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21)先頭走者の勝利

「さて、理解してもらえたかな。俺の身辺が今いかに清められているか」


 第一王子のキラキラ笑顔に匹敵するイイ笑顔でのたまう第二王子。

 若干覚悟めいたものを宿していたキャロラインの顔も、一気に引きつらざるを得ない。そういえばまだ手を握られたままである……


 つまりまとめると話はこうだ。


 第一王子は愛に生きることを決意し、継承権を返上して西の隣国へと去った。

 キャロラインの小細工によって、西に向かったとてお目当ての令嬢は見つかりようもない。もし第一王子が自力で正解にたどり着けたとしても、その頃には辺境伯もなにがしかの手を打って第一王子を例の令嬢に近づかせないことだろう。

 いっそ東の国で良い人と結婚してしまうのが彼女の幸せかもしれない。王子に恋心を自覚させてしまったことが後ろめたくて策を弄しまくったキャロラインとしても、そうあってくれればとても喜ばしい。

 第一王子が恋破れて国に帰っても、後ろ盾だった王妃も侯爵もあてにはならないから、前のような好き勝手もできまい。

 遅れてきた初恋に徒労を費やし、その高貴な血をもってしても手に入らないものがあることを思い知る。

 その挫折こそが第一王子にとっての罰ならば、まあ相応なのではないかと思う。彼も王妃の被害者であるという側面を、辺境伯はしっかり斟酌したのだろう。


 王妃は行方が知れない。身柄はおそらく辺境伯が握っている。許された第一王子とは逆に、王妃は元凶の一人と見做されたのだろう。

 どんな扱いをされているのかは不明だが、おそらく身体には傷一つつけられずに幽閉されている可能性が高い。要人の身柄は手駒として有用だ。

 次に表舞台に立たされた時にこそ、断罪はきっちりくだされるのだろう。


 そして王妃の実父である侯爵は、どうやら辺境伯に完全包囲されているようだ。むべなるかな。彼もまた元凶の一人なのだから。

 領内で働いていた不正のツケと、周辺諸領からの静かな締め付けのダブルパンチで、身動き取れない状況にあると見える。加えて王妃の行方不明とあっては心労も大きかろう。もちろん、国政に口を出す余裕などない。

 彼もまた、このまま順調に力を削ぎ落とされていくのは目に見えている。

 それでもなお未来の王の祖父であることには変わりないが、第一王子はすでに王権争いから脱落。今後執政を担うことになる弟王子たちは、王妃と侯爵から一方的に突きつけられた確執を名分にして距離を置くだろう。自由にできる手駒はいない。


 かくて障害となる主要人物が取り除かれ、第一王子の意志のもと、継承権返上は為された。

 王家は確かに身綺麗になったのだ。


 さて、考えてみよう。

 第一王子が継承権を失った。

 ……王位継承権の第一位は、果たして誰に移るのか?


 ──反射的に身を引きかけたキャロラインを、第二王子はしっかり手を握ったまま逃さない。


「ちなみに君の身元照会に関してはすべて王家が預かったまま、返答を留保している」


「うっ」


 うめき声が漏れるのを止められないキャロライン。そうだった。不埒な求婚者ことロリコン親父たち。その対処についてが本題だったのだ。


「しかし相手もそれなりの地位や身分だ。いらぬ波風を立てぬためにも、いつまでも待たせるわけにはいかない」


「ひゃい……」


「それに、あまり待たせすぎると、焦れて実力行使に出る浅はかな手合いが現れないとも限らない」


「ひぇっ」


「だが……」


 さっきから意味のない奇声しか口にできていないキャロラインを、魅惑的な笑顔と深い青の瞳がじっと見つめている。


「我が国の王太子の婚約者だ、という大義名分があれば、彼らも手を引かざるを得ないと思うのだが……どうだろう?」


 ──権力で守ってやるから俺の女になれ。


 古来よりロマンスと呼ばれる形態の物語のうち何割かの本質を突いた、よくよく考えたら全然嬉しくないけど超絶断りづらい口説き文句を、少しばかり婉曲にはしてあるもののろくな衣も着せずにいけしゃあしゃあと。


(このっ……この男、この男は……! 絶対わかってるくせに……! もぉぉぉなんでなんでなんでなんでなんでッ!!)


 心の中で散々地団駄踏みながら睨みつけてやれば、第二王子の整った顔がくしゃりと破顔した。

 先に逃げたのは君だろう、と。


「君は俺に、愛を囁くことを許すべきだ」


 ──腰から砕けるかと思った。


 なんとか、なんとか意地で踏ん張り、それでもぷるぷると涙目で震えながら、怒りとそれ以外にも色々混ざりに混ざった顔を真っ赤に染めて、子供っぽくいじけてそっぽを向いて、口を尖らせながら。

 そうしてやっと、キャロラインは答えた。


「……謹んで、お受けいたします」


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