17)不埒な求婚者の先頭走者
「さて……この不埒きわまる求婚者たちだが、伯爵家だけで対応できる目処はつきそうかな?」
至極もっともな第二王子の問いかけに、キャロラインはハッと我に返って怒りの震えを止めた。
リストアップされた面々は、かなり高位の貴族が多い。そうでない者にしても一財産抱え込んでいる富豪の類ばかり。金と権力でたいがいの不可能を可能にしてしまう手合いだ。
だからこそ、家格や政略を念頭に置かない趣味全開の嫁(愛人)探しなんてものをやってる余裕があるわけで。
(……まずいんじゃないのこれ)
先程までとは種類の違う冷や汗が噴き出てくる。
シモンズ家は良くも悪くも平凡な伯爵家だ。人脈もそこそこあるので他国の貴族にそうそう好きにはさせないだろうが、限界はある。わりと手前に。
例えばこの求婚者たちが一斉に行動を開始したり、あまつさえ手を組んだりして、金に物を言わせた搦め手で迫ってきたりしたら……
果たして、キャロラインとシモンズ家に跳ね除けられるのか。
頭の中の自問自答にだらだらと汗が止まらない。どうシミュレーションしても、最悪の結末ばかりが思考を持っていく。
連中にとってははした金でできる遊興でも、キャロラインにとっては人生最大の試練。ここで一歩間違えればその後の全人生をドブに捨てる羽目に──
「一人で悩まなくていい」
手を、温かい体温に包まれている。思いのほか男らしい、熱いくらいの手のひらに。
心臓をぎゅっと掴まれたような思いで、キャロラインは顔を上げた。
目の前には熱を帯びた、深い青の瞳。
……だが、いらんことに、その口元にはたちのよろしくない笑みが浮かんでいる。
「身辺をしっかりと清めてきた男も、ここにいることだしな」
「──は」
聞かなかったことにしたい文言が聞こえた気がする。
中途半端な姿勢で停止してしまったキャロラインをくすくすと笑い、第二王子は甘く囁く。
「君の懸念はすべて片付けてきた。これで俺も、晴れてキャロライン・シモンズの求婚者の列に並ぶことができるわけだ。……ここが列の先頭で間違いないだろう?」
少しばかりフランクで、思いのほか男らしい響きの口説き文句に、散々前後左右に揺さぶられて混乱をきたした理性がまともに仕事をせず、雌の本能がたてた「トゥンク」という無責任な音を、キャロラインは確かに聞いてしまったのだった。




