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目指せ最強剣士!  作者: ヤマネ
学園編
11/18

11.出禁

 夜。いつものようにビャクが素振りしてる森へとやってきた。


「で、武の道は楽しめても、語学の道は楽しめないわけか。偉そうに語っておいて、人のこと言えた口か?」

「正論やめろ〜っ!」


 俺は森の中で勉強していた。

 漢字ドリル的なやつを地面の上に置いて、持参したランプに照らして勉強している。

 あと十五ページか。明日までにこれを終わらせないとサディーリエにしばかれることになっている。


「家でやれよ」

「家の中じゃ集中できないんだよ!」

「そう……」


 ビャクは興味を失ったのか、再び素振りに戻る。

 俺がいても全く集中力に乱れはない。さすが……。


 それから一時間後。ドリルをやっつけた俺は木剣を構えた。


「よし、今日も頼むぜ、先生」

「先生呼ばわりするなら授業料を払ってくれよ」

「じゃあビャク、頼むぜ」


 俺は先生呼びをやめた。


「……」


 この銀髪美少年でクールなポーカーフェイスは、見た目とは裏腹に結構面倒見がよく、剣術や闘気操作に関して尋ねると割となんでも教えてくれる。

 手の内をそんなに明かして大丈夫なのかと思うが、まあそれでも勝てる自信があるのだろう。

 サディーリエはビャクのことを研究者タイプって言ってたし、自分の考察を他人に教えるのが結構好きなんだろうな。


 晴天流奥義・閃。

 この技を習得するべく、俺はビャクに教えを乞うていた。


 ビャクは木剣を下段に構えると、闘気を腕と剣に纏わせる。


「腕と肩、この二箇所を意識して振るともっと良くなると思う。あと、何度も言うように、面ではなく、線だ。剣の形に沿うように、細長く闘気を纏わせろ。刃の向きと同じ方角に、水平を意識して闘気を噴出させるんだ」


 しゅんっ! と、目にも止まらぬ速さで剣が振られる。これがお手本である。


 よーし、やってみるか。

 木剣を構えた。

 闘気を剣に纏わせる。ここまでは出来る。


「はいストップ」

「え?」


 呆れ顔のビャク。


「まず闘気の纏わせ方がよくないな。剣の形に沿うように、と言ってるだろ?」

「えぇー」


 自分の剣を見る。

 薄くもやもやした闘気が、剣をタオルでぐるぐる巻きにしたかの如く伸びている。

 その輪郭は円柱型だ。


 むずいなぁ。

 円柱を平べったく、押しつぶすように薄く広げるのを意識する。少しだけ闘気が動く。


 円柱から直方体へ。剣を囲うように闘気の『箱』ができた。


「ふんぬぬぬぬ……」


 さて、ここからが厄介だ。

 まず刃に沿って『噴気』する必要がある。つまり、直方体のうっすい方から闘気をまっすぐ放出しなければならない。

 そしてこれを、腕を闘気で強化しつつ、剣を振りつつやらないといけない。

 しかも実戦では相手の攻撃に合わせてこれを柔軟に繰り出す必要がある。


 無理ゲー!


「うおおおおあああああっ!!!!!」


 文句を言ってても仕方ないのでとりあえず挑戦した。

 ミスったらしく、剣はプロペラみたいに回転しながらビャクの顔に向かって暴発した。


 カンッ! とすかさず剣で叩き落とすビャク。


「なんだ、暗殺か?」

「わざとじゃねーって! ……悪かった悪かった。次、いくぜ」

「剣に沿った闘気の形はできてる。問題は腕を振りながらの操作だな」

「どっちに意識を持ってけば良いのかわかんねーんだよなぁ……」


 閃を放つ時に意識しなければならないポイントは三つだ。

 一、剣を囲う闘気の形。

 二、腕の振り。

 三、噴気。


 これらを同時にこなす必要がある。脳が三つないと無理に感じる。

 その話をビャクにすると、間髪入れずに対策法が返ってきた。


「そう感じるのはいちいち考え込んでるからだ。繰り返し練習するしかない。型まで落とし込めば、無意識的に出来るようになる。三つのうち二つを無意識でできれば、残りの一つに集中してるだけで済む」

「ま、そうなるよなぁ……」


 学問に王道なし、ならぬ、武の道に王道なし、だ。

 結局は地道な反復練習と、こまめな反省以外に習得方法はなかった。


 それから数時間。流石に寝る時間なので今日の修練を終えると、ビャクから意外な提案がされた。


「そういえば、テンキ。君は特定流派は学ばないのか?」

「え? いや、まあ。主要四流派ってやつだろ? そりゃ、そのうちしっかり学びたいとは思ってるけど……」

「なら、せっかくだから晴天流をやろう。高等部の先輩に優秀な剣士を知ってるんだ。彼に教えてもらうといい」

「え、いいのか!?」

「ああ、もちろん。彼自信が、弟子探しをしているようだったからね」


 と、いうわけで翌日の放課後。

 俺は晴天流道場に来ていた。ビャクも一緒に来るものだと思ってたらなんか用事があるらしく、俺一人で来ることになった。


 待っていたのは柔和な表情の高等部生だ。

 すらりとしているが、しっかりと筋肉がついているのを感じる。細マッチョというやつだな。


「君がテンキ君だね? 待ってたよ」


「よろしくお願いします!」

 腰を折り曲げて大きく叫ぶ。


 先輩は朗らかに笑うと、「そんなにかしこまらなくて良いよ」と言いながら道場の中へ案内してくれた。

 

 いやー、優しそうな先輩で良かったぜ!


 道場の中は至って普通だった。前世の剣術道場と大差ない。

 板張りの床を素足で歩く。壁際にロッカーが置いてあり、その中の一つを案内された。


「これ、自由に使って良いからね。鍵はかからないから、貴重品は持ち込まないようにしてくれ」

「うっす」


 扉を開けると、上は白、下は黒の道着が置いてある。

 なんだこれ、剣道着? ……よりは薄いな。動きやすそうだ。

 下はキュロットスカートのように二股に分かれており、いわゆる馬乗り袴とよばれるものだった。


 振り返り、道場の中で練習に励む学生陣を見る。

 別にこの道着を着ているやつはいない。


 晴天流道場の学生が着ている服は、なんか中国の伝統的な着物──漢服(かんぷく)だっけ?──を運動用に改造しましたみたいな見た目をしていた。目の前の剣道着(?)とは雰囲気が違う。


「なあ、これって」

「ん? あれ、前に使ってたやつの運動服が残ってたか」

「これ晴天流の服じゃねえよな?」


 先輩は目を丸くすると、なにか合点がいったように解説してくれた。


「これは風雨流(ふううりゅう)の運動着だね。晴天流は『魂鳥教』と繋がりが深いから鳥服(とりふく)がそのまま運動着だけど、風雨流はまた発祥が別だから、道着も違うのさ。そんなに機能に差はないけど、ま、伝統ってやつだね」

「ふーん……」


 やべえ分かんねえ。

 とりあえず漢服っぽいあの運動着は鳥服というらしい。

 じゃあきっとこの剣道着(?)もまた別の名前がついてるんだろうな。


「俺、道着って持ってねえんだよな。とりあえず今日はこれ借りていいか?」

「ああ、もちろん」

「あざす」


 さて、俺と先輩。ともに道着に着替えると、さっそく木剣を使った練習が始まった。


「さて、まずは基本の型から──」


 そして少し経ってから。


「せんぱぁい! そんなやつじゃなくて、俺と戦ってくれよ!」


 なんか後ろから嫌味な声が聞こえたので振り返ってみれば、見たことのある顔があった。

 鳥服を着た、ひょろっとしている目つきの悪い少年。

 ビャクが有力選手だと教えてくれた中等部の少年剣士、シートだ。

 元々は嵐流を中心にやってたが、ランリにボコられてからは彼女にリベンジするべく晴天流に転向したとかいう、なかなかガッツのあるやつである。

 ……晴天流は嵐流に有利だ。


「やあ、シート。君は今でも嵐流の稽古を続けてると聞くよ。結構なことだが、僕は純粋主義なんだ。嵐流をしっかりやめるなら、教えてやっても良い」


 先輩は過激派だったらしい。

 なんだなんだ? 流派ごとの派閥争いみたいなのがあるのか? めんどくさそうだな。


「いや、それは……だって両方やってるのが俺の強みだし……」

「晴天流は最強の剣術流派なんだから、他の流派の技なんて必要ない」


 シートが正論を言いつつゴニョゴニョしていると理不尽な怒られが発生していた。

 えぇ……先輩、やべえやつじゃん……。


 シートは俯きながら小声で愚痴をこぼしていたが、やがて「ふんっ!」と鼻を鳴らすと、木剣を構えた。


「勘違いすんなよ先輩。俺ぁ別におめぇに教えを乞いたいわけじゃねぇんだぜ。おめぇをボコってやるつってんだよ」

「はぁ……。仕方ない。テンキ、相手をしてやれ」

「え、俺!?」


 シートは驚く俺をチラッと見て、


「誰だこいつ」


 当たり前の疑問を口にした。


 ◆


 二人で木剣を構える。

 両方とも下段の構えだ。


『シートは大した剣士じゃないけど』


 初手ディスりから始まったビャクの解説を思い出す。


『あいつは根性だけはある。勝負に負けたら相手のことを徹底的に恨み、どうにかして叩きのめしてやろうと考える。そいつを倒すためだけの練習を始める。気合い入ってるだろ?』


 それゆえに……と、続ける。


『シートの技術はチグハグなところがある。どんなキメラが生まれるか面白そうだったから晴天流を教えたけど、それなりに物にはなった。実際、ランリのことは倒せたみたいだしね。一回、戦ってみるといい』


 突然、下段の構えを解くシート。

 腰を落とし突きの姿勢になった、その一秒後。


「瞬動!」


 鋭い目つきの少年による鋭い突き。


『シートはなんだかんだ嵐流が好きだから、瞬動を戦闘に組み込みたがるだろう。晴天流は待ちの剣術なのに、睨み合いに耐えられず攻めてくる』


 これは読めていた!

 ランリの瞬動よりよっぽど遅いぜ、シート!


「晴天流奥義・閃!」


 面ではなく線を意識した闘気操作。

 不安定ながらもなんとか技として成立させる。

 剣筋がシートの剣をギリギリでとらえた。


 いける!


 突きの姿勢で繰り出された剣を、横から殴り飛ばすようにいなせばどうなるか。

 前のめりになり姿勢を崩したシートは、大きく右脚を踏み出して耐えようとする。


「背中がガラ空きだぜっ!」


 この追撃を通せば勝ちだ!


 シートは右足を起点にぐるりと上体をひねり、まるで米ゴマのような回転で剣を振る。

 相当、無理のある姿勢だ。数秒後には背中から床に叩きつけられるだろう。


「晴天流・返逆光(へんぎゃくこう)


 宙に回し斬りが閃く。

 ビャクの言葉が脳裏をよぎる。


『突きの瞬動をいなされると、大きな隙が嵐流剣士には生じる。それの対処法はいくつかあるけど、シートなら晴天流・返逆光を使うだろう。この技は結構速いけど、』


 再び俺たちの剣がぶつかり合う。バギィイイイと音を立てて、()()した。

 それだけで十分だった。


『脚の踏ん張りが効かないからね。剣に闘気を乗せれば押し切れる。そうすれば地面に叩きつけられてジ・エンドさ』


 後頭部を床に打ち付けるシート。


 ビャクの言った通りとなった。


「はいそこまで。テンキの勝ち」

「……」


 仰向けのまま呆然とするシート。負けるとは思わなかったのだろう。


 か、勝った……。

 呼吸を整えつつ、今の試合運びを反芻する。


 シートは無言のまま立ち上がると、虚空を見つめる。

 口を数度、パクパクと開閉する。

 現実を認識したのか、それからビキビキと血管を浮き上がらせ、怒りをあらわにする。


「ありえねぇ……ありえねぇだろぉがよぉ!!!!!」


 木剣を床に叩きつけ、へし折った。

 な、なんだこいつ。マナーの悪いテニスプレイヤーみたいなことしやがる。


 負けるのを悔しがるのは良いことかもしれないが、これは明らかに度が過ぎていた。


「こら、シート!」

「ありえねぇ! なんなんだよテメェはぁっ!」

「え、うわ、ちょっ」


 先輩の制止を無視したシートは、俺に歩み寄り胸ぐらを掴み上げた。


「なんだ~? やる気か?」

「テンキって、おめぇ誰だよ!?」

「いや俺は俺だが」

「おれぁなぁ! あのランリにも勝ってる! この学園で二番目に強い剣士なんだよ! お前なんかに負けるわけねぇだろぉがよ!?」

「いい加減にしろシート!」


 横から木剣スイングが炸裂してシートは吹っ飛んでいった。シートに掴まれた俺も同時に吹っ飛んでいった。理不尽である。


 マジギレの先輩は苛烈に言い放つ。


「お前はもう二度と、ここにくるな! わかったな!?」


 俺の横で伸びてるシートに言ったのだろうが、この角度だとまるで俺に言ってるかのように感じた。

 そういう時ってあるよね。


 シートは晴天流道場を出禁になった。

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