幼馴染と映画 (前編)
「チケット間違えて多く買っちゃった。勿体無いから来て。」
唯からそうメッセージが届いたのは、家に着き、疲れてベッドに飛び込んだ矢先のことだった。そういえば唯は今日の休み時間に、友達2人と映画に行く約束をしていた。
何で俺?
友達というのは2人とも女子だったはずだし、そもそも俺はクラスの男子ともまともに喋ったことがない。
チケットを多く買ってしまい、急遽誰かを呼ばなければいけないとなった時、考えうる人選の中で最も最悪なのが俺なのだ。
「無理。他の人誘って」
数秒後、既読がつく。
「全員予定あるの。暇なのあんただけ」
何とも嫌な返しだ。
「暇じゃないし。」
「最後にあんたが予定あった日って四ヶ月前の家族旅行の日でしょ。今日だけピンポイントで予定あるわけないじゃん」
何で知ってるんだ..?
イラつきよりも、怖さが勝る。
「..暇だけど、他全員女子じゃん。無理だよ」
「ほら暇じゃん。買っちゃった席は私の隣で端の席だし大丈夫だから。とにかく来て」
「それでも無理だって」
「私が手繋いどいてあげるから。チケット無駄になっちゃうんだよ?お願いだから来て」
..どんだけしつこいんだ。俺以外にも1人や2人くらい暇な人いると思うんだけどなぁ..
でも考えてみれば、唯の友達は男女問わず全員超陽キャポジションの人達だし、部活がないこの日は暇人などいないのかもしれない。
にしても映画か..
考えてみれば、唯が俺を遊びに誘うのなんていつぶりだろう。放課後俺の部屋でだらだらすることは多々あれど、外で一緒に何かをしたりすることは高校生になってから殆どしなくなった。
唯は高校生になってから、休日は毎回、クラスの仲の良い陽メンバーで遊びに出掛けている。
俺は大体、家でゲーム。別にそれで良かった。それが俺たちの生き方で、関係性。
でも...
スマホに目を落とす。唯とのトークルームには、絶え間なくスタンプが流れ続けていた。自然と笑みが溢れる。
久しぶりに唯と、家や学校以外で会いたくなった。そんな思いが無かったといえば嘘になる。
「分かったよ、行く。」
「ナイス。走ってきて」
ベッドから体を起こし、しわくちゃになった制服を脱ぎ、Tシャツに着替える。財布をポケットに突っ込み、階段を降りる。
喋ったこともない女子もいるし、あまり良い思い出作りは見込めない。でも、唯がいる。
さっきまでめんどくさがっていたのに、なんて単純なんだろう。
そんな事を思いながら、玄関の扉を開けた。