18)継承権返上ってそんな簡単にしていいもんなの!?
……しかし。しかしだ。
まだたったの三ヶ月だ。
「……この三ヶ月で、すべて解決……?」
キャロラインがおそるおそる訊ね返せば、第二王子の首はあっさりと縦に振られた。
「君も当事者だからな、詳細を知る権利がある」
「えっ、いえ当事者では……」
「知りたいだろう?」
王家のお家騒動に巻き込まれるのを警戒して反射的に返すと、イイ笑顔で押し切られた。実際、知りたいというのはそのとおりで、咄嗟に否定を返しきれない。ここにきてキャロラインもお疲れ気味で、対応に精彩を欠いている。
それをわかってやっているのが、第二王子という男である。
「兄上がかの令嬢の面影を追って西の隣国に向かったのはもう話したと思うが。これが、本来継承権を持つ王子に許される行動ではないことには気づいているか?」
言われて初めて、キャロラインははっと息を呑んだ。
確かに、侯爵家の権勢が背後にあろうとも、通常ではありえない所業だ。国内でなら多少の放蕩は目をつぶってもらえるだろうが、私的に出国するとなるとかなり難しい問題になる。今回の場合は動機も動機だから、普通にやっていては許可も下りまい。むしろ侯爵家が止めろという話である。
その辺りの調整は、典範なり法令なりの解釈を曲げてつぎはぎして適当につじつまを合わせてどうにか実現したのだろうと無意識に翻訳していたのだが……あえてこう言うということは。
(──母上の出方は想像がつくし、兄上の運用方針も定まった)
かつて聞いた、第二王子の不穏な証言がここにきてフラッシュバックする。
あの時すでに、示唆されていた可能性。
「まさか……」
第一王子が煩雑な手続きをすっ飛ばして好き勝手に国外で動き回れる身軽さを手に入れる、比較的難度の低い最短コース。
それを思いついてしまった瞬間、血の気が音を立てて退いていくのを、キャロラインは感じた。
それでもやっぱり、現実と第二王子は容赦がない。
「そう、兄上は王位継承権を放棄されたよ」
投下された爆弾は、本日最大級の威力だった。




