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6)王家の食卓にご招待(強制)されました

 第二王子は明らかに策士の類だった。

 でなくば今キャロラインの前に、この悪夢のような現実は存在していないはずである。


(どこでしくった、どこでバレた!? ……いやそうか馬車よ、晩のうちに手配しておいたのを察知されて、そこから動きを読まれたんだ……! なんなわけ第二王子のこの粘着っぷりは……てか足止めしたいからってわざわざ王子自ら足を運ぶ必要あった!? そこは使者でもよこしてなんなりと呼び出せば十分でしょ。……つまり自分から足を運ぶくらい本気だって見せつけてこっちを牽制したかったわけよね、あーわかるわかる、わかってしまう自分がすごくイヤッ! そんなに必死ならいっそ室内に乗り込んできてくれたら良かったのに! いきなり女性の部屋に踏み込むなんてサイテー!とかなんとか捲し立てて突っぱねてどさくさに紛れて逃げられたかもしれないのに! ……ええそうね、そんな下手は打たないでしょうねこの男はっ!)


 模範的令嬢スマイルの裏側で脳内を高速撹拌しているキャロラインの目前には、なんたることか、王家の食卓があった。


 長大な方形の卓の、向かって左の長辺には澄まし顔の第二王子と眠たげに目をこする第三王子。右の長辺には、浮かない顔つきの第一王子と据わった目つきの王妃。

 そして、下座に座るキャロラインの正面、上座には、いかめしい壮年の男性……


 すなわち、国王。


(……なんでこうなった!? 本当に、どうして、こうなったわけ……!?)


 こんなロイヤルな面々の前では、おおっぴらに頭も抱えられない。


 キャロラインは貼り付けた笑顔のまま、諸悪の根源たる第二王子を極寒の眼差しで凝視してやったが、第二王子は軽く肩をそびやかし一笑に付しやがった。


「ずいぶんと仲のおよろしいこと」


 ……今のやりとりを見てどうしてその結論になるのか。この子にしてこの母ありということか。

 という残念な本音はおくびにも出さず、キャロラインはささっと第二王子から視線をはずした。確かに、実態が外づらだけの笑顔であっても、傍から見れば親密に微笑みあっているように見えなくもない仕草だったかもしれない。いかんいかん。


 そんなわけで王妃に視線を移せば、こちらはえらくご機嫌斜めのご様子。吊り上がった目で第二王子を睨みつけている。


「でも少しうかつではなくて、ブラッドリー。今はまだ婚約者の選定期間なのに、誰かを特別扱いしてはいらぬ誤解を生みかねなくてよ」


 しかし受けて立つ第二王子は相変わらずの涼しい顔。


「私はそれでもかまいませんよ、母上。王位を継ぐ予定のない身軽な次男坊ですから、気軽に相手を決めてしまっても大した問題ではないでしょう?」


「な……っ」

(なんってこと言うのこのアホ王子ぃぃぃッ!!)


 絶句する王妃の言葉を引き継いでキャロラインは心の中で絶叫する。この状況を既成事実のように使われるのはなんぼなんでも横暴だ。


 しかし当の王子からは反論を封じるような鋭い視線を返された。

 いちいち含みのある男だ。キャロラインは舌打ちしたいのを堪えて、素早く今の会話の内容を精査する。


 王妃は、第二王子が婚約者を持つことに強い警戒感を抱いているように見える。


 それが「第一王子たんがなんでも一番じゃなきゃイヤっ」というクソ親ムーブ……もとい親バカ心からくるものだとしても、ここで早さを争うことにさしたる意味はない。

 婚約者が本決まりするのは、早くとも茶会の全日程を終えた後のはず。それを待たずに誰か一人へ傾倒する姿を見せるのは勇み足だ。価値があるのは諸々吟味されたのちの正式発表であり、どの王子が先に決まったかというのは発表時期を前後させるだけでどうとでもなる。王妃もこのあたりの計算は働くタイプだろう。


 にも関わらず、王妃の態度はやけに悔しそう……いや、過剰に焦っているように見える。

 焦っている……この段階で?


 王妃の目的は第一王子の王位継承であるはず。

 焦るということはそれが危ういのか……この段階で?


(まだ何も決まってないってのに、どんだけなのよ……)


 わずかの失点でも危うい状態、ということになる。

 だからこその侯爵家の力をフル活用した第一王子ポジティブキャンペーンだったとしたら。

 ……王妃の寵愛があって、侯爵家の全面バックアップがあって、弟王子より遥かに恵まれていて、二十一にもなって、立太子されていない第一王子とは。


 キャロラインは正面に座す国王の様子を密かに窺った。


 王は第二王子に連行されてきたキャロラインの同席を鷹揚に歓迎したきり、黙念と食事を口に運んでいる。卓上の話題に一切関心がないようにも見えるが……あるいは、何食わぬ顔であらゆる情報に耳をそばだてているのかもしれない。

 この王が、三人もの息子に恵まれていながら未だ後継者を定めていない、その心境というものを、キャロラインは初めて慮ってしまった。

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