表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
79/85

39 変わる自分

『言い方厳しいかもだけど自分でやらないといけないことだから。でも、あとで落ち着いたら次のことをやっておいてほしいのよ』

「アイリ、見えてきたぞ」

「え?あ、はい!」


 カガリの指さすほうを見ると、いつの間にやら国境に抜け出る道の最後が見えていた。そこは裏道を行った先、洞窟のようになっている小川の入り口だった。

 国境に位置するこの町は農耕の町で、いくつかの小川が町中を流れていた。そのうち、主に排水を流している小川があって、それは途中から洞窟に潜り込み暗渠のようになっていた。人がギリギリは入れるぐらいの大きさで雨が降らない間は中を通ることができる。そして、小川の出口は月の国側の海につながっていた。


 その暗渠の入り口。


「地図によれば一本道だ。中は暗く前が見えないだろうが、壁に手をついて進めばいずれは外に出られるとある」

「はい!」


 入り口は狭くて水が流れ込んでいて怖い。意を決してカガリに続いて中に入った。


『……大変そうね。とにかく続けるわよ。聖職者の冠を頭に着けてほしいわけ。寝る前とか安静にできるタイミングでお願いね』


 暗渠の中、足元を水が流れているけれど雨が少なかったからか歩きにくいというほどではなかった。真っ暗な中でぎりぎりカガリの背中が見えていた。


『そうしたらアイリの頭の中に聖力の使い方を叩き込めるから』

「え?!」

「どうした?!」

「すみません、なんでもありません」

「?」


『本当なら月の国で修業を積んでっていう流れなんだろうけど時間がないから、すぐにでも使えるようになってもらって敵をぶん殴ってもらうわ』


 ……ぶん殴る……。


『聖力には大きく二つの効果があるの。一つは魔力の打ち消し効果よ。聖力は魔力とは逆の位相の周波数を持っているから、二つの力がぶつかると相殺されて消滅する。だから聖力はそのままぶつければ魔力を打ち消すことができる』


 魔力を消せる?


 ……思い出した。本家に乗り込んだ時にリョカの魔法を、腕をつかむだけでカガリが消し去っていた。


『もう一つの効果が存在化。魔力が力を作り出すエネルギーだとすると、聖力は存在を作り出すエネルギーなの。魔法で水を作ることができても水流であって水そのものではないのに対して、聖力で水を作ると本当に飲める生活用水になるって感じかな。これは大きな違いで、一度存在化させれば魔力で打ち消されることはない。結果として聖力のほうが魔力より影響力があるといえる』


 何もできない力ではない……。


『最後に、重要なのは今の話を他の者に言ってはいけないということ』


 それでエマ様は知らないのですね。でも、カガリ様や月の国では知っていることのようですが。


『エルフ族のところには一定間隔で聖人が生まれるからね』


 ……もしかして、聞こえていますか?


『もちろん。え?何?』


 ………。


『話を戻すけど、冠は頭に装備した状態ならより多くの情報を送れる。アイリがそれをつけて寝てくれればその間に今話した聖力の使い方を頭に突っ込んで、百年以上の訓練を受けた状態にできる。聖力の真なる使い手に一晩で変えるから、あとはちゃちゃっと全部の敵を倒せば解決ってわけ。じゃ、そういうことで』


 カキン!


 正面に薄明かりが見えてきた。日は暮れていても洞窟内よりは明るい。川の流れる音に紛れて、波音も遠くに聞こえてきていた。


「出口だな」

「……はい」

「どうした?」

「いえ、なんでもありません」


 ふう。

 自然とため息が漏れてしまった。どうやら通信は切れているようで声が聞こえる様子はなかった。


 目の前には海が広がり月が浮いていた。地図の通りであれば月の国側の海岸。


「集合場所の岩場は……あれか」


 海岸を少し行った先に、岩がいくつか転がっていてそれが月光に影を作っている場所があった。そこに向かって歩みを進めた。


 海は戦争のことなんて知らないので、とても穏やかな波を砂浜に打ち上げては引いていく。その横を二人で歩いていた。


「大丈夫か?」

「はい、すみません。少し、あの、疲れてしまいました」

「……アイリ、君も聖人であると聞いたときは俺も驚いていたんだ」

「……」

「そして同時に、魔力がないことを理解されない環境で生きてきた君の生い立ちを想像していた」


 歩きながら横を歩くカガリの顔を見た。


 ずっと無能と言われてきた私に突然女神様まで役割りを与えてきた。冠を頭に着けて寝て起きたら、さらに自分が変わっているのかもしれない。


 そう思うと少し怖くなってきた。気づけばあっという間に世界がひっくり返っていた。


「俺とシドウ殿とサシで話し合ったときのことだ。当然、戦争をいかに回避すべきか。それを話し合っていた。俺が人質となって月の国の現状を誰かに確認してもらう案、ほかにもいろいろと話したが実はカズマサ殿を交えるまで結論は出せなかったんだ」

「父上は頑固ですからね」

「ああ。平行線になってしまって、それで他のことも話していた」

「他のことですか?」


 横を歩くカガリを見た。


「アイリのことだ」

「私…」

「聖人についてシドウ殿は知らない。太陽と月に分かれたとき、聖人を輩出する家はすべて月側に来ていて、それら家は秘匿していたから知らなくて当然なんだ」


 女神様の意向。


「だが、知らないことで不幸になっていると思った。アイリも、そして、シドウ殿やカズマサ殿も」


 父上と兄様も不幸に?


「人の価値はその人が仕事をして証明するしかない。たぶんそれはどこでも同じだ。そして、人によってできることは違っていて、できることが評価される土台がない中での価値の証明は難しいだろう」

「……はい」

「アイリには魔力はないが聖力がある。そのことを知らなければ評価のしようもなかった」


 そう。私はいらない子供だった。いらない子供になってしまっていた。


「だから、俺はシドウ殿に話した。月の国では聖力の使い方が秘密裏に伝わっていること、俺が聖人であること、そして聖力は魔力を超える潜在力があること」

「秘密では?」

「聖人の家族であれば問題ないと判断したんだ。ただ、それでも最初はやはり受け入れきれない様子だった」


 シドウは今まで私を無能だと考えていたのだから、突然そんな話は受け入れられなかったとしても不思議はない。


「その後カズマサ殿も加わって改めて話すと…彼は柔軟だった…アイリを人質役として月の国に連れていくアイデアはカズマサ殿によるものだったんだ」


 兄様が?


「どうして…」

「カズマサ殿がシドウ殿に提案したのは、月の国の縁者であれば無下にしにくく、そのうえで太陽の国の縁者でもあるアイリは単なる人質役としてだけではなく両国をつなげる役目も負えるだろうということだった」


 母が月の国出身で、父が太陽の国出身だから。


「そして、おそらく裏の意図としては、聖人に理解のある月の国のほうが評価されやすい、アイリが生きやすいと思ったんじゃないだろうか」


 兄様が私を想って……?


「俺はカズマサ殿にも聖力について説明した時、アイリに力があること知って安堵しているように見えた」

「……」

「まあ、真意はわからないが。俺にはそういう意図があるように感じた」

「魔力がない私は嫌われているのだと思っていました」

「どうだろう。少なくとも嫌っているようには感じなかった」


 兄様……。


 ぼんやり岩場を見つめながら、そこに向けて歩みを進めていた。するとその陰から彼の姿が現れた。暗渠を行くより早く着いていたようだった。


 カズマサの顔が月明りのもとに出てきて、そして私を見つめてきた。


「待たせた」

「問題なかったか?」

「ああ」

「……」

「アイリ、どうした?」

「いえ、すみません。大丈夫です」


 今、カズマサを見つめ続けると涙が出そうな気がして下を向いていた。どう彼と向き合えばいいかわからなくなっていた。


「それで、ここから先は俺の出番でいいんだな」

「ああ。月の国側のことはカガリ殿のほうが詳しいだろう。順番としてはまず月の国側を片付けることだ」


 カガリは頷いた。


 ……頭を切り替えないといけない。私は私にできることをして、そして、自分を見つけるのだ。

*****

ご覧いただきありがとうございました。

ぜひお気に入り登録をお願いします。また、いいねなどいただけると励みになります。

明日の更新は間に合わないかもしれません。すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ