独占欲の片鱗
昼休み。教室の隅っこ。いつもの場所。いつも誰も気づかない。俺だから気づかないのか、隅っこだから気づかないのか。
後者ってことにしておこう。
「今日カラオケいかね?」
「あり!」
「えーまたー?」
教室の真ん中。太陽がよく当たる場所には、今日も明るい人達がたむろしている。
勿論、その中には彼女もいる。幼馴染の浅木唯。
「映画にしない?見たいのあるし!」
「あ、いいじゃん!」
「そういえばあんま行ってないね」
れいの提案に彼らが全会一致したところで、昼休み終了を知らせるチャイムがなる。
青春だなぁ、と思う。教室に舞った埃がダイヤモンドダストのように輝いている。
「次移動教室だよ」
声の主、浅木唯は気づくと俺の後ろにいた。顔を上げると、俺を見下ろしているれいと目が合う。
さっきの奴らは教室の入り口でれいを待っているようだ。
「すぐ行くよ」
「遅れんなよ」
そう言うとれいは俺の髪を無表情でわしゃわしゃと掻き回し、すぐにさっきのグループに向かって走っていった。
〜〜〜〜〜
浅木唯の友人、風見花の視点
「ごめんごめん。早く行こ!」
そう言いながらこちらに走ってくるのは、浅木唯。私の友達だ。
「遅い。何してたの?」
一緒に唯を待っていた片桐清花が拗ねたように言う。
「ごめんって。ちょっと凪斗と話してた」
「幼馴染なんだっけ?凪斗君。」
「そ。家も隣だし、まぁ長い付き合いよ。」
「はぇ〜」
幼馴染、か。廊下を歩きながら考える。
早見凪斗。同じクラスの、あんまり目立たないタイプの男の子。ほとんど喋ったこともない。というか、彼が唯以外と喋っているのを見たことがない。
「そういえば、唯が居ない時って大体凪斗君のところにいるよね」
歩きながら、清花が言う。
「そうかな〜?」
「そうだよ絶対!しかもその時の唯毎回すっごい笑顔。」
「そうかな〜?」
唯は少しはにかみながら適当な返事を繰り返す。そう、唯は凪斗君のことになると凄いふわふわしたものになってしまう。普段の、私たちが知っている浅木唯とは違う何かに。
そもそも唯は自分から話しかけに行くタイプじゃない。何もしなくても人が寄ってくるというのも勿論あるだろうけど、私の知っている浅木唯というのは人間関係に対して結構消極的なのだ。私や清花と遊ぶときも、唯の方から誘ってきたことはあんまり無い。勿論来たらはしゃぐし、ちゃんとjkをしているので元々そういうタイプの人間なんだと思う。
だからこそ私は、そんな唯が毎回自分から話しかけに行っている早見凪斗のことが、今になって少し気になり始めていた。清花の言うとおり、凪斗君といる時の唯はすごい楽しそうなんだ。果たしてその関係を、幼馴染という言葉だけで表現してしまって良いのだろうか。私にはもっと、特別なものに映ってしまう。
「あんま喋ったことないし、喋ってみよーかな〜」
何気なく、清花がそんなことを口走った。
「は..?」
立ち止まり、清花の方を向く唯。
あ、まずいかも..
「何?凪斗のこと気になってる感じ?」
「え?いやそういうわけじゃないよ..?ただ唯があんな楽しそうにしてる相手だから..」
清花も唯の異様な雰囲気を感じ取ったのか、少し声が震えている。
「気になってるってことじゃん。へー..」
唯が下唇を噛む。あ、ほんとにやばいかも。
「2人とも!授業遅れるよ!早く行こ!!」
緊張のせいか少し声がうわずってしまった。唯は一瞬こっちを睨みつけたが、直ぐにいつもの表情に戻った。
「ほんとじゃん!ごめん行こ!」
そう言い唯はてくてくと授業教室に向かって歩いて行った。
「ごめん助かった。びっくりしたぁ...」
教室の扉を開け、元気に入室していく唯を見ながら清花が肩を撫で下ろす。
「大丈夫。でも唯、凪斗君のことになるといつもと違くなっちゃうから慎重に行かなきゃ。」
「だね...」
そんなことを話しながら2人で教室に入る。唯はもう席に座って、近くの男女と楽しそうに話している。別の席には凪斗君も、眠そうにしながら座っている。
慎重に行かなきゃとは言ったけど、さっきのを見て一層、私は凪斗君に興味が湧き始めていた。
続きます