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目指せ最強剣士!  作者: ヤマネ
学園編
10/18

10.強くなりたい?

 ランリの剣と俺の剣がぶつかり、爆発した。


 また失敗だ。

 粉砕された木剣の破片を顔面で食らいつつ、歯噛みする。ていうか破片がいてぇ。


 ……ここ最近はビャクに土下座して『閃』の打ち方を教えてもらっていた。

 闘気を腕と剣に集め、剣に対して『噴気』による加速を行いつつ、腕はシンプルに強く速く振る。

 闘気による身体能力のブーストと、噴気による加速。この二重の効果により、神速の一振りを実現する。


 それが晴天流奥義・閃。

 とにかく速く振ることで、敵の攻撃に対してそれを上回る速度によるカウンターが可能になる。


 嵐流の考え方が『先の先を抑え、速く、鋭く』だとするならば、

 晴天流の考えは『後の先を狙い、速く、強く』となる。


 相手に自分の戦い方を押し付けるのではなく、相手の戦い方に自分の技術を押し付ける。そういう考え方をする流派だ。


 なるほど、閃が奥義と呼ばれるわけである。


 ビャクの言葉を思い出す。

『テンキは剣に闘気を込め過ぎだ。それだと晴天流ではなく雲翳流の技になるぞ?』


 ……『閃』を上手く放つには、込めた闘気を面ではなく線で操作する必要があった。パワーではなく速度を重視する振り方だ。

 これがなかなか難しく、込めた闘気を面で『噴気』すれば、パワーは出るがスピードが最大までいかない。また、木剣だと威力に耐えきれず粉々に砕け散る。


 そんなこんなで、もう既に何十本も木剣をダメにしているのだった。


「……今の、『閃』じゃないですよね。何ですか?」


 剣身の吹っ飛んだ木剣を掴みながら、ランリが尋ねる。破片で頰を切ったらしく、つーっと血が流れている。


「何っていうか普通に失敗した。本当はもっとスマートに打つ技らしいぜ?」

「言われなくても知ってますよそのぐらい」


 はあ。と溜め息をつくランリ。

 疲労の滲んだ顔で続ける。


「剣、壊れちゃいましたけど。引き分けってことで良いですか?」

「……サディーリエに言わない?」

「いや、言います」

「じゃあダメだ!」


 ランリは理解できないようなものを見る顔になると、呆れるように言う。


「何でそんなに怒られるのを嫌がるのですか? 悪いことをしたなら、それ相応の罰を受けるべきだと思わないのですか?」


 ……え? 怒られる?

 何言ってんだこいつ。


「いや『処分』って言ったら『ぶっ殺す』って意味だろ」

「ぜんぜん違いますよ! 何ですかその野蛮な発想は!? どこの修羅の国から来たんですかあなたは!?」

「えぇ……」

「え、なんで私がおかしいみたいな反応するんですか。おかしいのはあなたですよ」


 あー、そうか。

 今更ながら、俺は思い違いをしていたことに気がついた。

 剣奴時代の常識は非常識なのだ。


「なるほどね。この平和な世界では人の『処分』って処罰を与えるみたいな意味なのか」

「逆にそれ以外何があるんですか……文字通り処分するわけないでしょう? まったく……」


 む。なんか馬鹿にされてる気がするぞこれ。ゆるせねえ。

 強くならないとリアルに死ぬ環境にいなかったお嬢様には分からないでしょうねぇ!


 俺は反抗することにした。


「剣奴だと『処分』ってのは猛獣の餌に食わせるって意味だったんだよ。育ちが悪くて、悪かったな!」

「……剣奴?」


 同情的な視線をもらった。反抗の成果である。


「ああ、なるほど。テンキ、あなたは……だから文字も読めず……ごめんなさい。あまり突くべきではない(やぶ)だったようです」

「人の過去を藪って表現するのも酷いと思うけどな」

「!」


 口元を両手で隠すランリ。


 ……まあ、何はともあれ。

 そうか、勘違いだったか。俺ら戦う必要なさすぎたな。


 もう夜も遅いし、そろそろ寮に戻るかなぁ……と、そのタイミングでふと思い至った。


「そういやさあ、ランリって何しにこんな場所に来たんだ? ここって『オンボロ寮』以外には何もないぜ?」

「何って……何だっけ?」


 おいおい、しっかりしてくれよ。


 俺は地面に座りつつ話しかける。それにつられたのか、ランリもその場に沈んだ。体育座りだ。


「ま、考え事しながら散歩してたら変なとこ来ちゃったとか、そんな感じか? いや、もしかしたらランニング中だった、とか? ランリって真面目そうだし」

「……ええ、その通りです。ランニングに夢中になってました」

「お、正解!」


 パチンと指を鳴らして喜びを表現する。

 ……あれ?

 ランリの表情が目に見えて曇った。

 膝と膝の間に顔を埋める。


「なんか辛いことでもあったのか?」

「いえ……。別に……」

「なんだよ〜。そうでもなきゃそんな変な顔しないぜ〜?」

「変な、顔……」


 ……。沈黙が広がる。

 女の子に向かって変な顔は言い過ぎか。やべえ、やっちまった。


「あー……いや、今のは嘘! うん、嘘! 全くもって嘘だから気にすんな! ランリの顔はほら、あれだ! ええと……」


 歳相応に可愛い感じではあるが、でもストレートに可愛いって言うとこいつ俺のことキモがりそうだよな。何か、何かないのか褒める表現は……!

 先ほどの一合を思い出す。瞬動を繰り出す瞬間のランリの表情は、研ぎ澄まされた剣士のソレだった。


「あ、そう! カッコいいぜお前の顔。いや表情か? よく分かんねえけどそんな感じ。うん! いけてるいけてる! 『変な顔』はねえわな! わっはっは!」

「……『カッコいい』?」


 ランリは少しだけ顔を上げると、目線だけ俺の方に向ける。


「自分で言うのも変な話ですが……私、他の人から『可愛い』って褒めてもらえること、多いんですよね」

「あ、へー。そう」

「可愛いって、そんなに良いことなんですかね」

「え!? それはまあ……どう、かなぁ……本人がどういう方向性で頑張っていきたいのかによるんじゃねぇかなぁ〜」

「……私、よく分からないんです。『可愛い』とか、『オシャレ』とか。みんな、何がそんなに嬉しいのか、分からないんです。サディーリエ先生には『固い』と言われました。でも、じゃあ『柔らかい』方が良いんですか? 固かったら何がいけないんですか? ……分からないです」


 なんかメンヘラっぽいこと喋り出したなぁ。

 どうやらランリはメンタル的に少し参っている状態で特訓中の俺と出くわしたらしい。


 仕方ねえ、少しカウンセリングに付き合ってやるか。そういえば精神年齢的に歳上だしな、一応。

 ……最近、自認年齢が下がってきている。身も心も十三歳になってる気がするんだよな。


「てかさ、別に人の言うことなんてどうでも良くね?」


 よし、これが答え、ファイナルアンサーだ。


「俺はさ、強くなるのがめちゃくちゃ楽しいんだ。どんどん強いやつと戦って、もっと強くなりてぇ! でもその話をクラウっていう同僚の剣奴にしたら『頭おかしいのか?』って言われたぜ。ひでぇよな!」

「……強くなるのが、楽しい?」

「おう。ランリはどうだ? お前は何が楽しいんだ? 何を嬉しいと思う?」

「私は……」


 考え込むランリ。

 膝を深く抱え込む。


「私は、強くなりたいです。それ以外のことはどうでもいい……」

「ああ、なら簡単じゃん! それがランリのやりたいことだ。それ以外はどうでも良いだろ? 他人の意見なんて気にすんな!」

「でも!」


 語気が強くなる。


「……でも、嬉しくない。楽しく、ない」

「……」


 ランリの声が沈む。


「私は、誰よりも強く、誰よりも優れた、カッコいい剣士になりたかった。市井の人々を悪から守る、正義のヒーローに。だから、努力して、強くなって、みんなから褒められて……でも! なんか、正直……あんまり、楽しくないです……。だって、それは、勝てなきゃ意味がないから。勝った時にだけ嬉しくて、強くなれた時にだけ楽しくて。それ以外の全部は、苦しいです」


 ……過程ではなく結果に意味を見出すとこういう感じになったりする。

 テストで百点を取れなかったら勉強した意味はなかったのか? そんなことはないはずだ。しかし、『テストで百点を取る』ことを目標にしてしまうと、九十九点の解答用紙ですらゴミと同じになる。


「ビャクが出てきてから、色々おかしくなった。アイツは強すぎるんです。本当に同い年か? ってぐらい。私がいくら努力を重ねても、結局ビャクの方が強い。辛く、苦しい思いを乗り越えても、ビャクの壁だけは越えられない! それがキツい。……虚しいんです」


 彼女はビャクに嫉妬していたのだろうか。生まれ持った才能の差とは驚くほどに残酷なもので、この年齢にしてそれに苦しむというのは、それだけ彼女が真面目に取り組んできた証でもあった。


「私は、最強の剣士になりたい! このザストゥーラ帝国で、いや、世界で! 最強の、強くてカッコいい剣士になりたい! なりたかった! ……でも、ダメなんです。無理なんです。だって、ビャクにすら勝てなくて、最強なんて……夢物語でしかないじゃないですか! あの日、あんなに憧れた、私の英雄像が、脆くて儚い、ただの妄想でしかなかったなんて! そこに向かってガムシャラに努力し続けてきたなんて! そんなの! 私はただの馬鹿じゃないですか!!!」

「そんなわけ、」

「こんなことなら、最強になんて憧れなきゃ良かった! もっと普通の女の子として、甘いものを食べて、可愛い服を着て、王子様に憧れていればよかった。……剣術なんて、始めなければ良かったんだ!」


 ランリの行動原理は『憧れ』ということになるのだろうか。

 理想の存在、理想の自分。そんなもの、いつになろうとたどり着けるはずがない。努力すればするほど理想は上がっていき、苦しいハードルを乗り越える必要があり……永遠にそれは終わらない。


 ザクザクと土の上を歩き、体育座りのままうつむくランリに近づく。


「じゃあランリはさ、今まで自分が努力してきたものが全部無駄だったと、そう思ってるのか?」

「そんなことは……ない、です」

「じゃあ、それで良くね? なんかお前、求めすぎなんだよ色々と。言っとくけどなぁ、努力したところで結果が出ないなんてザラなんだよ。俺なんか闘気を使おうと二年間頑張ったけど結局無理だったんだぜ! まあなんかちょっと事件が起きてそれから使えるようになったけど……『闘気を使う』っていう目的だけ考えたら、その二年間は間違いなく、遠回りだった。結果にはつながってなかった!」

「……?」


 顔を上げる。

 弱気な表情。あれだけ優れた剣技を持つ人物とは思えないほどだ。


「でも、俺はその二年間、無駄だって思ったことは一度もないぜ。なぜなら! 闘気を使おうと試行錯誤した結果、身についた技能がたーーーくさんあるからだ! 焦った時に呼吸を落ち着かせるのだってそうだ。自分の中の『気』を感じ取ろうとして大量に失敗を重ねたけど、それが今に全部生きてる! 成功だけじゃねえ、失敗も今の『俺』を形づくる大事な経験なんだ!」

「……!」


 目を見開くランリに向かって言ってやる。

 剣奴上がりの根性舐めんなよ!


「ランリ! お前には夢があるんだろ? そのために努力してきたんだろ? なら、それを誇れよ! 自分を否定するな! ……そんな悲しそうな顔すんなよ! 積み上げてきたもの全てに意味があるなんて、そんなことは言わないけどさ。でも、たくさん悩んで、回り道して、絶望して、不貞腐れて、ぐっすり眠って、いっぱい飯を食べて! みんな、そんなもんだ! そういうことの繰り返しで、だんだん成長してくんだろ! ……自分で自分の限界作ってどうする。ランリが一番ランリを信じてやらなくて、どうするんだよ」

「私が、私を……」

「俺だって『最強』目指してるけど、それだけが目的なんじゃない。強くなること、それ自体を楽しんでる!」


 俺は折れた木の上にピョンと跳び乗った。


「『結果だけ求めるな。過程を楽しめ!』。これが、俺がお前に送る言葉だ。覚えとけ!」


 闇雲に結果だけを求めると、しんどい。

 結果を出すためには努力する必要があり、努力するのは大変だからだ。せっかくそれを乗り越えたのに成果が出なければ、人の心なんて容易く折れるだろう。

 だから、結果だけを求めてはいけないのだ。


 山登りをする人は、頂上から見る景色だけを楽しみにしているのか? 違うだろう。

 辛く険しい山だからこそ、その道中も楽しむ必要がある。


 ランリは立ち上がると、落ち着いた声で言う。


「……不甲斐ないところをお見せしました。今見たものは、誰にも言わないでくださいね? 私も、あなたが森林破壊をしているのは黙っておきますから」

「ああ、頼むぜ。あと森林破壊してたわけじゃねえからな。それが目的みたいな表現するなよ?」

「ふふっ」


 どうやら元気を取り戻したらしい。良いことだ。


「剣術大会、楽しみにしていますよ」


 ランリはそう言い残し、去っていった。

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