第5話 初依頼とお忍び王女との出会い
「ふぅ……さて、どうするか」
冒険者登録を終えた俺は、改めてギルド内を見渡した。
掲示板にはびっしりと依頼書が貼られている。
魔物退治、素材集め、護衛依頼……さすがに高ランクの依頼は無理だけど、Eランク冒険者向けの仕事ならなんとかこなせそうだ。
(まずはお金を稼がないとな)
さっきもらった冒険者カードを握りしめ、掲示板へ向かう。
何か簡単な仕事が――と、そこに目を引く依頼があった。
【依頼内容】
依頼名:迷子猫の捜索
内容:依頼者の飼い猫が市場周辺で行方不明になった。保護して連れて帰ってほしい。
報酬:銅貨5枚
「猫探しか……まあ、最初はこんなもんだよな」
魔物退治や護衛依頼に比べたら、地味だ。
でも、まずはコツコツ積み重ねて信用を得ないといけないし、今は飯代の確保が最優先だ。
依頼書を剥がし、受付カウンターに向かう。
「あら、レンさん。もう依頼を受けるんですね?」
再び現れた受付嬢のお姉さんが、にこやかに応対してくれた。
それだけでちょっと緊張する俺。
「えっと、これ……猫探しのやつ、受けます」
「ふふ、いい心がけです! 最初は簡単な依頼から慣れていくのが一番ですよ」
そう言って、受付嬢は書類にサインをし、俺に返してくれた。
こういうやりとりすら、ちょっと新鮮だ。
現実世界では経験できなかった、未知の体験――
それが、少しだけ俺を前向きにしていた。
「じゃ、行ってきます」
「はい、頑張ってくださいね!」
受付嬢の明るい声に背中を押され、俺はギルドを後にした。
*
市場周辺は、昼を過ぎても賑わっていた。
果物や布、香辛料の香りが混ざり合い、活気が満ちている。
そんな中で猫を探すのは、正直至難の業だ。
(……こういうとき、『解析』で見つかったりしないかな)
軽い気持ちで、視線を市場全体に向け、スキルを発動させる。
――解析対象:小型獣種。白毛。性別:雌。現在、屋台裏で休息中。
(マジで見つかった……!)
すげえな、『解析』。
もはや猫探し専用スキルじゃないかってくらい便利だ。
俺は屋台の裏に回り込み、木箱の陰で丸くなっている白猫を見つけた。
大きな青い目が印象的な、ふわふわの猫だ。
「よし……おいで、ほら、怖くないぞ」
そっと手を差し出すと、猫は少し警戒しながらも近寄ってきた。
撫でると喉を鳴らし、思ったよりすんなり懐いてくれた。
(あれ? 意外と楽勝じゃ――)
そのとき、背後から甲高い声が響いた。
「そこのあなた、何をしているのですか!」
「うわっ!?」
思わず飛び上がる俺。
振り返ると、そこには青いドレスに身を包んだ少女が立っていた。
透き通るような金髪、整った顔立ち。
その背筋はピンと伸び、どこか威厳すら感じさせる。
(お、お姫様……!?)
そう思わずにはいられない。
まるで絵本から飛び出してきたような、そんな存在感だった。
「まさか、猫を盗もうとしていたのではありませんよね?」
「ち、違う! これはその……依頼で探してただけで!」
慌てて依頼書を見せる俺。
少女はじっとそれを見つめたあと、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「そうでしたか……ならば、早く返してあげてください」
「あ、ああ……」
(……なに、この子?)
口調は高飛車っぽいけど、悪意はなさそうだ。
むしろ、猫を心配して声をかけてきた感じか。
「あなた、冒険者なのですか?」
「あ、えっと……そう、かな。まだ始めたばっかりだけど」
「そうですか。ふふ、悪くありませんね」
少女は小さく笑みを浮かべた。
その仕草が、やけに上品で――どこか親しみやすい。
「私はリリア。よろしくお願いします、レンさん」
「よ、よろしく……」
リリア――この少女との出会いが、俺の運命を大きく変えていくことになる。
そのときは、まだ知る由もなかったけど。