幼馴染と映画 (後編)
スクリーンに入り、チケットに書かれた席に座る。場所は、唯の左隣。唯の右にはクラスメートの風見花、その隣には片桐清花が座っている。
「おそーい。ポップコーン買うのにどんだけ時間かかってんの?」
「めっちゃ並んでたんだって」
唯が不満げに言い、奥の花達が気まずそうに苦笑いしている。
「はい、あーん」
席に座るなり、唯がポップコーンを口に押し込もうとしてくる。恥ずかしいし視線は痛いし、なんとか防ごうと試みたが、あまりにしつこいので結局諦め、口を開けることにした。
「それでいいの」
唯は微笑み、俺の頭上まで持って行った一握りのポップコーンから手を離す。
「次はそっちの番」
そう言い口を開ける唯。
「いや、ほんとにそれはだめ」
「なんで?私にしてもらったんだからあんたもするべきでしょ」
「お前が勝手にやったんだろ..」
映画の予告編が始まっても唯は口を開け続け、結局、俺はまた諦めることとなった。
「んーおいしー!」
俺が放り込んだポップコーンをむしゃむしゃと食べる唯を見て、花と清花が何かコソコソ話している。あぁ..恥ずかしい。
でも、満足げな唯の笑顔を見て、そんな負の気持ちも少し、どうでも良くなってしまう自分もいた。
やがて照明が消え、映画が始まった。
映画が終盤に差し掛かる頃には、もう慣れたもので、お互いの口に何気もなくポップコーンを放り込むようになっていた。
最初の方は自分で食べようとしていたのだが、俺がポップコーンをつまむとすかさず唯が俺の口にポップコーンを放り込んでくるので、行き場をなくしたそれは仕方なく唯の口に運ぶしかなかった。
そういえば昔、初めて唯と2人で映画を見に来た時もこんなだったなぁ..と、隣に座る唯を見て思い出した。その瞬間、目線を感じ取ったのか唯がこちらに顔を向けてくる。
目が合い、お互い自然と笑みが溢れる。
唯も多分、同じ事を思い出したんだろう。
いや、最初から覚えていたのかもしれない。
そんな根拠もない妄想も、唯との十数年はさせてしまうんだ。
「あーおもしろかった!」
映画が終わり照明がつく。
「ね!めっちゃ良かった!」
「最初のカバのシーンめっちゃ笑いそうになっちゃった」
カバのシーン..?
そんなシーンあったっけ。
他の人たちが退場を始めたので立ち上がると、疲れがどっと押し寄せて来た。
「凪斗は?」
まだ座っている唯が、俺を見上げて聞いてくる。
「うん。おもしろかった」
「良かった!」
その屈託のない笑顔を見て、疲れが吹っ飛んだのは言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜〜
何であんなにイチャイチャできるんだろう。それが映画を見終わって、最初の感想だった。
別にうるさくしていたとかではない。ないのに、あまりにそういう雰囲気が隣から漂って来て、正直あまり集中できなかった。
ポップコーンをお互いに食べさせ合い、肩を寄せ合い、たまに目を合わせて微笑み合う。側から見れば、ただのカップルだ。
でも実際は、2人はただの幼馴染で、現在拗れに拗れた関係。しかも本人達はその拗れをあまり自覚していないときた。
色々含め、本当に目も当てられない。
場所は映画館を出て帰り道。前を見るとまた、唯と凪斗君が近い距離で話している。しかも唯の方は、まるで自慢するかにようにチラチラこちらを見てくる。
見ていられないので、隣を歩く清花の方を見る。同じく前方を見ていた清花がこっちを向く。
「すごかったね..というか、すごいね..」
「ね...でもあれが、唯のしたかったことでしょ?」
「だろうね..私たちに、凪斗君との仲を見せつけるっていう..」
清花がまた2人を見ながら言う。
「唯が凪斗君と仲良いから気になるって言っただけなのにね」
「どんだけ独占欲強いんだろ」
「それな...」
「自分とだけ一緒にいる、小さい頃からの凪斗君でいて欲しいんだろうね」
「多分、そうだろうね..」
危なっかしい関係だなぁ、と改めて思う。
「あぁそういえば..」
清花がさらに複雑な顔をして口を開く。
「何?」
「隣のクラスのイケメン君いるじゃん。」
「あー、春翔君?」
「そうそう。」
「春翔君、唯のこと好きで結構アプローチしてて、今なんかいい感じらしい」
「え..?」