⑤結
その後、Yは寝ずに朝から仕事をこなすと僕らを誘い、多摩川に連れ立った――――つまりカオリへの告白は未明に起きたばかりのことだった。
すっかり体を丸め込ませていたY。
けれど顔を上げたときには、いつもとほとんど変わらない表情に戻っていた。
時折口にしていたジャックダニエルズは、すでに2本目も残りわずか。最後のひと口をラッパ飲みすると、手持ち無沙汰というように煙草を取り出した。
出会って1ヵ月。
突然好きになってしまったひとりの女性。
長年つきあった彼女に別れを伝えてまもなく、初めての告白……日ごろYの話に驚いてばかりの中でもとりわけインパクトが大きかった。
くしくも僕は彼女とのほほえましいエピソードをいくつか聞いていたので、別れ話のくだりはかなりせつなかった。
途中まではいつもと同じように、僕らを爆笑させるエンターテイナーっぷりを見せたY。けれど後半になるに連れて今までにない真剣さ、ときに声を荒げ、終盤ではやや呂律が回らなくなりながら、自身の想いをすべて語りきった。
話が終わると僕らは何らかのコメントをするか、似たようなできごとを披露するのが恒例。ただしあの夜は、誰も口を開こうとはしなかった。
疲労を色濃く滲ませたYの横顔は、暗がりだったとはいえ忘れられない。
「すべてはタイミングだったよな……」
そんな言葉で締めくくって煙を吐くと、Yはようやく重い腰を上げた。
話の中で何度か“変わらない”とした、自身の気持ちに向けていったのだと思う。若干フラつきながら、真っ暗な川面を恨めしげに見つめるY。
僕は傍らでYを見上げ、その視線の先を追いながら、何ともいえない気持ちでいっぱいだった。
それは慰めより、胸をなで下ろせない感情がより大きく占めていた。
たとえばカオリはCにBのことを聞いてみるとしながら、すでにYの気持ちを探っていたわけだし、それこそYは再三訪れていたチャンスを見事に棒にふり続けたともいえる。
カオリと初めて2人で話をしたときに感じた疑問は、ふり返ってはじめて重要だった気がしてしかたない。告白に賭けた望みが間違いでなかったのだから。
あの夜、Yにいうのはおこがましいとして伝えられずにいたことを最後に書いておきたい。
Y=Aと少しでも早く気づけていたなら、カオリの一番最初に好きになった気持ちが何より大事だと、決して抗うことなく、2人は確実に結ばれていたと誰もが思うはずだろう。