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第1話 運の悪い俺、刺されて異世界転生

長編物は初めてですがストックが十分にできたので公開していきます。どうかよろしくお願いいたします。

「……はぁ」


 また今日も、ため息から始まった。

 鏡に映るのは、どこにでもいる地味な十八歳男子――篠崎しのざき れん

 目立たない黒髪、無難な服装、どこか伏し目がちな表情。

 自分で言うのも悲しいけど、正真正銘の陰キャだ。


「……今日は、ちゃんとバイト行かないとな」


 スマホの時間を見る。夕方五時半。

 俺はフリーターだ。高校卒業後、進学も就職もせず、適当にコンビニバイトをしている。

 友達もいないし、趣味といえばネットサーフィンとスマホゲームくらい。

 このままずっと、誰とも関わらず、静かに生きていくんだろう――

 そんな諦めが染みついた生活だった。


 それでも、俺にはちょっとした特技がある。

 記憶力と分析力だ。

 小さいころから本が好きで、読んだことは何でも覚えているし、効率のいいやり方を見つけるのが得意だった。

 ……けど、そんな能力、こんな世界じゃ大して役に立たない。


(やっぱ、俺って運悪いよな……)


 昔からそうだった。

 テストのヤマは外す、ガチャは爆死、電車は遅延、雨の予報がある日は必ず降られる。

 人生のあらゆる場面で、俺はハズレくじを引く才能だけは持っていた。


 そんな俺の人生が、突然終わりを告げるなんて――

 そのときは、想像もしていなかった。


 *


 その日は、夜のシフトが終わった帰り道だった。

 深夜二時、人気のない裏通りを歩いていた。

 いつもなら人通りの多い道を通るけど、その日はちょっとだけ帰りが遅れて、終電を逃した。

 仕方なく、近道しようと路地裏を選んだのが、すべての間違いだった。


「……っ!?」


 角を曲がった瞬間、背後から荒い息遣いが聞こえた。

 振り返ると、そこにはパーカーのフードを目深にかぶった男が立っていた。

 目が血走っている。手には――ナイフ。


「な、なんだよ……」

「金、出せ」


 震える声。でも、その手元ははっきりとナイフを握っていた。

 冗談じゃない。

 俺は慌てて財布を取り出し、差し出した。

 中には、バイト代の数千円しか入っていない。


「ふざけんなよ……こんだけかよ……!」


 男の目がさらに狂気を帯びた。

 ヤバい――

 逃げなきゃ。そう思った瞬間だった。


「っが……!」


 冷たい感触が、腹に突き刺さった。

 目を見開く。

 信じられない。

 男のナイフが、俺の腹を貫いていた。


「や、め……」


 声が出ない。

 力が抜けて、膝が地面に崩れ落ちる。

 意識が遠のく。

 赤い液体が、じわじわと服を染めていくのが見えた。


(俺、刺された……?)


 信じられなかった。

 何で俺が――。

 ただ帰っていただけなのに。

 今日もバイトをして、帰るだけだったのに。

 運が悪い――そんな一言じゃ片付かないほど、理不尽だ。


(せめて、もし生まれ変われるなら……)


 気づけば、そんな願いを心の中で呟いていた。

 もっとマシな運が欲しい。

 普通の人生を生きたかった――


 *


「……ん、あれ?」


 気がつけば、俺は草原の上に寝転んでいた。

 どこまでも広がる青空、優しく吹き抜ける風、柔らかな草の感触。

 さっきまでの痛みも、恐怖も、何もなかった。


「夢……?」


 起き上がると、目の前には見知らぬ世界が広がっていた。

 遠くに森があり、その奥には高い城壁と塔がそびえている。

 目の前にはきれいな湖。

 俺の知っている日本の風景じゃない。

 どこか、絵本の中の世界みたいだった。


「いや、そんなはず……」


 自分の体を確かめる。

 腹には傷一つなく、むしろ体が軽くて元気そのものだった。

 水面をのぞき込むと自分の顔が映し出される。

 覗き込むと、顔立ちは大きく変わっていない。

 けれど、どこか柔らかくなった髪と、少し幼い顔つき。


(まさか、これ……)


 俺の頭に、ありえない言葉が浮かんだ。

 ――異世界転生。

 そんな馬鹿げたこと、現実に起こるわけがない。

 けど、今の状況を説明できる言葉は、それしかなかった。


「俺……篠崎 蓮……」


 そう呟いた瞬間、どこか違和感を覚えた。

 この世界の空気に、俺の名前はしっくりこない。

 でも、不思議とわかる。

 この世界での俺は、レンと呼ばれるのが自然なのだと。


「……はは、マジかよ」


 笑いがこぼれた。

 さっきまで、死ぬほど不幸だった俺が――

 今、まさに異世界に立っている。


 運が悪かった俺の人生は、ここで終わった。

 でも――

 ここから始まる人生は、どうなるんだろう。


 その答えは、まだ誰も知らない。

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