幼馴染の目的
「私彼氏できそうなんだよね」
あたりが暗くなる中、家への道を歩いていた時、唯はそう言った。
「え?」
思わず聞き返してしまう。
「隣のクラスの春翔君。今けっこーいい感じなんだ。」
蒼井春翔。隣のクラスのイケメンで、相当な人気者だ。
そういえば、廊下で2人が話しているのを何回かみたことがある。
でも、まさか..
「前みんなで遊んだ時に2人きりになって、そこでそういう雰囲気になったっていうか。私のこと、好きなんだな〜って感じ」
隣を歩く唯が、楽しそうに言う。
「唯は..どう思ってるの?」
頭が真っ白のまま、そんなことを聞いてしまう。もう、何が何だかわからなかった。
「彼氏できそうってことは、そういうことだよ。」
唯は、前を見ながらそう答えた。
「だってかっこいいもん。」
「...そっか。」
恋だったってこと。今更言い逃れは出来ないなって思う。
泣く準備なんてしていなかったから、変な感覚だった。
「凪斗?大丈夫?」
顔を唯と反対方向に逸らして、頬に線を作った涙を拭く。
「大丈夫だよ」
「泣いてるの?」
「..泣いてないよ」
「嘘。小さい頃から何度も凪斗が泣くとこ見てきたんだよ。分からないわけない」
「..泣いてないって」
「やっぱり好きだったんだね。私のこと」
そう言い唯は、俺の頭に手を伸ばし撫でようとする。
「そんなことない」
「ううん。そんなことある。」
「今日の私を見る目、何だか表面だけ見てるみたいだった。楽しかったけど、それじゃ嫌。」
「昔みたいに、もっと奥まで見て、脳まで繋がるの。一緒になるの。それは恋人じゃできないこと。ただ好きって感情じゃできないこと。
だからこうやって全部、未然に防いどかなきゃ。」
唯が俺の髪をゆっくりと撫でる。
「じゃあ今日俺を誘ったのは..」
「あの子達に、凪斗が私のものってことを見せるため。凪斗を振るため。
凪斗は誰を好きになってもダメって教えるため」
唯は、さっきよりも笑顔で俺を見つめる。
..だめだ、これ以上は
「凪斗は凪斗のままでいて。私が私でいるために。ずっとね。」
「...嫌だ」
「嫌じゃないくせに」
「何でそう思うんだよ。俺が唯を好きだっていうなら..」
「さっきも言ったよ?もっと奥で繋がってるから。」
鼻同士が当たってしまいそうな程、唯が顔を近づけて来る。
気づけば俺は走りだしていた。
後ろから、唯の声が聞こえる
「逃げるんだ。でも、いくら走ってもこの繋がりは切れないよ。それはあんたが1番、よく分かってるでしょ」