43-1 その名はいずれ「銀環の舞姫」
私はそうしてカガリの属する部隊に配置されることとなった。
十二人ごとに隊長を定めるようにした軍団がオダ家の配下によって構成されて、今動き出した。目指すのは、西方にあるオダ分家の領地の一つでツカサがそこにいる。
すぐさま準備を進めて深夜。三日月が真上にあった。
「行くぞ!」
「「おー!」」
「爺は屋敷で待っていても――」
「何度断られようと譲れませんぞ!」
同行する兵として爺と呼ばれていたタダカツと片眼鏡のヨイチが加わっていた。
騎馬兵もあったけれど馬は全員分がない。私は願い出て徒歩でオダ分家の領地を目指し走り出していた。カガリも隣を走っている。
『聖力の使い方はもう大丈夫よね?』
私の頭の中には聖力の正しい使い方が備わっていた。あとは実践で使えるかどうかだけ。
聖力で血液を生み出し増やし全身にいきわたらせる。次々に酸素を聖力によって肺の中で作り出すとどこまでも走り続けることができる。
そうやってカガリの隣を何の苦も無く走り続けていた。
「いつの間に聖力の使い方を――」
風切り音を聞きながらカガリの疑問を受け流して走り続けた。
――月明かりの中、カガリ率いる軍団は一気に歩を進めて敵陣の姿を捉えた。
「見えたぞ!あちらも攻めるための準備を進めていたか!」
異様な数の篝火が見えてきた。
敵側も戦闘準備を進めていたようだった。おそらくは太陽と月の戦闘開始後、両国後ろからそれぞれ謀反を起こして当主家を襲う、そのために。
「ユリ様の鷹の連絡が間に合って太陽と開戦していなければ良いですが」
ヨイチが隣で唸った。彼は馬に乗って隣を走っていた。
「あるいは二人が間に合うかもしれない」
「そうですな」
「こっちはこっちのすべきことをする!確実に首謀者を生かして捕らえて全貌を把握すれば無駄な血は流れず済むだろう。俺達にかかっているぞ!気を引き締めろ!」
兵士たちの士気を上げるとカガリは抜刀の姿勢で突き進む。
私も体温を上げていく。
「――なんだ?!」
「あれは!カガリだ!生きていたぞ!」
「迎え撃て!」
敵もすぐに事態に気づいたのか、準備していた武力をこちらにすぐさま向けてきた。
「ツカサ以外は斬って捨てろ!降伏する者は拘束しろ!」
「は!」
ヨイチが先行する。馬を駆けて前に出ると、その馬を乗り捨てて敵軍にいち早く突っ込んでいった。月夜に彼の太刀が翻るのが見えて、それから敵兵の一人が斬られて倒れた。
「さすがでございますな!拙者もまいりますぞ!」
タダカツは長槍を一回頭の上で回してから突っ込んでいった。瞬きする間に一人の敵の体に槍を突き刺していた。
「敵兵は他に任せて俺たちは本陣に突っ込んでツカサを探す!」
「はい!」
カガリと共に敵陣に突っ込んだ。
本陣には、準備をしていた敵兵が見えた。すぐに武器を手に取ってこちらに向かってくるたくさんの敵。それを躱して後ろの味方に任せ、私たちは屋敷に突入する。
気付いた。私達が早すぎて他はついてこれていなかった。でも、敵方が準備万端だったため迅速さが求められることはカガリもすぐに考えたのだろう。
待たずに二人だけでも突撃した。もしかしたら、私のことを信頼してくれているのかもしれない。
次々に敵兵が現れるけれど速力を上げて戦わずに進んだ。
大きな屋敷が見えてくる。
「ツカサの屋敷だ!まだあそこにいればいいが」
屋敷の正門に二人の門番。
「っ!」
カガリの刀が二回光って二人がそこに倒れた。神速の剣は聖力をまとっていて敵の魔法による防護ごと斬り捨てる。彼の剣技が魔物を簡単に両断していたのは聖力をまとっていたから。今ならそれが分かった。
屋敷の正門の裏に入ると私はすぐに振り返った。両手を地面に付けて聖力を流し込んだ。
グオン!という音と共に正門を地面から飛び出させた大岩で閉じた。これで追っ手は簡単には中に入れない。
「!」
「行きましょう!」
「あ、ああ!」
屋敷に入ると玄関奥から三人、後ろから庭に出ていたのだろう敵が三人――挟まれる。
「カガリ様は正面を!」
――アイリ、まずは全体を見て自らの視界を広く持ちなさい――
振り返った先の三人を見据えた。一人目がすぐに近づいてきていた。その間合いに入る。同時に残る二人にも広く視界を持っていた。
「女が!」
振り下ろされた敵の刀に左手のメリケンサックを打ち込み受けて、それから同時に聖力を流した。
ドオン!という大きな音と共に拳鍔から爆薬が作り出されて正面に吹き出し爆発していた。敵の刀が粉砕される。
半身を捻じって渾身の回し蹴りを男の脇腹に打ち込む。確かな手ごたえがあって吹き飛ばした。
「一人目!」
「くそ!なんだ今のは?!」
――間合いを制しなさい――
驚いている敵兵一人にすぐに詰め寄った。縮地の歩みで一気に間合いを詰める。目の前に敵の顔があった。
「うわ!」
「ふっ!」
敵の腹部、急所のみぞおちに下から拳を突き上げるようにして打ち込むと、彼は九の字になって転がった。
――敵の視線を制しなさい――
三人目、その目の前に左手を突き出すと爆炎を作り出して視界を奪った。
「くそ!」
すばやく彼の視界の外に回る。
「どこに――」
三人目の背中に回りながら、両手を結んで全身の体重をかけるように肘打ちを敵の背中に打ち込んだ。右ひじは敵の背中にめり込んでいた。その次には膝から崩れ落ちる敵の姿があった。
「……その動き、聖拳か」
カガリを見れば同じく三人を斬って倒していた。
「はい。母に教わっていました。祖母の、カオル様の技です」
聖力の使い方が分からず今まで使いこなせていなかったけれど。今の私なら使いこなせる。
打ち込むと同時に聖力によって敵の魔力を消し去り、エルフの戦士なら皆やっている身体強化の魔法を無効化して一撃を完全な形で打ち込む打撃技。それが聖拳の本来の力。
今なら……あの時倒せなかった蜘蛛の魔物も倒せる!
ぐっと引き締めた。
「行きましょう!」
「……おう!」
屋敷の奥に二人で長い廊下を進む。
目の前のふすまが開いて敵が現れるも、カガリがすぐに刀を翻して消していく。
そしてついに。扉の一つをカガリが蹴破るとそこに。
「くそ!生きていたのか?!」
「ああ。何とかな」
ツカサがそこにいた。屋敷の一番奥の部屋。そこには彼の兵も五人控えていた。
ツカサを守るようにその敵兵が前に出てくる。三人は刀を構えているが、残り二人は後ろで魔法陣を展開していた。
「俺たちに魔法は通用しないぞ」
「やれ!」
先制に二人の魔法が、火炎が襲ってきた。それを軽く振ったカガリの刀が斬り、消してしまった。聖力をまとう刀なら魔法を斬ることができる。
「無駄だ」
再び二人が魔法を使った。今度は味方の三人に強化魔法をかけたようだった。その三人も魔法で刀に魔力をまとわせていた。刀が不気味な光を放っている。
「やれ!」
ツカサの号令に三人が飛び出してきた。
カガリの刀が一人二人と斬り進め、私の聖拳が残りの一人を捉えていた。ほぼ同時に三人を片付けて二人で前に出ていた。敵二人が気付くころにはその間合いに入っていて、次の瞬間には床にその二人も転がり、あっという間に残すはツカサだけになっていた。
「……あ」
そして、カガリの刀の切っ先がツカサに向けられていた。彼の眉間の目の前にそれがある。
「終わりだ」
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