12.祈竜の日
さて、帝国魔導剣術学園に入学して三カ月が過ぎた。
基本的に今の俺の生活は語学が中心だ。もちろん空いた時間で晴天流道場にお邪魔して稽古をつけてもらったり、ビャクやランリから話を聞いて体の動かし方に対する理解を深めたりもするが、やっぱりサディーリエのクシャーナ語講座が一番努力するべきものだった。
言葉の読み書きはとても大事だ。これができるのとできないのとでは、今後の人生の質に大きく差が出る。剣士としてより高みを目指す上でも、避けては通れない道だった。
そして、ついに。
夜の中央大図書館。地下の曲がりくねった廊下を進んだ先にあるディスカッションルームにて。
俺は最後のテストを解いていた。
小学四年生ぐらいレベルのクシャーナ語だ。テスト用紙には問題文と共に回答記入欄があり、「ここに入れるべき言葉は」とか「この文章から読み取れることとして正しいものは」みたいなことが書いてある。
サディーリエがぐったりと椅子に座りながらこちらを眺めているのを感じつつ、最後まで問題を解き終えた。
「はい、解いたぜ」
「はいよー。すぐ丸付けするから、ちょっと待ってて~」
シュッ。シュッ。赤ペンで丸付けする音が静寂の中に響く。
やがて、サディーリエは無言のまま立ち上がった。
「……ど、どうだった? 九十点以上取れてたか?」
このテストで九十点以上をとれなかった場合、もう一カ月延長ということになっていたのだが。
サディーリエはゆっくりと俺に近づき、肩にポンと手を置いた。
「頑張ったわねえ、テンキ! 卒業よ!」
「やったーーーっ!」
いえーい! と二人でハイタッチし、それから部屋の中で踊った。
二人とももう限界だった。俺はさっさと期末テストの勉強や剣術大会の準備に時間をとりたかったし、サディーリエはなんで剣士の私がこんなこと教えなきゃいけねえんだという気持ちを抑えながら日々を過ごしていた。
それが、今日! ついに終わったのである!
「じゃ、テンキ。期末テストまであと一カ月くらいだけど……頑張りなさいよ。プロキイェーテさんとの約束なんでしょ?」
「おう。ありがとな、サディーリエ。本当に」
「お安い御用よ。ま、せいぜい感謝することね、一生」
図書館棟の前で別れの挨拶を告げる。
ま、そのうち何か恩返ししてやろう。プレゼントとか? サディーリエって何か欲しい物とかないのかな。あいつ物欲強そうだし、欲しいものが何もないってことはないだろう。
そんなことを考えつつ、寮へ歩いて戻る途中。
学内にいくつも展開されている屋台の前で、見覚えのある女子二人組がなにやら話している姿があった。
お菓子の移動販売だな。学園の敷地から外に出て帝都のお菓子屋さんまで行くのは結構時間がかかるので、ああいった嗜好品は学生たちに喜ばれる。こんな夜遅くにお菓子ってそれはそれでどうなのって感じだけど。あ、いや、購入してその場で食べるってわけでもないのかな。明日のお昼に食べる分を今の内にっていう線もあるか。まあどうでもいいや。
別に無視してもよかったのだが、今日は気分がいいので話しかけることにした。
「よー、ランリにナナ。お勧めのお菓子とか教えてくれや」
俺の声に振り向き、目を丸くする茶髪の少女ランリ。その隣で苦虫を噛み潰したような表情の、やや小柄な白髪少女がナナ。
「おいテンキ! 気やすく話しかけるなっ!」
ちなみに俺はナナに嫌われていた。
◆
ナナ・ヒウラは中等部一年生の嵐流剣士だ。初等部の頃、ヒウラ家の期待を背負ってこの学園に入学し、そしてランリ・ボウジェの圧倒的強さに敗北した過去がある。
ランリはナナにとって憧れの存在だ。強くて、ひたむきで、努力家。真面目で実直で、しかも可愛い! たまにどんくさい所があるのも萌えポイントだった。
彼女にとってランリは最高の友達だ。誰にもとられたくない。その思いで、自分自身もまたランリの隣にいられるよう、嵐流剣士としての研鑽を積んできた。
しかし、ここ最近。ほんの一カ月ほど前から。
ランリの様子が少しおかしいのだ。
中等部に上がってからランリは今まで以上に修練の過密さが増しており、そのうち疲労で倒れるのではないかと心配していた。無理やりにでも休ませようとした時もあったが、自分の言うことも無視して突っ走ってしまう始末だった。ランリは頑固なところがあり、そういうところもまた可愛いのだが、しかし心配なものは心配だった。
ナナはランリに休んでほしかった。その思いは届かないものだと思っていた。
しかし、ちょうど一カ月ほど前。いきなり「今日はお休みにしましょう」と言い出したのだ。
ナナは喜んだ。ついに自分の気持ちが伝わったのだ! と。
……が、彼女から話を聞くとそういうわけでもないらしいことが判明した。
『結果だけでなく、過程も大事なのだと、そう言われて。……私、焦りすぎてたかもしれない』
『だ、誰に言われたの?』
『ええと、それは……』
そう、テンキ。いま、目の前にいるこの男。
こいつがランリちゃんを誑かしたのだ!
ランリちゃんが他の男の言うことを聞くなんて、許せない!
ナナは嫉妬の炎をメラメラと燃え上がらせていた。ぽっと出の少年剣士にヒロインレースで負けるわけにはいかないのだ。
テンキは困り顔で言葉を返す。
「いや、話しかけるなって、それは酷くないかぁ?」
「う、うるさい! ランリちゃんは渡さないぞ!」
ランリの腕をぐっと引き寄せ、テンキから遠ざける。
「あの、困るよ、ナナ……」
「困らない!」
「いや、私は困る……」
くそ~っ! 上手くいかない!
ランリちゃんに嫌われるようなことはしたくない! でもテンキにランリちゃんをとられるのも嫌だ!
ナナは相反する感情をぐぐぐっと理性で押さえつけると、ランリとテンキの間に割って入るようにして、言葉を続ける。
「で、何の用事? まさか本当に美味しいお菓子を教えてほしいわけじゃないんでしょっ!」
「いやそれだけだけど」
「じゃあマドレーヌっ! ほら、教えてやったから帰った帰った。しっ! しっ!」
手をパタパタさせて追い返そうとするが、テンキは動じる様子がない。
「そういえばさあ、俺、サディーリエのクシャーナ語講座やっと終わったんだよね、今日」
「……あっそう」
テンキが剣奴上がりの少年であり、今は読み書きの練習をしているというのは聞いていた。それが今日、とりあえず一区切りついたらしい。
「それで少し時間に余裕もできそうだからさ。ランリでもナナでもいいんだけど、明日あたり練習に付き合ってくんねーか? 夏の大会までに嵐流剣士対策がしたくて」
「はぁ? そんなの無理に決まってるでしょ。だって明日は……」
ナナがそう言いかけたところで、ランリが答える。
「明日は『祈竜の日』なので無理です。剣竜教徒はみんな『竜の教会』に向かわなければなりませんから」
そう。明日は年に四回ある『祈竜の日』だ。剣竜教では、竜というのは邪悪の象徴にして弱者の象徴。剣で打ち滅ぼされる存在である竜というのは、転じて己の弱き心を見つめ直すシンボルでもあった。
『祈竜の日』は『竜の教会』に赴き、じっくり、ゆっくり、自分の心と対話をし、己を律するための日だ。
まったく。この元剣奴はそんなことも知らないのか。世間知らずめっ。
「ふーん。宗教関係の。なるほど。じゃあ無理か」
そうだそうだ。早く帰れ。
「あ、それならテンキも来ます? 明日は一緒に行きましょうよ」
「ちょっとランリちゃん!?」
これはマズイ。マズイ流れだ。
『祈竜の日』は剣竜教徒が一斉に仕事を休む日であり、そこにビジネスチャンスが転がっている。
剣竜教徒を狙って軽いお祭りが起こるのだ! 屋台とか沢山街中に出るし! これはもう実質テンキとランリちゃんのデートと言っても過言ではない。何としてでもそれは阻止しなければならない!
「ねえ、ナナはそれでいい? テンキと一緒は……やっぱりダメかな」
「ちょっと待ってね、今、脳みそを高速回転させてるから」
パチパチパチと脳内でそろばんを弾く(イメージ図)。
……計算完了。思いついたぞ。
「あ、いいよ! いいよ全然。じゃあ、明日の朝は私たちの寮の前で集合ね。テンキも一緒に行こう」
「お、いいのか? じゃあお言葉に甘えようかな」
いやー、宗教の祭事に参加するのって初めてだから楽しみだぜーっ! などという声を聴きつつ、ランリは恐る恐るナナに声をかけた。
「えっと……本当に大丈夫だった?」
「うん、大丈夫! 楽しい一日にしようねっ!」
「……そっか! 良かった。ナナ、テンキのこと嫌いなのかもって思ってたから」
まあ嫌いだけどな。
控えめな笑みを浮かべるランリを見て、この女の子は自分が守らなければならないとナナは再確認する。
ランリちゃんは強いけれど、弱いのだ。
──テンキの格好悪いところを見せて幻滅させてやろう大作戦──
ナナの恐るべき計画が始まった!
◆
というわけで翌日。
俺はランリ&ナナと共に学園の外へやってきていた。
よく考えると、三ヶ月ぶりの帝都である。入学してから一度も学園の外に出たことはなかった。
そんなことを話すと、ランリも外出は久々だったらしく、「みんな、遊びすぎなんです!」とプンスカ怒っていた。
「私はちょくちょく出掛けてるけどなー。よく教会行くんだ」
「剣竜教の?」
「それ以外に何があるわけ?」
「いやほら、魔神教とか魂鳥教とかあるじゃん」
ナナは胡乱な目つきになると、解説してくれる。
「あのねぇ……。教会って言ったら剣竜教のものを指すわけ。魔神教は聖典信仰が主だし、魂鳥教は聖地信仰でしょ?」
「えーっと……」
それはつまり、教会を持つのは剣竜教だけってことなのか? くそ〜、常識のなさを指摘されるのムカつくぜ。大目に見てくれよ。
「こら、ナナ。テンキに常識を期待したらダメだよ」
「それはそれで酷いだろ!」
しまった! と口をつぐむランリ。その様子を見て笑うナナの声を聞きながら、なんか納得いかない気持ちを抱えつつ歩き進む。
今日は休日だからか、人通りが多い。その多くが護身用なのか、剣を携えている。
二人の様子を見てみる。簡素な服装のランリに、オシャレなナナ。対称的な二人だが、共通するのは腰に真剣を用意していることだ。
「ランリもナナもそうだけどさ。みんな剣とかナイフとかもってるよな」
「それがどうかしましたか?」
「いや、みんな武器持ってたら治安とか大丈夫なのかなって」
「……? 武器がなければ、どうやって身を守るのですか?」
目を丸くして、不思議そうな表情を浮かべるランリ。シンプルに疑問らしい。
うーん、そうか。安全のためにみんな武器を持ってるってことなのかな。日本だったら有り得ない話だが、まあアメリカみたいなもんだと思えば良いんだろうか。
「そういえばさ〜、テンキって真剣、持ってないの?」
「え? ああ、まあ」
「剣奴辞めてから時間かけてこの街まで来たんでしょ? どうやって身を守ってきたわけ? 南部はともかく、北部は治安悪いって聞くよ」
どうやって、って……
プロキイェーテにぶっ飛ばされたあの日から帝都に辿り着くまでを思い返す。苦い思い出が走馬灯のように駆け巡る。
「剣奴時代の武器を最初は持ってたんだけど、途中で壊れてからは、素手」
「「素手!?」」
二人の声がシンクロした。
「それは、壮絶ですね……」
「まあ大したことないよ。盗賊は数が多いってだけで、一人一人は弱かったもん」
別に強がりでもなんでもなく、ただの事実だ。闘気が使える俺にとって、闘気を使えないやつらはいくら凶悪で話が通じないやつらだろうと怖くはなかった。
「ま、そのうち俺のためだけの剣が欲しいとは思うけどよ」
そんなこんなで、俺たちは剣竜教の教会『竜の教会』へとたどり着いた。
◆
簡素な石造りの建物で、そこまで大きくはない。既に剣竜教の信徒が多く集まっており、中に入るにはしばらく待つ必要があった。
ランリに手を引かれながら、中に入る。奥には祭壇が設けられており、大きな竜の木像に鋼の剣が突き刺さっている、特徴的なオブジェが鎮座している。大人の背丈の二倍くらいのサイズだ。
剣の祖ミラと、世界竜が戦っている姿をかたどっているステンドグラス。その奥から陽光が差し込み、竜のオブジェに降り注いでいる。偶然ではなく、計算されてそうなっているのだろう。
何人もの教徒が無言で立ち、右手を剣の柄頭に当てている。目を瞑り、真剣な面持ちでオブジェに向かい合っている。『剣礼』と呼ばれる所作らしく、祈りを捧げるための儀礼的な動作とのことだ。
当然、ランリとナナも同様に行う。
見よう見まねで俺もそうする。
剣竜教にとって、『竜』は悪・弱きもの・慈悲の証。罪人であろうとも許そうという心意気が重要とされ、対するは自分自身の中にいる『竜』=『弱い心・悪心』を律するための『剣』である。
『祈竜の日』は安息日のようなものであり、竜の教会に向かい、自分の行いを省みる日だ。年に四回ある。
伝説の剣士ミラは世界竜と百日百晩戦い続け、そして太陽が百一回登った時、ついに邪竜を討ち滅ぼしたという。
ミラの残した剣術……嵐のように苛烈なその技は、『嵐流』と呼ばれる流派に繋がった。先の先を抑え、速く、鋭く。単純にして最強の剣術。その理想の極地がミラの剣であったという。
「……では、帰りましょうか」
ランリが横でそう呟き、俺は目を開いた。
……なんか、神聖な時間だったな。ゆっくりとした時の流れが、感覚を鋭くするような。
教会から帰る道中、剣竜教徒を狙ったのか知らないが、そこかしこに移動販売の屋台や露天商が並び、帝都の街並みはまるでバザールのそれになっていた。
鶏肉を揚げて串に刺したものを食べながら、何か見るものはないかと三人で散策している。
「あ、ランリちゃん見て見て〜」
「? どれのこと?」
「ピアス!」
「いや、ちょっと、そういうのは……」
「えー、いいじゃん。じゃあイヤリングは? ランリちゃん似合うと思うよ〜」
「ううん……」
ランリってなんでナナといつも一緒なのに垢抜けないんだろうな。不思議だ。こいつと四六時中一緒にいればナウでヤングな若者になっていてもおかしくない気がする。
「ねえ〜、テンキはどのアクセサリーがランリちゃんに似合うと思う?」
ピンク色の勾玉みたいなのがついたイヤリングを手のひらで眺めつつ、ナナがそんなことを聞いてきた。
ニヤニヤと笑みを浮かべている。
無言のランリ。
「センスあるやつ、選んでよねー」
「えー……」
こいつ、もしや俺を試してるな?
そう言われてもなぁ。女の子が身につけるものなんて分かんねえし。
ランリの方をチラリと見る。地蔵のように固まっていた。
やっぱ、こういうのって恥ずかしいと感じてるのかな、こいつ。
この前の会話を思い出す。『可愛い』とかがよく分からないって言ってたよな。
彼女は剣士としての修練に人生の多くの時間を割き過ぎて、同年代の女子がどのような趣味嗜好に走りやすいのかを知らないのだ。友達も少ないのだろう。
つまり、まあぶっちゃけ何を選んでもあまり喜ばないだろうし、そこまで拒絶するようなこともない。
この選択は悩むだけ無駄ということである。
……サディーリエから卒業祝いで貰ったなけなしのお小遣い。特に使う予定もなかったし、ここで使っとくか。
「すいませーん、これください」
露天商のおじちゃんにそう頼み、適当な紙袋に包んでもらった。
「はい、これ」
こいつやりやがった……みたいな壮絶な表情をしているナナを尻目に、ランリにプレゼントする。
「あの、……え?」
「いや、だから。上げる」
「な、なぜです」
「だってお前、こういうの持ってなさそうだし。まあ、思い出だと思って受け取ってくれや」
「……」
両の手のひらをくっつけて、開くランリ。
俺はその上に袋をポスンと乗せた。
「あの、開けてもいいですか?」
「もちろん!」
「……」
ブレスレットだ。謎の金属がチェーンのように繋がっており、やや安物感のある銀の光沢が鋭く光る。
固まっていたナナがぎこちなく口を開いた。
「ランリちゃん、それ、どうするの」
「えっと……どうするって、言われても……では、身につけましょうかね。せっかくなので……」
「んぎゃああああ!!!!」
「ナナっ!?」
謎の腹痛に襲われたらしく、その場でうずくまる。
もうコイツ放っておこうかな。めんどくせえわ。
さて。そんなこんなで、適当にそこら辺の飯屋で昼食を取ることになった。ランリの右腕には銀色のブレスレットが付けられている。
パラパラチャーハンを食べながら二人に尋ねる。
「二人はさ、次の剣術大会、出るんだろ?」
それとなく情報収集するのは大事だ。
普段なら改まって聞くのもおかしな話だろうが、特別な場面ではその枷も外れる。
「まあ、それは。ナナも出るでしょ?」
「一応ね〜」
一応って……ナナだって強い剣士であることには間違いないんだけどな。
ビャクは『ナナ? あいつは雑魚だから気にしなくていいよ』とか凄まじく酷いことを言っていたが、何度か彼女の剣を見た俺にはわかる。ナナは普通に強い。
……ランリほどじゃないけど。
「テンキはどこまで狙ってんの? 上位入賞?」
「は? 優勝に決まってんだろ」
「ははっ! ウケるっ」
ナナは食事の手を止めるとケラケラ笑い出した。
「……なんか俺、変なこと言った?」
「だってさぁー、あんたがビャクに勝てるわけないじゃん。ランリちゃんですら苦戦してんのに。ねえ、ランリちゃん?」
「……」
「ランリちゃん?」
無言のランリ。何か言葉を選んでいるらしい。
やがて考えがまとまったのか、口を開いた。
「……テンキ。あなた、本気なんですよね」
「おう。当たり前だろ」
「ビャクがどれだけ強いのかは知っているのでしょう? それでも、やはり、そう断言するのですか。自分の目指す場所は優勝だと」
「だからそう言ってんじゃんね〜」
パクパク。チャーハンうめー。
ナナは「マジかこいつ……」と軽く引きながら驚愕の表情を浮かべている。
……ビャクは確かに強い。だが、絶対に超えられないほどの壁だとは思えなかった。
というか、この世にはビャクより強いやつが山ほどいるのだ。あのぐらいは余裕だと思うくらいのメンタリティでないと、高みは目指せない。
「そういやさぁ、ビャクの話はまあいいんだけど、ほかに注目するべき選手とかいる? 特に上級生で」
「そうですね。……中等部三年の有力選手で言えば、バディフィク先輩でしょうか。彼は前年度の大会で三位の成績を収めていますし」
「流派は?」
「雲翳流です。私は流派的に有利なのであまり問題視していませんが……テンキには難しい相手でしょうね」
「晴天流は雲翳流に弱いって?」
「そういうことです」
まあそれなら嵐流剣術使えばいい話なんだけどな。
その言葉を飲み込みつつ、情報収集をすすめた。
◆
ナナは悩んでいた。結局、今日一日、ただ単にテンキとランリの距離を縮めただけな気がするからだ。
このままではいけない。何か手を打たねば……と考えていたらもう学園に着いてしまった。ここが最後のチャンスである。
嵐流道場の前を通るなり、ナナは足を止めた。
「どうした?」
「……テンキ!」
びしっと人差し指を向けて告げる。
「私と勝負しろ!」
「……いや、別に俺はいいけど。でもいいのかよ? 『祈竜の日』って休む日なんじゃねえの?」
「祈りを捧げる日な。祈り。休む日じゃねえから」
「まあ、実質お休みの日ですけどね」
「いま細かいことはいいのっ!」
テンキにグイッと顔を寄せる。
「とにかく勝負! 私があんたを倒すから!」
難しいことを考えるのはやめだ!
剣士なら、戦いで勝てば良いのだ!




