幼馴染と映画 (中編)
早見凪斗。私の幼馴染で、隣の家に住んでいる男の子。
比較的高校生をエンジョイしている側の私とは違い、凪斗は所謂陰キャで、友達も少ない。
多分友達と呼べるのも、親友と呼べるのも、私1人だと思う。小さい頃からずっとそう。
そしてこれからも、それでいい。
凪斗は凪斗じゃないといけない。友達が沢山居るのは、凪斗じゃない。
ましてや彼女なんて出来たら...
考えるだけで嫌になる。凪斗は、ずっと私の隣で、ずっと変わらないまま、私とだけいれば良い。
なのに、今日、嫌なことがあった。
自分の横を歩く2人を見る。風見花と片桐清花。高校に入ってから仲良くなった私の友達。
この2人が今日、凪斗に接触しようとしたのだ。いやおそらく、花の方は接触した。花から僅かに、凪斗の匂いがした。掃除の時間、私が先生に呼ばれている間だろう。
意味が分からない。私と凪斗がよく話しているから気になると言っていたけど、なにも凪斗と話すまでしなくてもいいはずだ。花と清花は明るいし、人気な方だ。同じように明るくてかっこいい男子とも沢山交流がある。そんな2人が凪斗みたいな日影者と話して何が楽しいんだ。
凪斗も凪斗だ。花に自分の匂いをつけたりなんかして、私を挑発しているんだろうか。
凪斗は私のものだってことを、花と清花、そして凪斗にも思い知らせきゃいけない。
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-風見花視点-
私たちが映画館に到着したのは、空が少し赤みを帯び始めた頃だった。
「チケット買って来ちゃうから、なんかしてて!」
唯はそう言い、チケット販売機の方へ走って行った。
「私ポップコーン買ってくる!」
そう言うと、清花もポップコーン売り場へと消えた。
ひとりぼっちになった事は、考え事をするには好都合だ。
さっき唯のスマホに見えた、「チケット間違えて多く買っちゃったから来て」という凪斗君との会話。
でも唯はまだ、凪斗君を誘った事を私たちに言っていない。
多分唯は、本当に間違えたという体でチケットを多く買ってくるつもりだ。
3人で約束していた予定に、唯以外と接点がない凪斗君をねじ込むにはその方法しかない。
なぜそんな事をするのか。何で急に?
元々は、そんなつもりはなかったんだと思う。
でも、私たちが今日、凪斗君に興味を持ってしまったから。唯は今、暴走してるんだろう。歩きながら色々考えた結果、そうとしか考えられなかった。
相当拗らせてるんだろうな、と思う。唯は凪斗君に恋愛的な感情を抱いているわけではない。でも、取られたくないんだ。だからその兆しになり得るものに対し、何とか反発しているんだろう。
「ごめん、チケット間違えて一枚多く買っちゃった..」
可愛い顔でこちらに近づいて来ながら、唯は予想通りの言葉を発した。
「まじ?」
一応、驚いてみる。
「勿体無いから1番暇なやつ誘った。」
「誰?」
一応、聞いてみる。
「凪斗」
知ってる。
数分後、凪斗君が現れた。意外とポップなデザインのロンTに、少々ボサボサの髪。さっき言われて、急いで飛び出して来たんだろうな、というのが見て取れる。
凪斗君はまず私を見つけ、少し気まずそうな顔をした後、唯を見つけ、少し笑顔になった。なんか、ちょっと可愛いかも。
「お、早い!頑張ったね〜」
そんな事を言いながら、唯が凪斗君に近づいていく。
唯は凪斗君に触れられる距離まで近づくと、彼の髪に手を伸ばし、鞄から出したヘアブラシを使って、ボサボサの部分をなおし始めた。凪斗君その間、少し顔を赤くしながら
気まずそうにしている。やっぱ絶対、凪斗君は唯を好きだ。
その後、唯は彼の手を引きこちらへ向かって来た。同時に、大盛りのポップコーンを抱えた清花もやってくる。
そのすぐ後、唯の手に掴まる凪斗君を見た清花は、何が起こっているのか分からなくなりその場で固まってしまった。
「はい、あーん」
固まっている清花の持つポップコーンを勝手に一つまみした唯は、それを凪斗君の口付近に近づける。
「恥ずかしいって..」
「いいから」
凪斗君は赤くなった顔を覆い、その壁をこじ開けようと唯が奮闘する。
あぁ..これを私たちに見せたかったんだろうな、唯。自分のものだって、主張したいんだ。
そしてその思惑通り私と清花はこれから2時間、これを延々と見せられるわけだ。
気が遠くなる思いだった。