13.アルア
道場の中。普段着のまま着替えることもなく、俺とナナは向き合っている。
互いに木剣を握り、ナナの構えは八相。野球のバッティングフォームのような姿勢で俺の動きを探る。
対する俺は下段の構え。晴天流の基本的な構えだ。敵の攻撃を弾くのには都合が良い。
嵐流剣士の基本は、足裏から闘気を放出し繰り出す技、『瞬動』だ。目にもとまらぬ速度で相手の懐に迫り、剣で斬るか、あるいは刺す。
ナナはどうやら俺に何かやらせたかったようだが、きっと失敗したのだろう。ムカつくものはムカつくので直接対決に移行したというところか。
悪いが負ける気はない。
……静寂が続く。睨み合いが続く。
壁際では、ランリが真剣な表情でこの一合を見ている。
ナナの体を巡る、『気』の流れ。それに少しだけ揺らぎが生じた。
「っ」
咄嗟に身構えるも、ブラフだったのか、攻撃は来ない。
ナナが口を開く。
「テンキって、やっぱ見えるんだ。闘気」
「そりゃそうだろ」
「いつ頃から?」
「……十歳とか?」
「じゃ、私と同じわけだ」
ナナも見えるのか。
闘気を目視できるかどうかは重要な実力の境目だ。一定以上の水準に達した闘気使いは、この世に存在する『気』の流れを知覚できるようになる。
床を踏み抜く音。ナナが動いた。
予備動作はわずか。しかし捉えている!
眼前にナナが迫る。
俺の剣がナナの剣にぶつかる。
なんだ? 威力が軽い。
額から鈍い音がした。
「いってぇ!」
頭突きされた!
額から割れるような痛みを感じながら、追撃に備える。
やべぇ、姿勢が……このままじゃ背中から倒れる!
「もらったぁ!」
間髪入れずに剣が振られる。
顎に迫る剣筋を目で追いつつ、右の踵で道場の床を強く踏み抜いた。
晴天流・返逆光!
キュッという音と共に、右足を軸にコマのように回転。大きく剣を振る。闘気を纏う高速の剣がナナの手首を打ち据えた。
シートが使っていた技だ。あいつは失敗してたが、俺は違う!
ナナの剣が手から離れ、宙を舞う。
本来ならもう勝負がついたところだ。しかし俺は追撃の手を緩めない。
ナナなら、素手だろうと攻撃してくるはずだ。
ダンッ! と大きく一歩踏み出し、右から左。巨大な一文字を剣で描く。
「晴天流・日輪!」
衝撃音。ナナの腹を完璧に捉えたスイング。
「ぐわっ」
そのまま数メートル吹っ飛び、ナナは気を失った。
勝ったぁっ!
俺は叫びながらガッツポーズした。
◆
その日の夜。俺は学園の敷地内を散歩しつつ、今日の試合を反省していた。
勝負に勝てたのは良いが、奥義『閃』が使えなかった。
この一ヶ月で『閃』を放つための闘気操作は、ある程度身につけた。しかしこれを実戦で使うとなると話が別だ。複雑で繊細で力強い闘気操作の求められる『閃』は、相手が強くなればなるほど実際の戦いの中で使うのが難しくなる。
シートとの試合ではなんとなく上手くいったが、あれだって完璧とは程遠いだろう。
夜空に輝く三日月を眺め、「うーん」とか「あー」とか言いながら唸る。
どうすればもっと上手くいくだろうか。分からない。
ビャクの助言を求めていつもの茂みの中へと歩いていく。
「……いねえな」
今日はいないようだった。
ビャクって普段、何してんのかな。ランリが言うには、ビャクが授業に出ているのを見た生徒は一人もいないとのことだ。つまり、すべての単位が免除されているというわけで、明らかに特別待遇を受けているということになる。
まあいいか〜。
考えるのがめんどくさくなったので、ザクザクと土を踏み鳴らしながら夜風を楽しむ方向に切り替えた。
空気が良い感じに乾燥しており、過ごしやすい。
なんだか、あの日の夜を思い出すな。日本で過ごした最後の夜を。
……父さんと母さん、今頃何してんのかな。
昔から、あまり干渉された記憶がない。両親が自分を愛している実感はなく、とはいえ疎まれているという感覚もなかった。俺は、ただ、いるだけ。そんな感じの扱いだったように感じる。
両親について思うところが何もないかといえば嘘になるが、まあそれはそれでどうでも良いことであった。多分、向こうも俺に対してそう感じているのではないだろうか。
なんだか、凄く特異な家族関係だったように感じるな。
……ふと、昼ごろ見かけた姿が遠くにあった。ランリだ。
木陰に隠れるようにして、コソコソとしている。
なんだあいつ。まるでストーカーというか……尾行だなこれ。
ランリは耳が良いので俺の足音に既に気がついていてもおかしくないのだが、極度の集中がそうさせるのか、俺の接近に近づいている様子は全くなかった。
ポン、と肩に手を置く。
「わひゃあっ!?」
「よう、ランリ。お昼ぶりだな。何してんの?」
「な、な、な、なんだ、テンキでしたか。驚かさないでくださいよ……」
ランリは控えめに遠くを指差す。その先を見る。
月光に照らされて煌めく銀髪。殺し抜かれた小さな足音。
……ビャクが歩いている。
「何やってんだあいつ?」
「魔法棟に向かっているようです」
「で、お前は何やってんの?」
「……」
無言でこっちを見つめるランリ。
シャワーを浴びた後なのか、ふんわりといい匂いがした。
「……散歩をしていたら偶然見かけたもので。それで、その……」
「ストーカーじゃん」
「それはっ! そ、それは、そう……かもですけど! でも気になったんだから仕方ないじゃないですか!」
開き直ったな。
さて、俺も正直ビャクの動向については気になるところだったのでランリと一緒に後をつけることにした。
ビャクは感覚が鋭い。かなり距離を空けないとすぐに気づかれるだろう。なんならもう既に気づかれていてもおかしくはない。
深夜の学園をそろりそろりと歩き進む。気分は潜入ミッション中のスパイだ。別にバレても怒られるだけで済むだろうけど。
木陰からピョコッと二人揃って顔を出し、建物の中に消えていくビャクの後ろ姿を確認する。
「入りましたね。魔法棟に」
「そういえばさ、魔導士コース向けの講義って夜中に開かれてるのもあるんだろ? それなんじゃね?」
「夜中の講義はレベルが高いと聞きますよ。剣術士としては優れた能力を持つビャクですが、さすがに魔法に深い造詣があるとは思えません」
「なるほど。……よし、入るか」
俺たちも侵入し、見失わないように追いかける。
魔法棟は本館と別館に分かれており、ビャクが入ったのは別館だ。授業というよりは、研究をメインで行う建物だと聞いている。
建物の中は灯りに照らされており、深夜であろうと廊下の奥までよく見える。
階段を登っていく。
ビャクはとある一室の前に立ち、コンコンコンとノックを三回した。
「どうぞ」
「入るよ」
……女の子の声だと!?
ランリと俺。驚きの表情で二人とも視線を交わす。
いや、まて。まだ判断を下すのは早計だ。
そろりそろりと、足音を立てずに件の部屋の前へ。
扉に耳を貼り付け、中の音を聞く。
ランリはそんなことする必要ないらしく、その場でつっ立って中の音を聞いていた。
プライバシー意識のカケラもないが、とにかく中の様子が気になった。
……中にいるのは二人か。密室でね、なるほど。
ビャクの声が聞こえてくる。
『どうなったんだ? 例のアレ』
『リュートの話? フォルテの話?』
『リュートの件に決まってるだろ。ゾンが見つかったんだろ?』
『うん』
『だから、その進展を聞きたいんだが』
『……。さあ、知らない』
『あのなぁ……』
ん? なんか険悪な雰囲気だな。ビャクが珍しくイライラしている。
ランリに視線を送る。ランリも何の話をしているのか分からないらしい。
『アルア。君、近況報告の一つも聞いてないのか? そんなんでどうする?』
『ビャクは私の上司じゃないでしょ』
『人の忠告は聞くものだ』
『尾行にも気がつかない間抜けな剣士さんのお話なんて、誰が聞くわけ?』
……!
『はぁ? 尾行? 何の話だ』
『逃がすな』
バァン! と踏み込む音が後ろで聞こえた。ランリが逃げようとした音だ。
「……もう手遅れですか。観念するしかなさそうですね」
「階段が、塞がれてる……」
階段には光の線が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、上階にも下階にも行けなくなっていた。この光って触ったらやべえのかな。
扉が開き、中からローブを着た小柄な少女が現れた。目深にフードを被っている。
痩せ細り、ひ弱な印象を受ける身体。それとは裏腹に、冷徹さを感じさせる瞳が俺たちを見据えている。
アルアと呼ばれていた少女だろう。
「何者?」
あとからビャクが出てきて、俺とランリを見るなり驚きの声をあげた。
「な、ついて来ていたのか!? 気がつかなかった……」
「気づかれてなかったのか。俺たちの尾行。ぶっちゃけバレてるかと思ってた」
「ならそう思った段階で止めてくれよ。……どこから聞いてた?」
「全部」
アルアの方を見るビャク。肩をすくめるアルア。
「こいつらがいるから、踏み込んだ話が出来なかったんだけど?」
「……すまなかった」
「謝罪ってのは言葉じゃなくて態度で表して」
「……金でいいか」
「わかってるじゃん」
なんだこの女。ビャクより優位に立ってやがる。
信じられないものを見た気分だ。
ちらりとランリの方を見る。彼女は青ざめていた。もはや体調が悪そうだ。
……ビャクは少し、神秘的なところがある。いつも何やってるのか分からないし、自分について多くを語らない。そして、強い。
ランリがビャクに対して抱いている感情は複雑で、それは嫉妬心でもあれば、ある種の神聖視でもあった。
それだけに、感じる衝撃も大きいのだろう。
絞り出すように尋ねる。
「アルアさん、ですか。あなたは、一体……」
「いやこっちのセリフなんだけど。ビャク。誰? この人たち」
「この学園の剣術士コース。中等部一年生のテンキとランリだ」
「どっちがテンキ?」
「男の方だ」
「ふーん。こいつが……」
「え、なに、俺のこと知ってんの?」
アルアはテクテクと歩き俺の目の前に立った。
ジロジロと、特に何を話すわけでもなくこちらを見つめている。それからぐるりと俺を囲むように歩きながら、やがて言った。
「弱そう」
こいつ……。
一瞬頭にきたが、ビャクと比べて弱いって話ならぶっちゃけ否定できないので黙った。俺は大人な対応ができる剣士だ。
「お二人はどのようなご関係なのですか?」
「別に。教える必要はない」
「お前ら付き合ってんの?」
「そう思うならどうぞご勝手に」
アルア、ノリが悪いなぁ……。
今までで出会ったやつらの中で一番とっつきにくい性格をしている気がする。
魔導士ってみんなこんな感じなの? 嫌だなぁ。
「……で、テンキと、……ランリだっけ? 早く帰ってよ。話ができないでしょ」
そう言いながら、階段にかけられた魔法を解除するアルア。心底迷惑そうな表情だ。
せっかくだからビャクの秘密をもっと知りたかったのだが、さすがにこれ以上邪魔するわけにもいかないか。
「では、私たちはこれで失礼します。……ご迷惑をおかけしました」
「そう思うなら早く帰って」
「すみません。ほら、行きましょう? テンキ」
「おう……」
それにしても、魔法か。
よく考えてみれば、アルアは俺が初めて会った同年代の魔導士だ。剣術士コースの講義をとっている俺は、魔導士コースのやつらと会話する機会がない。いや、まあ、サークル活動とかやってれば話す機会はいくらでもあるのだろうが、あいにく今の俺は勉強に忙しい。
……コイツを頼るしかないかもな。
翌日の夕方。講義を全て終えた俺は昨日と同じく魔法棟にやってきていた。
目的はアルアだ。
コンコンコン! と三回ノック。返事はない。
「いるかー?」
「いません」
「入るぜ」
「はぁ?」
ガチャっと扉を開けると、中はこじんまりとした研究室になっており、メモ用紙やら何やらが控えめに散らばっている。
汚い部屋ではないが、別に綺麗な部屋でもなかった。
アルアは机に向かって座ったまま、上半身をひねってこちらを見ている。昨日と同じくローブ姿だ。いかにも魔法使いっぽい。
「あなた、言葉ってものを知らないわけ? 入室許可は出してないんだけど」
「ちょっとお願いがあるんだけどさー」
「嫌だ」
「ビャクから聞いてるかもしれないんだけど、俺って魔法のこと何にも知らないんだよね。特にヤバいのが次の魔法数理のテストなんだよ。わりぃんだけど教えてくれないか?」
「こいつ人の話聞かないな。下手に出てる風なのがムカつくんだけど」
アルアは「はぁ」と一つため息をつくと、それから立ち上がる。
「ん」
片手の平を差し出した。
「なにこれ」
「だから、授業料」
「金とるんすか!?」
「何を驚いてるのか知らないけど、私はビャクと違ってお人好しじゃないから。自分の利になること以外はやらないの」
「けち〜!」
「……」
人の優しさにつけ込んで能力を搾取しようというブラック企業作戦は失敗に終わった。
「なら、お金じゃなくてもいいから、何かちょうだい」
「今度何か言うこと聞くからさ。頼むよ、な?」
「……『貸し』にしてくれってこと?」
「そうそう!」
アルアは酷く訝しむような目つきになると、たっぷり十秒ほどかけて何か考える。
俺に貸しを作らせることによる将来的なメリットとデメリットを天秤にかけているのだろう。
「……はぁ。ま、いいよ、もう。最初から期待してないし。帝国の戦力増強につながると思って、今回はボランティアしてあげる」
「お、マジ!? 助かるぜ!」
「テンキは、……いや、今はいいか。とりあえずそこ座って。教科書くらい持ってきてるんでしょ。それ見せて」
というわけで、アルアによる魔法講座が始まったのだった。
◆
魔法。
四千年前に魔神へドゥが作り上げた無数の魔の法。それにより構成された、人工的に奇跡を起こすための手続きの総称だ。
詠唱・魔法陣・祈祷の三つは三起法と呼ばれ、最も基本的な魔法の発動方法である。
その他、魔法に関しては様々な『ルール』が課せられており、どのルールを研究するのかによって魔導士の専門は分化している。
そして『魔法数理学』はそんな無数の魔の法の内、魔力の生成や変換に関わる各種ルールを学ぶ学問だ。
「基本律は魔法の中でも初歩の初歩。第一聖典から第六聖典に記されてるルールね。生成律とか変換律とか……ねえ、聞いてる?」
「あ、うん。続けてくれ」
難しい……。
早くも心が折れかけていた俺は、しかし自分から頼み込んでおいて「もっとわかりやすく説明してくれや」とは流石に言えなかったので、アルアによる専門用語だらけの解説を頑張って聞いていた。
これでも魔法数理ババアによる説明よりはだいぶわかりやすく、噛み砕いて説明してくれているのが分かる。
おそらく、ビャクから俺がどんな生い立ちなのかを聞いているのだろう。彼女なりの配慮は感じ取れた。
難しいもんは難しいけどな!
そして一時間後。
区切りの良いところまで勉強が進んだので、ここで前々から感じていた疑問を口にする。
「なあ、アルア。そもそもの話なんだけどさ」
「何?」
「剣術士コースの講義にさ、なんで『魔法数理』が必修なんだ? よく分からなくないか?」
そう、不思議なのだ。
初等部ではまだ子供ということで、どこに生徒の適性があるのかを見極めるために剣術士コースの生徒であろうと魔法の勉強、魔導士コースの生徒であろうと剣術や体術の訓練をさせられると聞く。
しかし、中等部に上がればいくらかあった魔法の勉強は急にこの『魔法数理』だけになる。何か特別な意図があって学ぶべきだということになったのだろうが、俺にはそれが分からなかった。
「うーん……そうだね」
アルアは背もたれに深く寄りかかり、天井を見上げて考える。
やがて口を開く。
「一つ考えられるとすれば、『闘気』かな」
「え、なんで闘気?」
関係ない話に思える。
「体を流れる『気』ってあるでしょ? それを変換したのが『闘気』。これは知ってるよね」
「うん」
「じゃあさ、『魔力』ってどこから来るか知ってる?」
魔力。魔力か。
魔法を発動するためには必須とされるエネルギーだ。
「……話の流れからして、『気』が『魔力』になるってことか?」
「うーん、まあそんな感じ。……魔の法は魔神へドゥがその権能を使って強引に世界のルールを書き換えたもの……っていう説が有力……なんだけど、その代償は『気』なんだよね。魔力の正体は、人間が『気』を生成律に基づいて消費して、代わりに世界より貸し出されるチカラなわけ。だから厳密に言うと『気』がそのまま魔力になってるわけではないんだけど、でも魔力と闘気で、持ってる性質は似てるところがあるのは事実」
へー。なるほど。
「で?」
「あのさぁ。まだ分からないわけ? ……あなたたち剣術士が感覚的にやってる闘気操作ってやつ。アレは『魔法数理』で習う公式を使えば、数値的に計算できるわけ」
「うそぉ!?」
「ほんと。実際、私の知り合いにはそれを使って闘気操作の精度を高めてる人もいる。……というか、ああ、そうか。今の学園長ってトマス・ジラードか。だから……なるほどね」
アルアはなんか勝手に納得していたが、俺にとってはかなり革命的な話である。
何をどうすれば闘気が思うように操作できるのか。これは俺たち闘気使いにとっては死活問題であり、闘気を扱う上で指針のようなものがあるのとないのとでは、それは劇的な戦闘力の差につながる可能性があった。
なんか急に勉強のやる気出てきたぞ!
人は自分ごとになると何でも頑張れるものである。
「頼む、アルア! もっと色々、教えてくれ!」
◆
それからさらに二時間。
アルアは何だかんだでかなり熱心に教えてくれた。俺もかなり勉強になったし、元から算数・数学は(この世界基準では)得意なのもあって、この調子でやっていけば次のテストは問題なさそうだった。
気がつけばもう午後九時だ。そろそろ解散する時間である。
アルアは背伸びをしながら「ふわぁ……」と欠伸をする。疲れたらしい。
唐突に話題を切り替える。
「……まあ、つい最近まで文字も読めなかったって考えると、だいぶ頑張ってる方なんじゃないの?」
「え? ああ、うん。みんなよりスタートが遅れてる分、頑張らねえとな」
「ふーん。…………そういうの、嫌いじゃないよ。私」
「あざす」
なんか知らんが褒められた。
アルアは柔らかそうなほっぺに頬杖をつきながら、薄く広げた目で俺を見ていた。眠そう。
「物事にはね、近道なんてないの。なんだかんだ、地道にやってくしかない。……少し、安心したよ。テンキはそれが分かってそうだし」
「なに? なんで急に褒めてくんの? 恥ずかしいんだが」
「……信頼ってのはねぇ、重要なんだ。コイツになら任せられる。コイツならやってくれる。そういう感覚」
アルアはおもむろに立ち上がると、戸棚の引き出しを開け、小さな何かを取り出した。
それを俺に向かってヒョイっと放り投げる。キラキラした何かが灯りに照らされて光った。
反射的に掴み取り、確認する。
なんだこれ、バッジ?
剣をかたどったデザインの、金色の徽章だ。
帝国騎士団のソレに少し似ている。
「私とビャクの関係性、知りたいんでしょ。教えてあげる」
「……このバッジと何か関係あるのか?」
「何に似てる? それ」
「帝国騎士団のマーク」
「正解。私とビャクはね」
帝国騎士団所属の、帝国魔導士と帝国剣術士なんだよ。
アルアはそう告げると、薄く笑みを浮かべるのだった。




