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【短編1056文字】少女の話・B 『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

作者: ツネワタ

カクヨムにも掲載中

 東の小さな国に我儘なひとりぼっちの姫がおりました。まだ幼い少女でした。


 ある日、城下町で姫は国の外から来た吟遊詩人シュピールマンの唄を耳にしました。


 彼女は彼にその心を掴まれてしまいました。彼の唄に聞き惚れてしまったのです。


 しかし困った。姫に親はおりません。友も持ちません。故に『愛し方』を知りません。



「私が欲しいなら口説いて御覧なさい」と吟遊詩人は言いました。



 だけど彼女は吟遊詩人に命令しか出来ませんでした。命令以外を知らないのだから。



「『愛してる』と言いなさい」親のいない姫が言いました。

 吟遊詩人と姫は初対面です。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。



「『あなたの傍に居ます』と言いなさい」友を持たない姫が言いました。

 吟遊詩人は旅ばかりの根無し草です。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。



「『自分は姫だけのモノです』と言いなさい」独占欲の強い姫が言いました。

 吟遊詩人は自由を愛する者です。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。



「『あなたはかわいそう』と言いなさい」誰にも本音を語れない姫が言いました。

 吟遊詩人は憐れみを嫌う者です。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。



「『十分あなたはがんばった』と言いなさい」褒められたことのない姫が言いました。



 吟遊詩人は半端な励ましを嫌います。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。

「『あなたは独りじゃない』と言いなさい」生まれてからずっと孤独の姫が言いました。



 吟遊詩人は孤独こそを美徳とします。そんな言葉には聞く耳を持ちませんでした。

「『あなたが誰よりも大切だ』と…… 言いな、さい」姫が泣きながら言いました。



 すると、自分の周りに人だかりが出来ていることに姫が気づきました。


 集まった国民たちは姫が望んでいる言葉を彼女に優しく掛けてあげました。



「まるで口説かれている様な素敵な唄でしたよ、私たちのお姫様」と誰かに言われました。



 どうやら姫は一人道の真ん中で往来に唄を語り聞かせていたようです。


 吟遊詩人の姿はありませんでした。確かにさっきまで彼と話していたハズなのに。

 周囲の者に聞いても「誰も居ませんでしたよ」ということです。




 数年後、王政が廃止されて姫は姫でなくなりました。




 しかし、彼女はそれでも国民を愛し、国民から愛され続けました。

 今でも彼女は思い出します。彼の顔を。彼の唄を。そして、彼の言葉を。




 さらに数年後、彼女は傭兵と結婚して娘を授かりました。




 今は別の国で静かに暮らしています。

 

 あの吟遊詩人はもしかすると、人の形をした《言葉》そのものだったのかもしれません。

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