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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
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41 そして動き始める

 * * *


 宇宙、つまり世界はいくつか存在する。


 その呼び名を人からつけたものを使うのであれば「天界」や「魔界」という名前がある。この二つの世界は特に人に影響を与え関与が強い。あとは「聖霊界」も人に認知されている。


 ここでいう人とは、とある宇宙のとある星に暮らす者達のことだ。知能はある程度、そして、何より魔力を作り出せる魂を持つ。エネルギー媒介として精霊にも似ているが大きく違う存在。


 ティターニアは定例のその会議に出席するため、とある世界の片隅に来ていた。天界でも魔界でもない世界の一つ。その会議の場は屋外庭園の中心にある円卓。庭園には虹色に光るバラが壁を作って円形の空間を演出していた。

 空には岩がいくつか浮かび、紫と青のオーロラが浮かんでいる。太陽や月は存在しないが明るい。


「さて、何をしようとしているのか聞かせてもらえる?」


 イライラしていた。円卓の椅子に座るなり<奴>を睨み付けた。


「説明など不要でしょうがそうですね」


 <奴>はうーんと唸ってから、ぽんと手を叩いた。


「天気が悪かったからです!そうです、それを理由としましょう!」

「相変わらずめちゃくちゃだな」


 先に隣に座っていた<黒い影>が呆れてため息をついた。


「説明はいならいだろう。いつものイベントの一つにすぎない。この会議はそれを議論するためではない。報告がまず先ではないかね?」


 <議長>がそう声をかけてきた。

 一度咳払いしてから口を開く。


「大崩壊後、百数十年あまりで人口はある程度戻りつつあるわ。ダンジョンに潜る冒険者の数も比例して増えている。当然、前期比大きくプラス」

「女神の使徒を介した活動は?」

「適宜やってるわよ。使徒候補にちょっかい出してくる奴がいなければ」


 <奴>とその隣を見た。


「横槍ではなく協力ですよ」

「時に刺激がなければいけないから我らがいるのだろう。それにしても賢者はどうしたんだ……」

「賢者……死んでなかったんでございますね。害虫かなにかでしょうか?ああ、褒め言葉ですよ?」

「彼……彼女は『賢者』の域の外にあると考えた方が正しいと思うわ」

「もはや君の手の内にはないと?」

「おそらくはあたしやあんた達と変わらないほどの力をつけている。その気になればここにも乗り込んでくることもできるでしょう」


 議長の隣に座っていた<光る者>が唸った。


「それは…人の側にこちらを御せる者が現れたとなるとこれまでのようにはコントロール出来なくなるのではないのですか?」

「彼女がその気になれば今からでもそうなるわ。でも、目的は達することは出来るから問題ではないと思ってる」

「……まあ、確かに」


 <議長>はそういいながら、事前にあたしが渡していた資料を眺めていた。


「……あの世界はかき回しませんと腐ります。人とはそういうものでしょう?」

「まだちょっかい出す気?」


 <奴>は驚いたようなリアクションを大げさにして見せた。


「そんなとんでもない!ただ、わたくしは『波乱』というスパイスをあの世界に添えて、より生産性を増しているのです。時に大きく動いた方が活性化するでしょう?彼らもそういうのを求めているのです!」

「……別の商売はじめないでよ」

「そんなことは――」

「二人とも止めよ。動き方はそれぞれだ。目的が達せられれば良い。そうだろう」

「確かに。それで、結論としては?」

「賢者にしてもこれからにしても、今まで通りでいいということだろう。ただ、今後の活動に賢者が大きな影響とはなる。重要なのは賢者を上手く利用し、かつ、彼女が余計なことに目を向けないようにすることだろう」


 立ち上がった。


「報告と確認は以上でしょ?もう帰るわ」

「ティターニア」

「何?」

「『女神』としての役割を改めて確認する必要はあるか?」


 ……相変わらず面倒な……。


「必要はないわよ」

「ならばよい」


 ――天界に戻ってきた。そして、自室の机の前に座る。


「……さて」


 折り畳まれていたデバイスを開いた。


「ルーカス、いや、今はエマか。さて、どうしようか」


 ふうとため息をつき、それから天井を仰ぎ見た。ぐいっと椅子に座ったまま伸びをする。自然とあくびも出た。


「ま、なるようになるでしょ!」


 デバイスを通して確認すると、アイリが眠りについたことが分かった。


「さてと」


 聖力に関する事項をデバイスから読みだして、それを彼女の頭の中にダウンロードしていく。多少の悪夢を見せてしまっているかもしれないけれど我慢してもらうしかない。


「――ティターニア様」

「ん?」


 ラジエルが部屋に入ってきた。頭の上に浮かぶ金色のリングが相変わらずせわしなく揺れていた。


「使徒候補についてエルドアに情報が回りましたよ」

「教皇ちゃんに?」

「はい。それで、アイリのほかにもう一人の聖人についての情報も」

「それで、そのもう一人が問題なんでしょ?」

「そうなんですよ。あいつらの横やりでダメにされちゃったみたいで」


 教会がオリビアの存在に気づく少し前にこちらも彼女の存在を把握していた。同時に、<奴>による干渉も。

 面倒なことに大人になるまで教会が探しきれなかった聖人。その貴重な彼女を我々より先に<奴>が見つけ出し、そして利用し始めていた。我々は出し抜かれていた。


「何であいつはあっちに自由に行くことが許されているんですか?不公平ですよ。こっちは人に召喚されない限り行けないのに」

「……役割りの違いだから仕方がないと思うしかない」


 今は。


「オリビアの件はとりあえず教会に任せるしかない。何とかこちら側に戻せればいいけれど。それから、使徒にはアイリになってもらう」


 アイリの存在は僥倖だった。聖人は珍しい。それが同時期に二人も存在してくれていたのは幸運だったし、エマと出会ってカオルに渡せなかった通信機が彼女の手に渡っていたことはさらなる幸運だった。


 神様に感謝しないとって、神はあたしか。


「それで聖力の使い方を無理やり頭につっこんでいるんですか」

「そういうこと」


 長年不在だったために女神としての業務ができなかったが、あとは彼女が教会に行ってポジションを獲得すればいろいろと進めることができる土台ができる。


「それからラジエルは準備をしておいてね」

「え?」

「……賢者のことは聞いているでしょ?」

「賢者?えっと、突然変異して復活していた件ですか?」

「そう。なんかわからんけど進化してた件ね。たぶん黒竜を取り込んだんだと思う」

「全部ティターニア様の計画の通りだったんですか?」

「まさか。あんなの知らないわよ。全部偶然」

「それで、何の準備をしておけばいいんですか?」

「召喚に備えておいてほしいのよ。次の次ぐらいのフェーズではあなたたちにあちらで活動してもらうから」

「ついに、ですか」

「そういうこと」


 失われていた使徒を復活させ、あちらの足掛かりを得られれば計画を前に進めることができるだろう。そのうえで新しい賢者、エマの登場で他の連中を気にせずこれらを進められるかもしれない。


 そのためにまず、アイリを英雄へプロデュースするのだ。

*****

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