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目指せ最強剣士!  作者: ヤマネ
剣奴編
2/18

2.自由と夢

 大蛇をぶっ飛ばした翌日。今日予定されていた対戦が全部終わり、闘技場が閉まった後。

 演習場で俺はクラウに指導を受けながら『気』を感じ取るトレーニングをしていた。隣ではシービーが木剣を振りながら稽古をしている。


 座禅っぽい姿勢を保ちながら、自分の体を巡るオーラ的な何かを感じ取るべく集中して早一時間。

 何一つ進捗はない。


「なあクラウ。やっぱりまぐれだったんじゃねえかなあ」

「おめぇ、そんなことねえよ。一度コツさえ掴んじまえば、後はなるようになる! 一皮むけるってやつだな」


 まあ、確かに。そういうこともあるだろう。

 人は初めて行うことに対してのハードルはべらぼうに高いが、一度こなしてしまえばそれが『普通』になって、気づいた時には無意識レベルでできるようになってたりする。労働市場における『経験者募集!』の一言もそのためにあるといっても過言ではない。


「……あの時、体の中の歯車がガチっと噛み合ったような感覚があった。アレが『気』が『闘気』になるってやつなんだろ?」

「いやぁ~、うーん……」

「なんだよはっきりしねえな」


 クラウは顎髭をざらざらと触りながら、自分の考えを言語化しようと頭を働かせている。


 クラウはかなり強い。ここにいる剣奴の中でも一番強いし、動作性IQも非常に高い。だが、他の剣奴の例に漏れず、あまり学がなかった。文字も読めないし、自分の心を表現するための豊富な語彙力もない。

 これは本質的に頭が悪いというよりは、まともな教育を受けられていないことに起因するように思う。シービーも同じタイプだ。俺たちは生まれが悪いせいで、あまり高度な会話ができない。したがって、戦闘技術の共有や継承も上手くできない。自分がどうやって戦っているのかを伝えることができないからだ。

 無論、これは俺にも当てはまる。もちろん日本語ならいくらでも表現可能だろうが、この世界の言語は簡単なレベルでしか習得していない。

 これから先、剣奴の地位から脱出したとして、一番のハードルが言語になるのは想像に難くなかった。

 ……まあ、算数の計算が得意なのは前世の記憶に感謝だろう。他のやつらは簡単なかけ算すらできない。


「はあ~、学校、行きてえな……」

「ん? テンキはベンキョウに興味があんのか?」


 意外そうな表情を見せるクラウ。


「まあ、そりゃそうだろ。俺はこの世界のことを知らなすぎるし、勉強ができればもっといろんなことができるようになる」

「そうか……おめぇは強くなることばっか考えてるから、そういうのは興味ねぇのかと思ってたぜ」

「いや、その考えは間違ってるぜ、クラウ。もっと強くなるためにも、勉強は必要なのさ。最低限、文字は読める必要がある。俺たちは剣術指南書の一つも読めやしねえだろ? 他には、魔法だ! 魔法が習得できれば、戦いの幅が広がるのは目に見えてる。このままガムシャラに猛獣と戦うばかりの実戦を積んだところで、身につくのは戦闘技術じゃなく、度胸だけだよ。強さの天井はもうすぐそこに見えてる」

「お、おう。そうか……学校ねえ……」

「テンキ~、クラウ~、何の話してるの?」


 自主練に飽きたらしいシービーが話に割って入ってきた。その綺麗な顔には玉のような汗が噴き出している。


「学校に行きてえよなって話」

「え、学校? 何それ」

「シービー、お前……」


 そうか、そんなことも知らないのか……悲しいな、俺たちって……

 と、そう思ったところでふと気が付く。

 この世界における学校は、日本における『学校』とどの程度似ているのだろうか。少なくとも、歴史や算数、国語などを学ぶための養成機関であるということは知っているが、その実態はどうなのか不明だ。


 クラウに解説を期待するまなざしを向けるも、「え?」と言うだけだ。ダメだコイツ。


「あー……クラウって学校とか行ったことない感じ?」

「そりゃおめぇ……ねえよ」


 やっぱりかぁ。


「テンキは学校? に行って何するのさ」

「青春でしょ」

「……?????」

「いやごめんなシービー。配慮が足りなかったわ」


 でもせっかく剣と魔法のファンタジー世界に異世界転生したっぽいのに、このままだと学園青春物語を謳歌することなく思春期を終えそうなのはリアルガチで嫌すぎる。


「具体的に言うとだな、『仲間たちとの切磋琢磨!』『時に衝突し、時に協力!』『そしていつしか仲の良い女の子と良い感じの雰囲気になって……』っていうのが青春だよ。俺はそういう泥臭くも甘酸っぱい学園生活を同世代の仲間たちと共に味わいたいわけ。わかったか?」

「じゃあ今の生活と大して変わんないじゃん。女の子はいないけど」

「いやどこがだよ! 変わるよ全然! 全然変わるよ!」

「えぇ~? そうかなぁ……」


 生まれてから剣奴としての生活しかしらないシービーには想像もつかない世界らしかった。

 こういう、想像力の欠如なんかも結局は教育格差に起因するよなぁ。恐るべし格差社会……


 社会問題に頭を悩ませたところで俺ができることは何一つないので、もう少し現実的な話をする。


「なあ、クラウ。俺たちが『剣奴』でなくなるためにはどうしたら良いんだ?」

「へ? そんなの無理に決まってんだろ。そんな方法ねーよ。逃げるくらいしか」

「じゃあ逃げるしかねえのかぁ」

「……テンキ。おめぇ、そこまで剣奴でいるの嫌なのか?」

「はぁ?」

「そりゃあここはゴミみてぇな環境だぜ? だけどよ……強くさえあれば、飯はもらえる。寝る場所もある。仲間だっている! それで良いじゃねえか。これ以上を求めるのはそりゃ、おめぇ、やりすぎってやつだぜ」

「えぇ……」


 いきなり何を言い出すんだこいつは。

 結構真剣な表情をしてブラック企業の社長みたいなことを言い出すクラウ。割と本気でそう思っているらしかった。

 それなら、俺も本気で答えるべきか。


「言っとくけどな、クラウ! 俺はこんなところで終わるつもりは全くないぜ! もっと強くなって、自立して、美味い飯をたくさん食べて、見たことも聞いたこともない場所をたくさん訪れて、それから……とにかく! 俺は『自由』がほしい! そのために強くなりたいんだ! こんな場所で猛獣をぶっ飛ばして観客を喜ばすための強さが欲しいんじゃねえんだよ!」

「……そうか」


 俺の言葉を聞いたクラウは表情を消すと、それから宿舎の方へ戻ってしまった。夕食の準備を始めるらしい。


 無言で立ち尽くすシービーに対して問いかける。


「なあ、お前はどうなの? 剣奴、辞めたいって思ってる?」

「えぇ? 僕は……」


 たっぷり十秒ほど経ってから言葉を続ける。


「そりゃ、もっと良い暮らしは、したいよ? でもさ……もし『剣奴』じゃなくなったとして、どうやって生きていけば良いのか、分からないよ。それしか生き方を知らないんだから……」

「……あっそ」


 シービーは頭が良い。こんな生まれじゃなければ、もしかしたら優れた人物になっていたかもしれない。

 誰かがコイツを見出してくれれば、あるいは。


 二人して素振りを再開して、しばらく無言が続いた。

 そして、ポツリとつぶやく。


「じゃあ、俺が剣奴じゃなくなるその時が来たらよ。シービー」

「ん?」

「もし、お前がまだ剣奴をやってるなら……俺がお前を雇ってやるよ。秘書か何かとして」

「え? いいよ別に」


 余計なお世話だったらしい。


 ◆


 よく知らないがこの闘技場にはオーナーがいる。つまり俺たち剣奴に家と飯を与えてくれる優しいご主人様というわけだ。

 オーナーは俺たちから自由を奪い定期的に命の危機に瀕させてくるヤバいやつだが、この港湾都市グリップスではそれなりに金持ちだ。つまり頭が回る。


 その頭の回るオーナーがなぜか今日は演習場にやってきていた。

 壁際の木箱に腰かける禿げ頭のジジイがそいつだ。


「ねえ、テンキ。オーナーさあ、なんか僕らを見てない?」

「気にすんな」


 めちゃくちゃ気になりつつも俺は無視を続けた。

 心頭滅却。全力集中の世界に入れば他人の視線など気にならない。

 季節はそろそろ夏だったが、俺は強い日差しと蒸発していく汗とジロジロとこっちを見てくるオーナーのことを全く気にせずひたすら修行に励んだ。


「ねえ、こっち見てるよ?」

「あーもう! 気が散るから! 気が散る! そりゃ俺だって気になるけど! あえて無視してるんだよ分かるだろシービー!? もうあっち行けよお前!」

「えぇ? いいじゃん別に。ていうかテンキは修行のしすぎだよ。修行は強制じゃないんだから、いいんだよ、やりたくなかったらやらなくても」


 そういうのは甘えと呼ぶんだぞ、シービー。

 俺たちの命なんて大した価値もない。自分で自分の命を守るには、強くなるしかないのだ。


 ……とは言っても、オーナーがこんなところにやってくるのが珍しいのは事実だ。少なくとも、異世界にやってきて十年間、そんな日は一度もなかった。

 さすがに今日はもう、練習は辞めるか。

 午後は俺の試合も予定入ってるし……


 とか思っていると、突然ハゲジジイが俺に向かって歩いてきた。


「あの……なに? オーナー」

「お前、テンキだよな」

「ああ、うん。そうだけど?」


 オーナーは結構背がでかい。近くで見ると威圧感がある。

 隣でシービーの顔が真っ青になるのを感じながら、ジジイの目を見て言い返す。


「で、俺に何か用? このあと試合なんだけど」

「言葉づかい」

「仕方ねえだろ、敬語なんて習ってねえんだから」


 剣奴で敬語を使えるやつなんて一人もいない。俺が普段から関わるのはみんな剣奴だから、したがって俺も敬語の使い方は分からなかった。


「ふんっ。口は回るようだな……おい、そこのお前」

「はいぃっ!」


 オーナーはシービーに近寄ると、突然その胸倉を掴み上げ、俺の前に放り投げた。


「ひぇっ!」

「……おいジジイ。何のつもりだ?」

「お前ら、戦え」


 なんだ? 意図が読めない。

 逆らうわけにもいかないので、そのまま木剣を構えて二人で相対する。


 シービーは小柄だがそれなりに力が強い。戦闘センスも、まぁ……そこそこだ。

 別に負けることはありえないが、とはいえ力を抜き過ぎても勝てるというほど圧倒的に俺が強いわけでもなかった。


「……いくよ、テンキ」

「こいよ」


 やぁっ! と頼りない声を上げながら、それとは裏腹にそれなりのスピードで突っ込んでくるシービー。

 適度にそれを受け流しつつ、相手の疲労が蓄積するのを待つ。


 ……シービーって顔が美形だし、こいつが騎士ってなったら人気出るんだろうなぁ。

 俺は、シービーは近い将来、剣奴ではなくなると考えている。つまり、誰かから『買われる』だろうと予想している。理由は顔が良いからだ。


 ついでに言えば、まあそれなりに腕がたつ。頭も良いし、貴族の護衛としては申し分ないのではないだろうか?

 これを機に、シービーをオーナーに売り出すのが良いかもしれない。シービーという少年には、剣奴として戦わせるよりもっと良い使い道……より高い『商品価値』を発揮させられることを知ってもらう必要がある。


 大きな隙が見えたので、そのまま木剣の腹でシービーを吹っ飛ばした。

 数メートルほどか。思っていたよりも大きく飛ぶ。


 あ、今の一撃。闘気が乗っていた気がする……


「おーい、シービー。大丈夫か~?」

「へ、へーき……」


 地面にうずくまってくねくねしながら、呻くように返事をする。

 平気か。ならよかった。

 悶絶の仕方からして多分平気ではないが、まあ本人が平気っていうなら平気なんだろう。そういうことにした。


「……なるほど。あやつから聞いた通りだな」


 オーナーは俺に近づくと、猛禽類を思わせる瞳で俺を見据えた。

 だんだんと顔を寄せてくる。

 凄い目力……なんかこう、反社会的勢力の偉い人っぽいというかなんというか……というか実際にそうなのか? 今更だけど奴隷を戦わせて見世物にするのって合法なんだろうか。なんかこう、極めてなにか生命に対する侮辱を感じる行いだと思うけど……って近い近い! 目が近い!


「ちけえよハゲ!」

「あ?」

「あ、いや、ジョークってやつよ。今のは」

「はぁ……。クラウのやつから、『闘気』を使える少年がいるから見てやってくれと聞いて、わざわざやってきたが……なるほどな。どうやら事実らしい」

「え、クラウが?」


 どうやらアイツが俺に便宜を図ってくれたらしい。

 余計なことを……自分でなんとかするってのに。


「オーナーは、あれか? クラウから、俺を剣奴じゃなくて何か別の使い道を探してやってくれとでも言われたのか?」

「その通りだ。貴族に売ってやってくれとな」

「なるほど」


 オーナーは俺から顔を離すと、シービーの方を少し見る。

 シービーはまだ地面でくねくねしていた。


「まぁ……テンキ。残念だがお前は不合格だ。その性格じゃ売れんよ」

「あっそ。シービーはどうだ? あいつは頭も良いし、そこそこ腕が立つ。あいつなら文句ねえんじゃねえの?」

「そうかもしれんな。考えておこう」

「え、マジか」


 頼むぜ、本当に……


 心の中で祈りをささげる俺に対し、オーナーは指を三本かかげた。


「条件が、三つ」

「は?」

「貴族には売れないが……お前には才能がありそうだから、自由にしてやっても良い。だが、条件が三つある」


 どうやら、条件を飲めば剣奴から解放しても良いらしい。


「一、俺と闘技場の名前を売れ。厳しい環境で戦士としてのお前を育て上げた闘技場だ。つまり、宣伝をしろ。二、将来的にお前が得る収入の八割を俺に送れ。これは成人してからで構わん。三、子供が生まれたら俺によこせ。以上だ。この条件で契約してやっても良い」

「お、おお……」


 中々に強欲な条件を付きつけられ、俺は「おお……」としか言えなかった。

 え、これって飲んだ方が良い条件なのか? この世界の相場感が分からないから何とも言えんが。


 とりあえず約束をするだけしてしまって、自由になったらこの国を脱出するとかでもいいか……? いや、もしかしたら契約を強制執行させる魔法とかがあるのかもしれない。約束の反故はリスキーな選択だ。

 収入の八割……八割!? どんだけもってく気だよ。生活できないだろそれ。

 しかも子供が生まれたらよこせって……いや八割も給料持ってかれたら結婚生活どころじゃねえだろ。このハゲジジイ、馬鹿なのか?


 などということを考えつつ、俺が一番気になったのはむしろ最初の条件だった。


 なんで、俺がこいつの名前を宣伝しなきゃいけないんだ?

 超、ムカつくぜ。


 俺の強さは俺が努力によって勝ち得たものだ。コイツのおかげじゃない。


 理由としてはそれだけで十分だった。


「断るぜ! 理由。ムカつくから! 以上だ」

「……」


 まさか断られるとは思っていなかったのか、オーナーは目を丸くして驚いてから、


 パァン! と俺の顔面を平手打ちした。


「いって……」

「はあ。お前には失望したぞ。愚図が調子にのりおって……もういい。帰る」

「おう! 帰れ帰れ! ハゲ!」


 オーナーの後ろ姿を見ながら叫ぶ。


 あ、振り返った。


「……お前、次に俺を馬鹿にしたら、処分するぞ」

「……うい」


 俺は権力に屈した。


 ◆


 試合の最中。狼っぽい獣がよだれをまき散らしながら噛みついてくる。

 剣をがっちりと牙と牙の間に挟み、攻撃をガード。すかさず無防備な腹を蹴り飛ばす。


 今日の獣は頭が悪い個体だったようで、この繰り返しで勝利した。


「ふー……」

「おつかれ、テンキ」

「おう」


 控室に戻ると、既に今日の試合を終えたシービーが労いの言葉をかけてくる。

 これにて今日の試合は全て終了だ。今日は剣奴が一人死んだ。ま、すぐに補充されてくるだろう。


 一日当たりの剣奴死亡数は平均して二人から三人だ。しかし、その実情は新参の剣奴が実力に見合わない敵と戦わされて、すぐに死亡というパターンが多い。

 つまり、クラウをはじめとする古参組はとてつもなく高い勝率を誇っている。


 闘技場から宿舎に戻り、そして演習場へ。

 命を賭けた戦闘経験、これは将来的に高い価値になると俺は考えている。どう考えたって同年代のやつらより実戦経験が多いからな。これは強みだ。

 自分の命を守りつつ、敵を殺した感覚。これを忘れないうちに剣術の『型』に落とし込んでいく。これを繰り返すことで、一人での修行でもリアリティのある戦闘シミュレーションが可能になる。


 修練をしてから一時間ほど。雑念が入ってくる。

 ……人間の集中力は一時間程度が限界だ。


 剣奴は全体で百人ほどいるが、そのうちの八十人はすぐに入れ替わる。残りの二十人……クラウや、俺や、シービーなど……こいつら『コアメンバー』はもう結構長い付き合いになるな。

 特に、闘気を使える最上位組。こいつらが死ぬビジョンが現状は見えない。つまり、こいつらを殺せるほど強い猛獣が送られてくることはないのだ。


 闘技場で行われる試合は『興行』であり、同時に賭けの対象でもある。

 普通に考えて、人間よりも動物の方が強い。

 魔法や闘気の存在するこの世界であってもその認識は共通らしく、俺たちが戦わされる猛獣は実のところ『弱らされている』ことがほとんどだ。だってそうじゃないと人間が確実に負けて賭けが成立しないからな。

 まあそんな感じで敵の強さが調整されているから、闘気が使えれば負けるなんてことは基本的にないわけだ。


 そしてそれはすなわち、『強さの上限』がこの闘技場には存在するということである。


「……負ける気が、しなくなってしまった」


 大蛇と戦い、闘気をなんとなく使えるようになってから数か月。

 十歳にして俺は既に、剣奴たちの中で最強クラスになっていた。


 翌日。


「……え? 敵が弱すぎる?」


 演習場で腹筋をしていたクラウに向けてその話をする。

 俺ですら敵が弱すぎて物足りなさを感じているのだから、クラウの感じるそれはとてつもないものだろう。


「いやぁ……俺は別に、物足りなさとか感じたことねぇけど……」


 そんなことはなかったらしい。


「えー、でも、クラウ。お前っていつも余裕で狩り殺してるじゃん。安定し過ぎだぜ」

「そりゃ、そうなるようにやってるからな。いやでも、テンキ。俺たちはよぉ、基本的に一発でもモロに食らえばその時点で死ぬんだぜ? いくら毎回余裕で勝ってるったって、そんなの見せかけでの話でしかねえよ。少しでも気を抜いてみろ。すぐ死ぬだろ、人間なんて」

「でも食らわないじゃん」

「それはまあ、そうだけどさあ……おめぇってそんなに馬鹿だったか?」

「は? 意味わかんねえのはクラウだよ。だって実際、食らってねえじゃん。というか、なんなら攻撃食らっても闘気使えばワンチャン耐えられるだろ」

「頭おかしいのか……?」


 ダメだ、クラウじゃ話にならん。

 俺はもっと強くなりたい。最低でも、クラウは軽く叩きのめせるぐらいの強さが欲しい。

 こんなところで満足しているわけにはいかないのだ!


 というわけで、更なる高みへ上るためにはどうしたら良いのかをシービーと共に会議することにした。

 闘技場の横にある空き地で二人して話し合う。


「テンキはさ、自分の中の『気』ってやつは感じ取れるようになったの?」

「まあ、概ね?」

「なんだよそれ、適当だなあ……」


 ここ最近は、何となく自分を流れるオーラというか、エネルギー的なものを薄くではあるが感じ取れるようになってきていた。

 魂の奥深くに池のように溜まっているオーラがあって、そこから管のようなものを通して心臓に送られるイメージだ。その後は血流に沿って比較的高速に『気』は俺の体を循環している。多分。


 しかし、『気』を『闘気』に変えて戦うその感覚を明文化するのは困難を極めた。分かるヤツにしか分からない感覚だろう。

 闘気使いの剣奴たちが、闘気の話になると感覚的な説明に終始するのも理解できる。当時はこいつらが馬鹿だから言語化できないのだと思っていたが、そもそもそういうものなのだ。


 シービーが呆れ顔で続ける。


「僕も闘気、使いたいなあ……そうしたらもっと強くなれると思うし」

「そうだなあ」

「あ、そうだ! じゃあ、こうしよう!」


 パチンと指を弾くシービー。

 興奮した表情で続ける。


「僕が闘気を使えるようになれば、僕とテンキ、闘気使い同士で色々と意見交換できるようになるだろう? さらに言えば、お互いに対人戦で練習をすればもっと強くなれると思うんだ!」

「ほほう?」

「じゃ、テンキ!」


 瞳を輝かせて言う。


「僕も闘気使いにしてよ!」

「無理」


 できるわけねえだろ!

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