響を完全に避ける事はできない。
「カハッ! なんでだ……なんでだ! 聖女! お前はこんなことしたくないんじゃないのか! お前は――」
「――!!!!」
呪の言葉を散らかしながら、その手で襲ってきた聖女にとっさに剣が振り抜かれた。これは理性より本能だ。聖女に触れてはいけない。聖女は咆哮を上げ切り落とされた腕を抑え後退する。勇者の本能が語る。ここで決めなければ自分は死ぬっと。勇者は剣を掲げると聖女を一刀両断で斬り伏せた。聖女は真っ二つに切られ動かなくなったが予想外なことが起きた。聖女から穢れが大量に抜けていき大地の穢れをすべて吸い寄せると勇者の眼前に黒い聖女の形を持って具現化した。
勇者の足はまるで杭で縫われたかのように動かなくなり、聖女が勇者の頬を片手で撫でるとキスをする。その瞬間穢れが一気に勇者の体の中に流れ込み、抵抗を示した勇者の体は一瞬で破られあっという間に侵食される。持っていた剣を落とし、体があまりな穢れに耐えられず腐り落ちる。そして原型を保てなくなった勇者は崩壊し、穢れとともにこの世界から消え失せたのであった。
そして満足したかのようにほぼ穢れを勇者に与えた聖女も消えていった。
そう、穢れの王とは勇者と聖女が旅をする事で生まれ、全ての穢れを聖女が取り込み勇者にやって殺されるまでが流れであるのだ。
だがしかし穢れは放っておけばまた溜まり出す。その度に勇者と聖女の旅が始まるのである。
そう、聖女を産む旅路へと。
途中まで書かれた勇者の史記が王の元まで運ばれた。それは最後の村で村長に託した物であった。”もし自分たちが戻らなかったらこれを王様に届けてくれと”と言われていた。そこにはこう記されている。
「始まりは些細なことであった。聖女の様子がおかしい。最近眠れていないようだ。旅の疲れからくるものだろうか?」
「旅は続いている。それなのに一向に聖女の不眠は良くならない。むしろ浄化魔法を使うにつれて悪くなっている用に見える」
「やっと行きの半分ほどについた。それなのに聖女は寝るのが怖いと言い出して夜も寝れていないようだ。いや、偶に気絶するかのように寝ている。一体聖女に何が……」
「俺は聖剣の理論を完成させた。これで聖女の荷が降りるだろう。以下に示す」
「俺は浄化魔法と言う物を理解した。理解してしまった。浄化魔法は万能じゃない。浄化魔法は本当は穢れを浄化している訳ではなかったんだ! 今頃気がつくなんて遅すぎる! 致命的だ! だが俺がそう言っても聖女は浄化魔法を使い続けるだろう。それが使命と分かっているかのようだった」
「おそらくこの旅で俺と聖女は彼の地で息絶えるだろう。そのためにこの史記を残す。どうか王様に届いてくれ……浄化魔法の本当の恐ろしさを伝えてくれ。でないとこの聖女の運命の輪が収まらない。もう聖女のような事をさせたくはない。どうか届いてくれ……」
ここで史記は終わっている。
王様はそれを読むと聖剣の行だけを取り出すと参謀に聖剣を作らせ、勇者の史記を城の奥深くへと頑丈に封印したのであった。それは聖都アバロンの存在意義関わる。王様としては読んではいけない、民に知らせてもいけないものであった。だが聖剣の行が書いてあり村長から受け渡されている為痕跡が残る。故にオリジナルは封印を行ったのである。民には聖女と勇者は任務を遂行したあと暇を出したと発表し、事実を隠蔽した。
そして運命の輪は周り続ける。
皆様も浄化魔法を使う際は穢れを取り込みすぎず用法用量を守ってお使いください。そうでないと聖女になってしまいます。
え? では私は誰だって?
嫌だな……だって貴方は私の勇者様、でしょ?
――穢れに刻まれた記憶から抜粋――
どうだったでしょうか? 物語でよく使われそうな浄化魔法の暗部に迫ってみました。
浄化すると言う事は絶対にどこかリソースを割かなければなりません。
それが聖女の体内だったと言う話でした。
ちゃんちゃん