43-2 その名はいずれ「銀環の舞姫」
インフルエンザにかかって一時倒れていました。更新遅れすみません。。
ツカサは腰を抜かして尻もちをついた。その先にカガリの刀は変わらずまっすぐと狙いを定めている。
「――若様!」
後ろからタダカツ、ヨイチ…味方の家臣達が飛び込んできた。無事に作戦は進行している。
そして、私たちはツカサを見据えていた。
「貴様のたくらみは承知している!太陽と戦争を誘発させてその隙に主家を入れ替える算段だったのだろう!だが、すでに太陽もその企みには気づいている!」
「……」
「洗いざらい話してもらう!」
――え?
その時、なぜかツカサの口元が緩んだ気がした。
「勝った気でいるのか?」
「!?」
上?
ツカサが一瞬上を見た。そこを見たときには、何かの魔法がカガリに飛んできているところだった。もう彼の頭のすぐそば――ずいぶんその瞬間だけ時間が引き延ばされたように感じた。
気付くと私は彼を突き飛ばしていた。魔法の射線にいた彼に変わって私が――
「――アイリ!?」
聖力を展開する時間はなかった。効果のわからない魔法は私を直撃していた。
そのとき空気が切れるような音が聞こえる。
「くそ!間者を?!」
「ばかめ!」
ツカサは立ち上がっていた。全員がその奇襲攻撃で不意を突かれ、動けなくなったところを逃げる――そのつもり。けれど次の瞬間、私の回し蹴りが彼の後頭部を捉えて打倒していた。
「大丈夫なのか?」
「……はい」
「あの一瞬の間に聖力で無効化したのか?」
私は首を横に振った。
たぶん「エンジュの円環」の効果、右手に着けたこの魔法道具が敵の魔法を吸収したのだと思う。聖力の展開は間に合っていなかった。
円環を見ると、ただの木のブレスレッドだったそこに小さな花が一つ咲いていた。
魔法を吸収したから?
「本当にカオル様の生き写しのようでございます」
「とにかくこれで目標のツカサを確保できた。ヨイチ、縛り上げたうえで尋問をすぐに開始してくれ」
「御意」
天井裏に潜んでいた間者はどこかに消えていた。でも、肝心のツカサを確保できたからあとは彼から太陽の国にいる裏切者も聞き出せればいい――
――ヨイチによるツカサの尋問。それによって太陽の国の裏切り者が分かった。
それは家臣の一人でコガ・イチゲン。
コガ家はトクカー家の家臣の一つであって軍を束ねる立場にある。トクカー家に次いで力を持っている家でイチゲンはその当主。
それが分かるとすぐにカガリが鷹を飛ばしユリにその事実を伝えることに。
これがうまくいけば戦争は回避されてこれ以上の被害は出なくなる。
「すべて間に合うといいのですが」
鷹が飛んで行った空を二人で見ていた。
「大丈夫だろう」
「……そうですね」
「アイリ、俺は一瞬君から目を離しただけだったような気がするんだがずいぶん変わった」
「そう、でしょうか」
カガリはまっすぐと私を見つめていた。
役立たずだと思っていた自分――何事も上手くこなせなかった自分に自信を持つことができなかった。それがいままでだった。
……出来ることがこんなにも多いと次に進むところがわかる。わかると不安がない。
きっとそれが、ずっと私に必要だった。
「……そうですね」
* * *
鷹は空を駆けていた。その足には真実を伝えるための手紙を結んで。
その鷹がユリの肩にとまり、カガリからの手紙を受け取った。隣にいるカズマサにその手紙を渡す。
「……イチゲン……!」
「すぐに行動が必要です」
鷹は再び空に戻った。
世界樹に向けて飛び上がり、空を覆いつくすその樹冠に向かった。
眼下には太陽と月の国、エルフの里がある島国。そこには日守聖域がただ一つのダンジョン、樹海が北側に広がり、今はモンスターを封じる結界に囲われていた。
日守聖域に立つ謎の石碑は全部で五つ、それが五芒星を描くように立っているのが見えている。
その真ん中でエマはアリスを待っていた。もう少しすれば大陸から彼女が合流することになる。そうなればとりあえずこの石碑については破壊することができるだろう。
私はゆっくりと目を開き、千里眼を閉じた。
今、この島で起こっていることは単に政治的な、あるいは革命を求める者達による単なる闘争なのだろうか。いや。この石碑を扱える者がただの人だとは思えなかった。
「……うーむ」
ただの国家間の戦争か内乱であれば賢者の立場として関わるべきではない。
しかし、そうではなく世界を壊そうという動きであるならば、己の仕事として対処する必要があるだろう。
「何者かがいる。それも、人外の何か」
黒竜が席巻し、その後賢者不在の間に世界は崩壊していた。それの原因はわからないがただの人々にできる範疇ではないだろう。
明らかに目的をもって「破壊」が行われてきた歴史がある。そして、今のこの島だけではなく、世界中がきな臭い。そんな感覚があった。
「……女神は、何を考えているのか」
自分が復活したこと、黒竜と融合していたこと、そして世界中にまき散らされた自分のコレクション。これらすべてが偶然なのだろうか。
私に世界を回らせたい、まるでその意思があるようではないか。
「世界の混乱を求める者がいる」
そう考えたほうが自然だ。
胡坐をかいて再び両目を瞑って、そして千里眼を開いた。
まだ私にもわかっていないことがある。そして、それはおそらく誰かが秘密にしたいことだ。
*****
ご覧いただきありがとうございました。
ぜひお気に入り登録をお願いします。また、いいねなどいただけると励みになります。
賢者の角灯はこれで終わりで次の章に入ります。
次の章は少し作成を進めてからまとめて投稿することにしたいと思います。
そのため更新はいったん停止させてください。