4-3 錬金術とお祭り
走った。走って街の細い道を抜け、それからジョシュアを避けて逃げ込んだ先は街の裏通りだった。
はあはあ。はあ……。
さっきの……あの人。
若い男の人、なんであんな、なんだか私を知っていたような?でも、誰だったかわからない。
ただ、思い出そうにもその記憶は断片も出てこなかった。
「何か私に言いかけていたけど……知っている人だったのかな」
ジョシュアにもらわれる前は教会ですごしていたし、それ以前なら人付き合いも多少あった。
すごく小さい頃の記憶は曖昧、もしかしたら、その頃に会っていた誰かかも知れない。
ふうと息をついて、それから周りを見わたすと、そこには薄汚れた街並みがあった。
裏通りはあまり治安がよくない。
それは知っていた。教会にいたときはなるべく関わらないことを言われていた。
それを思いだし、グリーンリリーを探す。
「リリー、どこにいるの?」
少し声を出してみるがすぐに止めた。気味の悪い雰囲気が周りにあったから。
ジョシュアたちがいるかもしれないから元来た道には戻れない。裏通りをやみくもに進んで何とか大通りに出られないか。でも、ここはどこだろう。わからない。
しばらく歩くと、戦争の名残がある場所についてしまった。
未だに壊されたままの家がある貧民の住むエリア。明らかに街の裏、その奥の方に歩みを進めてしまっていた。
そこには路上に座り込む人の姿や、ボロを着た人が藁を敷いて寝ている姿、虚ろな目をした人が何人もいた。教会は孤児を救って、こういった人々にご飯を提供したりしている。けれども、絶対数が多過ぎて全部を救えていない。
中には犯罪に手を染めていて教会に関われない者もいる。
「――やっと見つけたぞ」
びっくりして振り返ると、そこにはグリーンリリーが立っていた。
「リリー。良かった」
「迷子になりおって。逃げんでもよいのに」
「ごめんなさい」
「んーまあ、説明しておけばよかったか。スカーよ、その仮面を着けている間は、お主側から呼び掛けんと誰もお主を気に止めぬのじゃ」
「え?」
「じゃから逃げんでも、奴等はお主を見つけられなんだ」
はっとした。
だから、こんな危ない通りをこれほど目立つ格好で歩いても誰にも呼び止められなかった。
「そっか、それで誰も」
「そういうことじゃ。ところで、ここは裏街というところかの」
「うん。戦争で壊されたままの貧民街」
改めてしばらく街の裏の姿を見つめた。
「……リリー」
「なんじゃ?」
「さっき、自分ばっかり不幸だと思うって」
「そうじゃな」
「でも、もっとつらく悲しい人もいるよね」
「……うむ」
「誰が一番つらいなんて、きっと全部嘘なのね」
「うむ」
見渡せば、自分こそ一番の不幸者であると言わんばかりの顔が並んでいた。
誰も彼も絶望しているように見えた。
それは今の、そしていつかの自分の姿のようだった。
「自らの道を諦めるとこうなるのじゃ」
「道を諦める……」
「運が悪かった者、出会いに恵まれなかった者、自らで自らを貶めた罪人……背景は皆違うじゃろうが、結果は似たようなものじゃな」
「この人達は救えないの?」
「救えない、とも限らぬ。ただ、スカーにはその力はまだなかろう。余裕が出来たら救えるじゃろうが」
「……そうだね」
グリーンリリーの手をとった。
「リリー。もっと錬金術を教えて。私、頑張るから」
「それでよい。それがよい」
グリーンリリーと共にそこをあとにした。
そしてその後は、街の大通りに戻ったスカーレットとグリーンリリーは存分にお祭りを楽しんだ。スカーレットが笑顔を向ければ、グリーンリリーも、そして行き交う人もちゃんと返してくれた。そうして夜は更けていくのだった……。
……ログハウスに帰るともう夜も遅かった。明日の納品のために一日浪費する必要はもうない。
「明日はもっと頑張ろう。そうして、きっといつか、皆を幸せにできる錬金術師になるんだ」
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