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巫女さんの昭和古民家なつかし暮らし ~里山歳時記恋愛譚~  作者: さけおみ肴


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25.成人祝い

 お正月の三が日、そして仕事始めの四日を乗り越えてから最初の土曜日の夜。

 屋敷ではそこに暮らしている者だけでささやかな宴を開くことにしている。


 というのも田の神山の神である加加姫様は年末年始の神事儀式などで非常に忙しく、心身共に充実した状態でゆっくり宴会できるようになるのがこの日だからだ。

 去年はその前の年の十月、十一月に養父母が亡くなったこともあって、とてもそんなことができる状態じゃなかった。

 でも今年は一回忌を迎えたこともあって、また宴を――日常を再開しようということになったのだった。


 今夜の炉縁にはご飯のおかずのかわりに酒肴をたくさん並べている。

 温かい料理として、春菊と海老のかき揚げ。

 鶏ひき肉とカブの葛引き。

 それからふろふき大根に甘い柚子味噌をかけたもの。


 箸休めには、酢を効かせた叩きゴボウ。

 それと薄切りにした大根とカブを軽く塩もみして、絞ってから叩いた梅肉と鰹節で和えたもの。


 いつものお漬物の代わりには、数日前に仕込んだ数の子たっぷりの松前漬け。

 そして姫様とお父さんの大好きな、数か月かけて熟成させた豆腐の味噌漬け。


 汁物は大根とゴボウ多めのけんちん汁。

 ご飯も一応炊いてあるけど、これは明日の朝食べることになりそうだ。


 これらの料理は居間の仏壇にもすべてお供えしている。もちろん二人分のお酒も忘れていない。

 きっと今頃、天国にいる二人も一緒に乾杯の音頭を待ってくれているかもしれない。


「えー皆様、本日は俺の成人のためにお集まりいただき誠にありがとうございます」


 乾杯は誰が言おうかとなったところで九摩留がお猪口を手にすっと立ち上がった。

 その言葉遣いは一体どこで覚えてきたのか。


「別にお前のために集まったのではない」

「九摩留は一生成人できないと思ってたよ」

「……おめでとう九摩留」


 今回は九摩留が急遽大人に化したこともあって、成人祝いも兼ねることになった。

 といっても村でやるような大仰な式を挙げるわけではなく、もうお酒を飲んでもいいよというだけではあるけど。


「ありがとうあかり!」


 九摩留がこちらを見て弾けるような笑みを浮かべる。

 見慣れたはずの、でも見慣れていない笑顔に心臓が大きく跳ねた。


 ふいに手のひらになんとも言いがたい感触がよみがえり、わたしは慌ててその甲をぎゅっとつねる。

 痛みで気が紛れたすきに心の中で大きくお経を唱え、思い出しそうになる恥ずかしい記憶を全力で端に追いやった。

 でないととてもじゃないけど座っていられない。


 うん。ちょうど今日は宴だし、こうなったらとことん飲んでしまおう。

 たくさんお酒が入れば九摩留にされたことだって忘れられるだろうし、泰明さんにも勢いで普段聞きにくいことを聞けるだろうし。


 ちらりと泰明さんを見ると、彼もこちらを見ていたようでばちりと視線があってしまった。

 ふわりと優しく笑いかけられて――なぜか自分でもよくわからない罪悪感が生まれる。

 わたしは思わず視線をそらして、お猪口を持つ手に力を入れつつ、今度は心の中で祝詞を唱え始めた。

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