表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

第2話 平民スタート、そして初トラブル

「……とりあえず、行くしかないか」


 俺は草原に立ち、遠くに見える城壁都市を目指すことにした。

 ここが異世界なら、まずは情報収集だ。

 どこで、何をすればいいのか、まったくわからないからな。


 歩き出して気づいた。

 ――足が、めちゃくちゃ軽い。

 まるで重力が弱まったみたいだ。

 いや、たぶんこの体自体が、前より健康になっているんだろう。

 転生特典ってやつかもしれない。


(とりあえず、街に着いたら飯だな)


 お腹が減ってきた。転生しても腹は減るらしい。

 俺のポケットには、当然日本円しか入っていない。

 異世界で通用するはずがないから、何かしら稼ぐ手段を見つけなきゃいけない。

 ――そのときはまだ、俺が平民どころか底辺から始まるとは思っていなかった。


 *


 街の門は、思った以上に巨大だった。

 見上げると石造りの壁が空を覆うようにそびえ、門番が二人、槍を持って立っている。

 その背後からは馬車が行き交い、賑やかな声が聞こえてきた。


(マジで異世界って感じだな……)


 馬車や行商人の姿、荷物を運ぶ魔法使いらしき人もいる。

 それをぼんやり見ていた俺に、門番の一人が声をかけてきた。


「おい、そこの坊主。身分証はあるか?」

「み、身分証……?」


 当然、そんなもの持っているはずがない。

 俺が戸惑っていると、門番は呆れたように肩をすくめた。


「旅人か? なら、入城税として二枚の銅貨を払え」


 銅貨? 金貨でも銀貨でもなく?

 俺は慌ててポケットを探ったが、日本円しかない。

 当然、この世界では何の役にも立たない。


「その……金が、ないんですけど……」


 門番は露骨に眉をひそめた。

 後ろに並んでいた商人たちも、冷ややかな視線を投げてくる。


「金もないのに街に入るつもりだったのか? ここはグランフェルト王国の首都だぞ。流れ者は犯罪者予備軍だ。さっさと消えろ」


 そう言われ、俺は門の前から追い払われた。

 門の前でうずくまる俺の横を、馬車や行商人が通り過ぎていく。


(……マジかよ、いきなり詰んでる)


 これが異世界の洗礼ってやつか。

 とにかく金がないと、街にすら入れない。

 さっきまで異世界転生でテンションが上がっていた俺は、現実の厳しさを痛感した。


(まずは金を稼がないと……)


 俺は、城壁近くの広場をうろついていた。

 そのときだった。


「おい、坊主! ちょっと来い!」


 突然、背後から怒鳴り声が聞こえた。

 振り返ると、筋骨隆々の男が一人、こちらに歩いてきた。

 腰には大きな剣をぶら下げ、見るからにゴロツキっぽい。


(うわ、面倒なのに絡まれた)


「お前、こんなところで何してんだ? 金もないんだろ? だったら……」


 男はニヤリと笑った。

 そのまま俺の腕をつかみ、どこかへ連れて行こうとする。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 俺は慌てて抵抗した。

 だが、相手の力は強い。

 体が引きずられそうになるそのとき、頭の中に何かが流れ込んできた。


 ――対象:人型種族。戦闘能力:Dランク。筋力偏重タイプ。弱点:膝裏。


「……え?」


 視界の端に、知らない文字が浮かび上がっていた。

 まるでゲームのステータス画面のように、目の前の男の情報が解析されていく。


(これ……俺のスキルか?)


 混乱している俺の中に、自然と一つの知識が湧き上がった。

 ――『解析』スキルが発動しました。対象の情報を取得、最適行動を提示します。


(マジかよ……これが……)


 俺はそのまま、男の膝裏に全力で蹴りを入れた。

「ぐっ……!」


 男は膝から崩れ落ち、手を離した。

 反撃の一撃を食らわせるチャンス。

 だけど、俺はそのまま振り返って逃げ出した。


(ムリムリムリムリ!)


 いきなり戦って勝てるわけがない。

 だけど――確かに俺は解析して、最適解を導き出した。

 これが、俺のスキル――『解析』。


「ハァ……ハァ……」


 なんとか街から離れた森の中まで逃げてきた俺は、そこでようやく一息ついた。

 転生してすぐ、いきなり金欠、追い剥ぎ、トラブル。

 でも、ちょっとだけ希望が見えた。


(俺のスキル、使いようによっては……)


 無能扱いされたこの世界で、

 俺は――解析と創造の力で、這い上がってやる。


 そう、心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ