第3話 最初の仕事、そして魔物退治
「……さて、どうしたもんかな」
森の中でひと息ついた俺は、これからどうするか考えていた。
このままだと、街にも入れないし、飯も食えない。
けど、門番やさっきのゴロツキみたいな連中に絡まれるのは、もう勘弁だ。
(まずは金を稼がないと……)
そのとき、森の奥からかすかに声が聞こえた。
「お、おい! 助けてくれ!」
男の声だった。
その声に導かれるように、俺は森の奥へ足を踏み入れた。
もしかしたら、これが金稼ぎのチャンスかもしれない――
そんな、いつもの俺にはない前向きな気持ちがあった。
*
そこには、一人の行商人風の男が、魔物に襲われていた。
相手はイノシシのような魔物――ボアウルフ。
牙をむき出しにし、男に突進しようとしている。
(やば……俺、武器なんて持ってないぞ……)
でも、何もしないわけにはいかない。
そのとき、俺の『解析』が自動的に発動した。
――対象:ボアウルフ。危険度:Eランク。弱点:左目。
突進の直後、数秒間動きが鈍る。
視界の端に情報が浮かび、俺は瞬時に行動を決めた。
「おーい!」
俺は思いきり叫んだ。
その声に気づいたボアウルフが、こちらを睨んだ。
その瞬間、地面に落ちていた石ころを拾い、目標に向かって投げつける。
「――そこだ!」
石は見事、ボアウルフの左目に直撃した。
「ギャウッ!」
悲鳴を上げて暴れる魔物。
その隙に、男は後ろへと退いた。
けれど、次の瞬間――
ボアウルフは怒り狂ったように、俺へ突進してきた。
(くそっ……!)
避けられない――そう思ったそのとき、俺の中から何かが溢れ出した。
俺の右手に、見たこともない文字列が浮かび上がる。
「生成:土壁……?」
そう口にした瞬間、俺の目の前に土の壁が立ち上がった。
ボアウルフはその壁に突っ込み、もろく崩れた壁と一緒に倒れ込む。
(これ……俺のスキル……?)
『解析』に付随するもう一つの力――『創造』。
解析した情報をもとに、魔法を創り出す力。
俺は無意識に、それを使っていた。
「よ、よくやった、兄ちゃん……!」
男が駆け寄ってきた。
彼は行商人で、街への帰り道に魔物に襲われたらしい。
「助けてくれてありがとう! 礼をしたいが、これくらいしか……」
男は数枚の銅貨を手渡してくれた。
これがあれば、街の入城税を払える。
「それと……兄ちゃん、冒険者になったらどうだ?」
冒険者――
この世界でも、モンスター退治や依頼をこなす職業があるらしい。
金を稼ぐにはちょうどいい。
「そうだな……それ、悪くないかも」
俺はそう呟いた。
異世界に転生して、金もなく、頼れるものもない俺が、初めて得た収入だった。
解析と創造の力があれば、きっとこの世界でもやっていける。
そう思えた瞬間だった。