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箱 2020

作者: 墨田ゆう

『矢』

法と祖母を天秤にかけた。

法に重きを置いた。

家族を殺すのが賛美されるのはいけないよ。

法に触れて自分の人生を台無しにする価値はない。

あんたは包丁で殺し合いだと言ったが、

わたしはあんたに刃を向けない。

空から透明な矢羽が降りそそいで地球生物を貫いている。

時間は光の矢になって死にたがりのあんたを貫き続ける。

私達の肌を時間が撫でていることを受け入れなさい。

それが罰だよ。



『ね、』

ね、じぶんを傷つけたいって気持ちに自信をもってよ。 わたしはこの国の一員であって、その手下、中間管理職である両親に従わなければならない、この屈辱を血で汚してやりたい。ことばより強い色でね。この身体ひとつで表現したいの。

わたしたちは自由になれないって納得しようよ。わたしたちの地位を上げるためには生贄が必要だけど、それは子どもっていうんだけど、やっぱいらないと思うの。そうまでして子どもを生み出すことは人工的だから、さ。



『悦』

他人への思いやり、それが美しいと思わされてる。自分は自分だけのことしかわからない。

わたしがきみの頬をたたいたら、そりゃあ怒られるよ。当たり前に、暴行。けれど、きみの脳はわたしとつながってる?今わたしがわたしの頬をたたいたら、きみの頬もたたいたことになる?痛みを共有することになる? ならないよね。

つまり……ほんとうは、他人を痛めつけたい衝動がわたしにはある。わたしはわたしのことしか知れないって言い張りたいの。




『夜中』

ゴールデンウィークの夜

みかんの花が香っている

すこし肌寒い




〈うらやましい〉

死に魅入られる

死が欲しい

逃げや衝動というよりなにか別の……



『というか』

というか、無償の愛なんて、ツクリモノだよ。愛は努力しなきゃ愛じゃなくなるの。ほんとうにイイ子やイイ親とかいないの。

ほとんどの家庭はうちらみたいにおかしいの。それなりにおかしいの。



『脳』

わたしたちって、どこがおかしくて病院にいるんだろう?

ふっと…なにもわからなくなるときがあって、障害とか家族とか記憶とかそういう付属品がわたしから離れて、わたしって存在だけが残されるかんじ。

その世界はあたたかくてキラキラで、脳みそになーんにも入ってなくても許される。かなしみも、喜びも。



〈怒り〉

心は風邪ひきません。心は存在しません。

ひとに迷惑をかけるなって大人は言う。けどどこまで迷惑をかけていいかまでは口で言ってくれない。あいつらは背中を見せてくるだけ、なにかしら感じてくれてるだろう、なにかしら察するだろうってさ。うしろにわたしがいない可能性を疑わないの。それでわたしが手首を切る頃になってこういうの。

なんでなにも言ってくれないの、わたしたち友だち/家族じゃない。

こういうすれ違いはもう飽きたの。あたしは自立したいの。



『上』

誰かを救いたければ、その誰かより飯を食べ、眠り、元気でいること。誰かよりも上にいること。



『正義』

ここに正義はありません。善と悪がないのだから、行いを裁くことはできません。光と闇がまじわる世界で、ひとは暮らしているのです。

法律はひとのなかにあって、ひとがひとであるために守るのです。誰かに期待したって、誰もじぶんを守ってはくれないことを、信じてください。



〈悲しい、怒り〉

ひとにたいして

なんの情もわかないのはどうして

なんの情も生まれないのはどうして

この眼の前の知り合いともう会えなくなっても、

特になにも言うことはないねって言うわたしはどうして

薄情ですらない

髪をひきちぎって捨てた

頭を傷つけたかった。



〈怒り〉

もう失意しかない。

きみたちのしてることはね、やっぱり身体が死なないようにするって一番の目標から抜け出せないのよ、あたしを見てないのよ。

酒のんだりリスカしたりして何が悪いんだ、死ななきゃいいんだろ、死ななきゃいいんだろ!

どうしてわたしだけの身体が手に入らないんだよ!



『若者』

ほんとにわたしだけの気持ちが重要ならもっと殴り合いたかったことばで。あんたのことも悪口を言ってやりたかった。もっと自由のために暴れたかった。

あんたもわたしも変わらずに変わろうとしてた。ほんとに変わりたかったら歯を剥き出しにして叫ぶべきなんだ。他人なんか踏み潰すべきなんだ。でもできないね、世間から外れたら身の置き場なくなっちゃうから。

個人の気持ちなんて、ほんとにいるのかな。偉い人たちがいればそれでいいんじゃないかな。


 

『契約者』

ね、どれだけの患者がちゃんと契約できたのかな?

親に言われたからとか、先生の指示とか、自分が望んでないのに関係を結ばされて、あげく相手の説明のないまま回数だけ重ねていって、言いたくないことは言わなくていい自由があるってことを説明されないまま、わたしだけが利益を得られない。



『救われる法』

自分が家を出る

このままでいる何もしない我慢する

家庭を壊す



『親孝行』

親孝行なんてのは、親のために子どもがエンターテイナーになって老後を楽しませる、余興だよ。楽しませるってどういうことかというと、どんな方法でも構わないんだ。退屈だなあと思わせなければ満足するはず。そして余興ってどういうことかというと、親が、この世からあの世へ帰るための準備のこと。もちろん子どもは親孝行しない自由はある。

けれど反抗と見なされるかもね。だから親は子どもにうるさくする。



〈高揚、怒り〉

親が子どもを取られたって言うのはね、所有権が誰にあるのかって主張するためだよ。ぬいぐるみを返してって。いつもの場所にあったモノがないよって、怒って、足音おおきく走り回ってるだけ。愛とか存在しないの。親だけが生きてるだけなの。子どもは身体だけそこに有るだけでいいの。それがしつけっていうの。しつけ糸。

だから買ったものや出かけた先で起きたことをチェックするの。ぬいぐるみをお片付けするために。



〈悲しい、空想〉

結局あたし、昨日なんでリスカしたのか語りたいわけじゃくて、十年前を、聞いてほしい、言いたい……あたしは、あたしを助けに行きたい。

抱きしめてやりたい。

ずっと思ってる、これからもずっと。

ほんらいは、いまを話さなきゃいけないのに、どうしてあたしの口からは、もう終わった話ばっかり出てくるんだろう。こんなだから……



『叫び』

同じ場所を回っている

おなじことを繰り返す

時計の針みたいに

抜けようとしても同じ場所に還るだけ

座りこんでるわたしがいた

客観という世界なんて退けて

あたしはあたしだけを信じたいのに


ね、ちゃんと会いにきて

記録の中のあたしに会いにきて

ちゃんと会いにきて

ずっとここにいるよ

ここにしかいられん

あたしに会いに

いつも待ってる

もう何年も

あたしは起きてる

もう眠りたいの


同じ場所を回りきって

円は底が抜けて

あたしは沈んでいく

あたしはあたしを手に入れる


たぶんだけど

いちど過ぎた時間へ

それがわたしの時間だったにせよ

もう会いにいくことはできないんだ

向こうから来てくれて

与えてくれることはあっても




〈同情〉

会ったこともない人間を可哀想だと思った。

私はうまれて初めて、他人に同情した。

どうしてだろうって、どうして苦しんでる絵を見て、わたしは悲しいって気持ちになったんだろう。

これはわたしのことでもあるから。

だから、私自身のことも、可哀想だと思えた。思ってもいいんだと気づいた。涙が止まらなくて、鼻水がつまって、息ができなかった。

わたしのかなしみを認める。



〈虚しい〉

あたしはずっとこの町で生きていくものだと思ってたから、この町のコンクリートを撫でて死んでいくと思っていた。



『まわる』

……きみは変わらなかったね。

わたしは期待してたんだよ。

あのことできみは自分のことだけを考えられるようになるだろうって。

けどまわりの人間たちに媚びるばかり。

きみは自分のために生きないね。

きみのしてる努力はさ、きみの頭のまわりを循環するだけだと思うな。



『OD』

まぁ地獄をみるがその後は上がるしかないので楽といえば楽や



〈とまどい〉

あたしだってなんでリスカしたのかわからないのです。はじめはかなしみを薄めるための儀式だった。シワやしみがひとつもない肌に傷をつける。飽きるまで。明日は一般的な子どもでいられますようにって。

あたしだってリスカがおかしいことくらい知っているもの。未来ある子どもが自分の身体を傷つける気味悪さを…けどリスカすると落ち着くの。結果だけ見れば、あたしはフツーの子どもと変わらないんだよ? ぬいぐるみに触っていい気分になったり、音楽を聞いていいなって思うのと同じように、赤い血を見ているだけなんだよ。

あたしの自由を誰が罰することができるの?



〈怒り〉

「大丈夫、親子関係が壊れても修復できるから。距離をおいたら気持ちが楽になるから」

……ね、じゃあ壊したものをあたしに見せて。やって見せて。くっつけたものを見せて。

経験則。

ね、魔法使いさん。あたしに見せて。


この場所(精神科)に真実はないくせに、あるふりをして生活している。あたしも先生もカウンセラーも、過ぎ去ったある日を見つめている。流れていった時間に逆らって立っているから、未来に背をむけたまま、どこへも行けないのだろうか。


みんな、みんな、きれいな目標をいってくるの。学生時代のときはバイトができたら正社員になろう。引きこもってからは話す練習をカウンセラーとしてひとと繋っていこう。今は家を出てGHで暮らそう、一人暮らししてもいいよ。慣れたら、慣れたらって、できなかったよひとつも。どうしてみんな……頭の中のわたしもだけど……未来を信じたんだろう。


みんなわたしに、一人暮らししたくない?って言ってきた。わたしは一人で暮らしてないことがだんだん恥ずかしくなった。

でもいざ物件を探すとなると……うまくいかない。こんなにうまくいかないと思わなかった。みんな簡単そうに支援するよって言ってたくせに、わたしが意思を伝えると困った顔をした。一年ぐらいかかるとか、親の説得とかどう生活していくかとか……そんな話になった。

そしてGHの空きはだーれもわからないの。

センターもpswも。自分で探すしかないの。

調整に一年かかるの。

そしてある時気づいたの。この支援はわたし向けじゃない。入院してる人やもっと優先度の高い人のために用意されてるんだって。

その人たちを支援し終わったあとの時代が来ないと、わたしの番はこないんだって。

思い出すのは…やっぱりわたしはあの日、きょうみたいに虚しかった日に、家を出るべきだったのかな。

あれから、時が進んで、これからも止まらず進んで、わたしはきっと流行遅れの服を着たまま終わっていくんだろうなぁ。



〈怒り〉


この家に精神病者がいることをバレたくないんだ。



〈悲しい〉

意思決定支援

自由意志なんてモノが、ほんとうにこの世にあるって、アンタは信じてるっていうの?

自由に生きていいんだよって言っておきながら、周りに自分勝手だと言われても耐えられるかってダブスタを、聞かされて…。罪悪感をもたずにいられるかよ。

わたしはそんなモノほしくない。

だからもう、いいの、いいの。もう。



『良き』

良き将来・未来にいきたいとじぶんで選択できる。

けれども、悪い行いをするじぶんを選択できるのもまた自由意志なのではないか。

だからこそ法律で人間を罰することができる。



『論』

さて、無敵の人について。

彼らのほんとうの狙いは死ぬことではない。そもそも無敵の人は生きている実感がない。金もいきいきとした時間もない。

装備で頼りになるものはじぶん自身だけだから、フラストレーションをまぎらわすために生命で他人とコミュニケーションするのだ。

(金があれば金を使っていたはず)

まわりは彼らを認識し、なぜこんなことをと疑問をもつことになる。彼らは交換できるものがじぶん自身しかないと思っているから、ひとを傷つけた対価として、自分を交換したがる。これがまわりとのズレを生む。



『支援』

あたしは、支援されてるのかな、支援ってなに。

あたしは支援者の前でもいい子を演じている。あたしはどこへ行ってもあたしじゃない。聞き分けのよい笑顔でいる善。

あたしは支援者のイイコトしてるってきもちを満たすために面談してる気がしてる、これはなに?

あたしと支援者の契約は平等じゃない。



『天秤』

病院にかかれば救われると思ってるんでしょう?カウンセリングすれば楽になれると思ってるんでしょう。

人間が簡単に変わるわけないじゃない。変わることができたら矯正された証。

薬を飲めば誰かを信じられる自分になれるとでも?

ひとのことを信じるにはさ、ひとより自分を見てなくちゃね。天秤にかけるのは他人と他人じゃなくて、他人と自分、自分から秤に乗らなければ傍観者のまま生きていくことになるよ。



〈悲しい〉

もうなにもしないほうがいいのかな…

なにも行動しないほうが楽になるのかな

時の流れに身を任せていればいいのかな



『知らないよ』

知らないよきみのことなんて。

きみはさ、なにもしないってことの意味をわかってないよ。

なにもしなかった責任は、なにもしないを選択したきみが背負うんだ。重さを自覚できないやつが文句垂れることになる。いっそ堂々としていればいいのさ。



〈試す〉

監視されるのは頂けないと言うひとがいる。

けど、支配されてるのってキモチイイでしょ。なにを食べるか着るか、そして与えられるまま喜べば、頭蓋骨の中がトロトロになってるかんじがしてもう、目をあけてられなくなって……。


絶対的な君主の支配のもとでこそ完全な自由が得られる ヒョードル



〈自信〉

わたしは死ぬ前になってようやく

わたしになれる。

わたしにしか成せないこと。

他人のほうからわたしの手綱をはなしてくれる、離さずにはいられない。

ほんとうは別々の人間だったことを思い出して。

さいごにわたしの魂を…



『支援者の』

支援者の雰囲気とかココロとかを揺らすことができれば、あたしが勝ったと思えるから、あたしは会いに行ってる。お前なんかどうしようもないって怒られることで、あたしが存在してることを確かめたいだけ。でも誰も怒ってくれない。顔をしかめてくれない。ただあたしがぽつんと座ってるだけ。

いままで生きてきた年の中で、あたしを見てくれる人はいなかった。だからどうしたらいいかわからなかった。まるで外国に来たみたいに勝手がわからなくて。この世界でたったひとりしかいないあたしを…ただひとつのあたしを見つめてくれる人がいるなんて怖くてたまらなかった。怒鳴らないであたしを待ってくれる部屋の静かさが心臓に痛かった。

自分で人生を選択して、責任をとるなんて、すごいね、そんな生き方があるのね、あたしにできるかな。

ああ、あたしって産まれていたんだ。教えてくれて嬉しい。

今まで親に支配されて慣れてたから、支援者にも強引に支配されるものだと無意識に思っていた。だから静寂を受けつけられなかった。



〈恐怖〉

お前が怒るたび怖かった。家が震えるかんじ、バリバリ。それがわたしの頭にも襲いかかって、息ができなくて、脳みそがふくらんでパーンってなりそうで苦しかった。でもお前は覚えてないよね、お前はそういうひとだから。



『助けるは』

助けるは強引なこと。

支えるは半分個すること。

看るは看護師にも看守にもあてはまること。

そして頂点にあるのは管理。



『あたし、』

あたし、友だちもいて、楽しくて、たまに痛くて、だから毎日ちゃんと笑って生きてこうって頑張ってるけど、もし親と出会わないでいられた未来を今すぐあげますって言われたら、間違いなく同意するよ。友だちは好きだけどしょうがないことなんだ。どんなに今が楽しくてもね。



『母』

この人は、わたしが泣いているかリスカしたあとでないとまともにわたしを見てくれないのだ。



『子ども』

きみは、親が完璧じゃなかったから、完璧な子どもでいられなかったと嘆いてるの?



〈虚しさ〉

わたしはあの人(支援者)の時間を奪っているのかな。

ご飯もちゃちゃっと食べてすぐ仕事にもどって、トイレにいくにも小走りで。

一度しかない人生の時間を、わたしに使ってもらってて、けれど、ほんとうは自分の子どもさんの成長をみていたほうがきっと楽しいのだろうな。



『可哀想』

可哀想だね、大変だねってセリフの裏はさ、わたしの子じゃなくてよかったでしょ



〈疑問〉

身体反応から情動は生まれる?

みんながいう嬉しいとか悲しいとか、そういうモノは誰かが教えてくれるの?

だってこの世界のそこかしこに感情が暮らしてるんでしょう。

いまあなたは泣いたから悲しいんだねって親切に話しかけてくれるものなの?

そこで子どもはこれが悲しいってことなんだってひらめくの?

けどみんなの悲しみとわたしの悲しみって同じなのかな。

みんなどうやって知っていくの?

誰にも教わらなくても、ひとは自分の感情に気づくことがほんとうにできるの?

わたしはわたしから生まれた気持ちに自信をもてない。才能がないから。

むかし、世界の感情が集まった部屋があると思ってた、そこから人々は喜怒哀楽をとってきて自分のものにするんだと。

けど自分の中に扉があることを知ったの。



〈怒り〉

多様性を尊重するってつまり、もともとあった属性にわざわざ視線をやって、相手の輪郭をくっきりはっきりさせること?

いつになったら目をそらしてくれるの?

飽きてくれるの?

なんで急に見つめ合わなきゃいけないのさ。

こんなの流行色といっしょだよ。

はやく終わってよ。



〈楽しい〉

ね、まじで誰かがきみのこと救い出してくれるって思ってるの?

自分のこと守れるのは自分だけなの。守るってことばは自分のためだけに有るんだよ。

どうしてわからないのかなぁ。

思いやりは好奇心とおなじなの。

わたしの話を聞いてわたしを冷たい人間だってかんじたなら、きみもやっぱり夢見がち。



〈楽しい〉

思い出を守ることで保つことで生き長らえてやる。

それくらいしかない。

みんな春は気にしても、秋の枯れ葉は扱いがひどいね。私は枯れてる葉っぱのほうが好き。地面にいちばん近い死体。分解されて吸収される前の死体。わくわくしちゃう。わたしの将来の夢。



『悲しい』

目頭が熱くなると、胸がかゆくなる。喉に風がきて苦しくなる。これがかなしいときにおきる現象。


『あなたは』

あなたは生まれているの?

おしゃべりしてご飯を食べて排泄をして、けどそれだけじゃない? わたしはきっと付加価値がほしいの。そしたら本物が手に入るって夢みてるの!



『いのち』

もう生まれなくていい。

生まれないままでいよう。



『いちばんちいさな箱』

いちばんちいさな箱にはいりたい

いちばんじゆうな箱

いちばんつめたい箱

いちばんわたしがしあわせになる箱

ゆりかごよりちいさな部屋に



『家族だから』

家族だから許せないんじゃん

一緒に住んでなかったら無関係でいられるのに



〈焦り〉

外に出ることをためらう、冷や汗が出る。

こんな時間に若者が外をぶらぶらしていていいのだろうか、こんな服装でいいだろうか……

どうしてこんな不安を抱くのだろう。だってわたしは散歩している時、侮辱された経験が一度だってないのに、どうして侮辱されるに違いないと信じているのだろう?



『恩人』

きみがわたしを止めてくれた、恩人



『生きていく能力』

生きていく能力がないと、自分が損をしていることに気づけない。

対等な席に座ることができない。



『あたしたちの人生に』

あたしたちの人生に感動はない

でもすこしくらい盛りたいよ

まぁまぁいいコトがあったなって気分になりたい



〈殺意〉

地域で暮らそうのパンフ。

野良猫が去勢されて保護されて会えなくなり、自分も同じような存在なのではと思うなど……

木々の根本、公園の隅。

白梅の香り、雀のつがい。

川底の石、足裏の砕けたアスファルト。

まともに見える住人たち、ハミダシ者のわたし。

彼女はーーわたしに背をむけた。

嘘つきなパンフレットを破きだした。といっても彼女は几帳面だったので、いちど折り目をつけてから破いていく。

文字への殺意があった。

地域。

地域で暮らそうってさあ、地域ってどこなんだ?

わかるように言ってよ。

本当のことを言えよ。

簡単だろ。

[みんな]が言ってることを言え。

花壇から持ちだしたスコップで、かたい土をえぐり出すように掘った。穴に文字だったものを捨てた。

わたしたちは文字を殺した。



『精神科医』

指切りしたことを覚えている。

あの頃の記憶はぼんやりとしている、朝霧のように。

けれど約束したことを覚えている。

わたしが……身体が死なないように。



『クリスマス』

ひとつわかるのは、わたしはすでに大人になったけど、誰かになにかを与えたいと思わないんだなぁ。


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